第45話 恋人の家族と会うのは緊張する
〈綾乃視点〉
「今日は少し天気が悪いな……」
教室から窓の外を見ながら呟く。今朝の天気予報ではただの曇りって感じだったけど、なんか今にも雨が降ってきそうっていうか。
一応折りたたみの傘は持って来てる……というか、置き傘みたいな感じで生徒会室に置いてるから大丈夫なんだけど。
それにしても、ずいぶん急な話だったな。
チラリと水沢君と話してる零斗の方を見る。
その話は今朝、いつものように零斗と一緒に登校してる時にされた。
内容自体は単純だ。今日の放課後時間があったら妹に会って欲しい。ただそれだけだ。
なんでも昨日妹の菫さんから私と会ってみたいってお願いされたらしい。
まぁ別に会うこと自体は構わない。というか部活連合の会議前に会ってみようかみたいな話はしてたし。むしろ本当ならこっちから声をかけるべきだったのかもしれない。
ただなんていうかこう、零斗の妹だって思うと若干気後れしてたというか緊張しちゃったというか。
外での振る舞いには気をつけてるから、嫌われてるってことはないと思うんだけど。
「で、でも零斗の妹か……なんか今から緊張するかも」
別にまだ何があったってわけでもないのにドキドキする。下手したら部活連合の会議を前にした時よりも緊張してるかもしれない。
な、何話せばいいんだろ。昼休みの間に茶菓子でも用意しとくべきかな。あぁもう、もっと早くにわかってたらちゃんと事前に用意できたのに。
「……なんて、恨み言言ってもしょうがないかぁ」
「おっはー綾乃」
「あ、おはよう更紗。あれ? 今日はいずみは一緒じゃないの?」
「いずみは図書室に寄ってから来るからちょっと遅れるってさ」
「そうなんだ」
「ん? ん~?」
「ど、どうしたの?」
「そのヘアアクセどうしたの? 昨日まではつけてなかったじゃん」
「っ!」
更紗の指摘に思わずドキッとする。更紗が言ってるのはもちろん昨日零斗がくれた髪飾りのことだ。今まで普通の飾り気のない髪留めなんかは使うことあったけど、こういうおしゃれな奴は使ったことが無かったから。
オレの反応を見た更紗が何かを察したようにニヤニヤと笑う。
「もしかしてそれ……白峰君からもらったの?」
「……うん」
「いいじゃんいいじゃん♪ 綾乃にばっちり似合ってるし、二人が順調みたいで何よりだよ」
「もうっ、からかわないで!」
「別にからかってるつもりはないんだけど。あたし本気で順調で良かったなーって思ってるし。その様子だと昨日の放課後デートは楽しめたんだ」
「それは……うん。すごく楽しかった」
「うわ……綾乃、その顔はエロ。あたし思わずドキッとしちゃった。そういう顔は白峰君にだけ見せた方が良いんじゃない?」
「エ、エロい顔って何!? なんで更紗が顔赤くしてるの! わ、私どんな顔してたの?」
自分の顔を触って見ても表情はわからない。オレ今どんな顔してたんだ?
急にそんなこと言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
「コホンッ。まぁデート話は後でいずみが来てから一緒に聞かせてもらうとしてさ。綾乃、何か悩んでるでしょ」
「え? どうしてわかったの?」
「そりゃだって綾乃の友達だし。で、今度はなに? あたしに話せる内容だったら聞いてあげるけど」
更紗に相談……確かにありかも。更紗は久瀬君と付き合ってるわけだし。そういう経験はオレよりもずっと豊富なはずだ。
「えっと、それじゃあちょっと聞きたいんだけど。実はね、今日の放課後に零斗の妹さんと会うことになったの」
「あー、そういえば白峰君って妹がいるって話だっけ。一年生なんでしょ?」
「うん。それでその……どうしたらいいかなって思って」
「? どうしたらって何が?」
「だからほら、零斗の家族なわけでしょ。できるだけ好印象を与えたいというか。そのためにはどうしたらいいかなーと思って」
「なるほど。確かにそれは緊張するかもね」
「更紗は久瀬君のご家族と会う時緊張したりした?」
「透の? いやいやないない。だってあたしと透って幼なじみだし。おばさん達はあたしが幼稚園の頃から知ってるわけだからさ。まぁでも付き合う報告する時はちょっと緊張したけど、でもそこまでって感じだったかな」
「そっか。幼なじみだから……いいなぁ」
「なんでも知られてるってのはそれはそれで恥ずかしいけどね。あたしの子供の頃のこととかも知られちゃってるわけだし。取り繕いようがないというかさ。でも、綾乃は綾乃のままで大丈夫だと思うよ」
「私のままで?」
「うん。今のままでも綾乃は十分魅力的だから。もっと自分に自信もってさ。大丈夫、きっと仲良くなれるから!」
「だといいんだけど……」
更紗がオレのことを魅力的だって言ってくれるのはもちろん嬉しい。
でも、それはあくまで『私』の話だ。普通の人が相手なら『私』のままでいいんだと思う。
だけど菫さんは他ならぬ零斗の妹だ。この先も長い付き合いになるかもしれないのに、『私』っていう偽りのまま接してしまっていいものか。
零斗が受け入れてくれたオレを彼女にも晒すべきなのか。わからない。
どれも正解な気がするし、どれも間違いな気がする。いや正解も間違いもないのかもしれない。
結局いくら悩んでも答えは出そうになかった。
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