第38話 可愛いキャラを選ぶのはギルティ

〈綾乃視点〉

 

 結局あれから色々と店に寄ってたせいで、目的地だったゲームセンターに着くまでにかなりの時間がかかった。

 こうやってまともにデートみたいなことをしたのは初めてだったからテンション上げすぎたかもしれない。零斗は文句言わずに付き合ってくれたけど、呆れてないよね。

 まるで子供みたいにはしゃいでしまった。結局オレの見たい場所ばっかり行っちゃったけど、零斗も楽しんでくれてるかな? そうだといいんだけど。

 

「ねぇ零斗」

「どうした?」

「私は零斗のおかげで今すごく楽しいんだけど、零斗は楽しんでくれてる? 私ばっかり楽しんでない?」

「なんだよ急に。俺も普通に楽しんでるぞ。というか、楽しそうにしてるお前を見てるのが面白くて楽しい」

「なにそれ」

「ホントのことなんだから仕方無いだろ」

「いや、だとしても臆面もなくそういうこと言われるとさすがに恥ずかしいというか。なんか零斗性格変わった? 前はそんな恥ずかしいこと言うタイプじゃなかったのに」

「まぁそうだけど。誰かさんが言わなきゃ不安になるかもしれないからな」

「うぐっ……なんか意地悪な言い方……」

「ははっ、でも思ったことは素直に言うべきだろ。別に隠すようなことじゃないし」

「そうだけど……」


 でもオレは全然零斗みたいなこと言えない。好きとか、そういうのを言うのはやっぱりまだ恥ずかしくて。ちゃんと言えるようにならなきゃとは思ってるけど。

 零斗が言ってくれるの恥ずかしいけど嬉しい。でもオレはあの告白の時以来それを伝えられてない。

 

「っと、やっとゲームセンターに着いたか」

「へぇ、思ったよりも大きなゲームセンターだね」

「あぁ。音ゲーからレースゲーム、メダルゲームにUFOキャッチャーまで、まぁぶっちゃけなんでもあるな。ゲームセンターの規模としては国内有数らしいぞ」

「家庭用のゲーム機がいっぱいあるのに、わざわざゲームセンターまで来る人いるんだね」


 ちなみにオレは家庭用ゲーム機派だ。別にゲームセンターが嫌だってわけじゃないけど、わざわざ足を運んでまでゲームをしようとは思わない。まぁ確かに家じゃできないようなゲームがいっぱいあるのは確かだけど。


「綾乃はゲームセンターって苦手なのか?」

「苦手ってわけじゃないけど。ずっと居るのはしんどいかも。音とか大きすぎるのはちょっとね」

「あー、音か。確かにゲームセンターって慣れてないとうるさいかもな。慣れるとそこまで気にならないんだが」

「そうかな。だといいんだけど」


 そんな話をしながらゲームセンターの中へと入る。正直かなり久しぶりだ。最後にゲームセンターに行ったのなんていつの話だろうってレベル。一瞬騒がしさに顔を顰めそうになったけど、次の瞬間には音のことなんて忘れてしまった。それ以上にオレが知らないようなゲーム機に目を惹かれたからだ。

 もちろんオレが行ってた頃にあったゲーム機なんかもたくさんあった。それもなんか新しい感じに綺麗になってたけど。


「ねぇ零斗、あれなに?」

「ん、あぁ。ロボットのゲーム機だな。ほら、有名なアニメシリーズのやつ。あの卵型の機械の中にコックピットみたいなのがあってな。実際に乗ってる感覚で遊べるってやつだ」

「へぇ、今はそんなのがあるんだ。すごいね」

「やってみたいか?」

「ううん。ちょっと興味はあるけど。それより零斗と一緒にゲームしたいし。いつも水沢君とやってるのはどのゲームなの?」

「あれだよ。あの格闘ゲーム。名前くらいは知ってるんじゃないか?」

「『ホームファイター5』って、確かに名前は知ってるかも。ホムファイって呼ばれてるやつだよね」

「そうそう。結構昔からあるゲームのナンバリング作品。最強の家事マスターを決めるため、骨身を削って戦い合うゲームだ」

「……最強の家事マスターを決めるために戦い合うって、よく考えたら謎な設定だよね」

「まぁそこは突っ込まないのがお約束ってな。設定うんぬんはともかく、格闘ゲームとしてはかなりの完成度だし面白いぞ」

「人気だから5まで続いてるんだろうしね。やってみるか?」

「えっと、『貝乱闘大戦』とかはやったことあるんだけど、初めてでもできる?」

「問題ないだろ。操作方法は教えてやるから」

「それなら……ちょっとやってみようかな」


 零斗に言われるがままホムファイの筐体の前に座る。家庭用ゲーム機でも同じゲームが出てるけど、そもそも格闘ゲームってあんまりやったことないんだよなぁ。どっちかっていうとRPGとかが好きだし。

 それにこの……なんだっけ、アーケードコントローラーっていうのも敬遠してきた理由だ。ボタンがいっぱいあってやりにくそうだし。

 零斗と水沢君がやってるっていうからちょっとやってみたいと思ったけど、まぁ正直オレがハマることはないだろうな。

 さぁて、じゃあまずはキャラを選んでっと。へぇ、結構キャラ多いんだ。可愛いキャラからカッコいいキャラまで。うーん、悩むなぁ。

 性能なんかわからないし、好きなキャラ選ぼうと思ったんだけどこんだけ多いとさすがに迷う。


「ねぇ、零斗はいつもどれ使ってるの?」

「俺か? 俺はいつもはこのキャラだな」

「メイドキャラ……ふーん、ずいぶん可愛いキャラ使ってるんだね」

「いや、このキャラは可愛いから使ってるとかじゃないぞ」

「じー……」

「俺は大味なキャラよりテクニカルなキャラが好きで、その意味でこのキャラは多彩なコンボが魅力的なんだ」

「で、本音は?」

「キャラの可愛さに一目惚れして使ってました」

「ギルティ」

「せめて情状酌量を!」

「ダメです。最初から素直に言えば考えたけどコンボキャラうんぬんとか誤魔化そうとしたのは罪深いです。しっかりと反省してください。あ、このキャラいいかも」


 オレが目を付けたのは厳つい男キャラ。ヤクザみたいな見た目だけど専業主夫って設定らしい。うん、見た目もなかなか好みだ。こういう男らしいキャラは好きだ。


「武蔵か。完全パワータイプのキャラだな。そいつでいいのか?」

「うん、このキャラにする」

「よしそれじゃあ始めるか。俺の華麗なコンボを魅せてやるよ」

「こっちは初心者なんだから優しく教えてよね」


 

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