第24話 特別な存在
〈零斗視点〉
あれから二日が経った。そう。あの綾乃に告白した日からだ。
告白したあの日、初めて生徒会の仕事までサボったわけなんだが……特に誰からも連絡が無かったのは綾乃が何かしてくれたのか、それとも俺がいてもいなくても変わらないからなのか。
まぁそれは今どうでもいい。問題は綾乃のことだ。あれから一切連絡が取れてないまま、気づけば金曜日になった。
どんな顔して会えばいいのかと思ってたんだが、それすらも杞憂になったわけだ。今まで休んだことがない綾乃が休んだことにクラスメイト達も心配してたんだが、先生曰く休んだ理由は体調不良だそうだ。それで昨日も今日も休んだと。
それが真実かどうかは別として……いや、たとえ真実だとしても休んだ理由の一端は確実に俺なんだろうな。
「早まったかなぁ。いやでも、あのタイミングを逃したら一生言えなかっただろうしな」
などと今更若干後悔しても時すでに遅し。やってしまったことは変えられない。それに、もしやり直せたとしても俺は同じことをするだろう。
「なにぶつぶつ言ってるんだよ零斗」
「あ、戻って来たのか」
「戻ってきたのかじゃねぇよ。人が昼飯買って帰ってきたらなんか不気味にぶつぶつ呟いてるし。もしかして桜小路さんのことか?」
「っ」
「だよなぁ。わかるわかる。おれも心配だし。他の奴らも心配してるしな。だって桜小路さん今まで休んだことなかっただろ? 早く良くなるといいよな」
「あぁ、そうだな」
一瞬俺が綾乃に告白したことがバレたんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたけど、そうだよな。司が知ってるわけない。というか他の誰かが知ってるわけないんだ。あの場には他に誰もいなかったし。綾乃の性格的に言いふらしたりするわけないしな。
「っと、そういや午後一体育だったよな。さっさと食って準備しようぜ」
「あぁそうだな」
「ねぇ、ちょっといいかな」
不意に声がかけられる。すると、そこに居たのは綾乃の友達の藤原さんと秋本さんだった。
「お、なになに藤原さんと秋本さんじゃん。良かったら一緒に昼飯食う?」
「あー、ごめんね。水沢君。あたし達が用あるのって白峰君だからさ。ちょっと今時間あるかな? そんなに時間取らせないから」
これは……俺に拒否権はないんだろうな。
内容もだいたい察しはつくけど……仕方ない、行くしかないか。
「わかった。悪い司、ちょっと行ってくる」
「え? あ、おい零斗!」
「先に食べといてくれ」
困惑してる司を置いて、藤原さんの後について行く。俺とこの二人にほとんど関わりがない。共通してるのは綾乃の友達ってことくらいだ。だから、たぶん……いや、十中八九綾乃関連の話なんだろうな。
そうして連れてこられたのは空き教室。他の人に話を聞かれないための配慮だろう。
「で、時間も無いし早速本題に入らせてもらうけど。まぁわざわざここに白峰君だけ呼んだって時点で何の話かはわかってるだろうけどさ」
「まぁさすがにな。綾乃のことだろ」
「うん、綾乃ちゃん。今日も体調不良で休んでるでしょ? でも今まで綾乃ちゃんが体調崩したことなんて無かったし、何かあったんじゃないかってわたし達思ってて」
「もちろんただ体調崩してるだけって可能性はあるけど、あたし達が連絡しても返してくれないし、既読すらつかないし。これはさすがに何かあったんじゃないかって思ってさ。ちょうどその何か、に思い当たることがあったしさ」
二人の言う何か。それは間違いなく二日前の告白のことだろう。二人も知ってるってことは、綾乃が話してたのか。
「で、ぶっちゃけた話何があったわけ? あの日白峰君告白されたんでしょ?」
「直球だな。まぁでもそうだな。確かにあの日俺は告白されたよ」
「もしかしてだけど……その告白を受け入れた、なんてことないよね?」
ジトっとした目で藤原さんが見てくる。隣にいる秋本さんはオドオドしながら俺と藤原さんの間で視線を右往左往させていた。
「いや、告白は……断ったよ。その子には悪いけど、俺には好きな奴がいたからな。そんな状態で他の人の告白受けたりするわけがない。その子にも不誠実だしな」
「まぁ白峰君はそういう人だよね。万が一があるかと思ったりしたけど、さすがに無かったか。でもじゃあどうして……」
「白峰君は思い当たることとかないかな? わたし達、すごく心配で。こんなこと初めてだから」
「思い当たること……」
むしろ思い当たることしかないんだが。それをこの二人に話すかどうか……。
告白したなんてことは言いふらすようなことじゃない。だけどこの二人は綾乃の友達だ。綾乃のことを心配する気持ちもわかる。
それに、俺自身あのタイミングで告白したのが良かったのか悪かったのか気になるしな。
いっそ相談してみるか。
「なぁ、二人とも。ちょっといいか?」
そして俺は二日前にあったことについて説明した。俺が告白をされたこと、それを綾乃が見ていたこと、そして告白を断った後に流れで綾乃に告白をしていしまったことを。
最初は真剣に話を聞いていてくれた二人だったが、俺が綾乃に告白したことを知った途端に藤原さんは頭を抱え、秋本さんは顔を真っ赤にしながらも目をキラキラと輝かせ始めた。
「なんでその流れで告白しちゃうのかなぁ」
「し、白峰君、綾乃ちゃんに告白したんだ……」
「やっぱりマズかった……か?」
「マズいというか、タイミング悪すぎでしょ。もうちょっと場所とかムードとかさ、あるじゃん色々と」
「それは俺も思ったけど、でもあそこで言わなきゃ一生言えないと思ったんだよ」
「ね、ねぇ。それで綾乃ちゃんはなんて?」
「いや、それは聞いてない」
「「聞いてない?」」
「さすがに告白したのが急だったから、考える時間くらいはいるかと思ったんだよ」
「逃げたんだ」
「逃げちゃったんだ……」
「ぐっ……」
二人の呆れたような、冷たい目が突き刺さる。
「し、仕方ないだろ。俺だって告白するのなんて初めてだったんだ。あの時は俺もテンパってたし……色々いっぱいいっぱいだったんだよ!」
「まぁその気持ちもわかるけどさ。でももうちょっと綾乃の気持ちも考えてあげてよ」
「それは……悪かったと思ってる」
「でも綾乃ちゃん、いつもは告白されても休んだことなんて無かったのに……やっぱり白峰君だからなのかな」
「? どういうことだ」
「どういうこともそういうこともないでしょ。あたしらから言うのもなんだけど、綾乃にとってそれだけ白峰君が特別だってこと。前に二人が話してるところチラッと見たことあるけど、綾乃があんなに楽しそうに笑ってるのなんて見たことなかったし」
「そうだね。白峰君のことをどう思ってるかまではわからないけど、特別に思ってるのは間違いないと思う」
「……こうなったら、あれしかないかな」
しばらく何かを考えているかのような顔をしていた藤原さんだったが、突然ビシッと俺に向かって指を差して言った。
「白峰君、今日の放課後、綾乃の家に行ってきて!」
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