第6話  綾乃の友人達

〈綾乃視点〉


 生徒会室で一通りの雑務を終えたオレは教室に向かっていた。

 二年生の教室は三階にある。生徒会室からはそんなに遠い場所にあるわけじゃない。

 でもちょっと来るの早すぎたかな。一仕事終わってもまだ授業まで結構時間がある。


「おはよう」

「あ、おはよう桜小路さん」

「おはー」


 教室の扉を開けて挨拶するとチラホラと挨拶が返って来る。

 うん、思ったより多いな。いつももう少し後に来てるからわからなかったけど、みんなこの時間にはもう来てるのか。

 朝の時間の過ごし方はそれぞれだ。勉強してる人、友達と話してる人、本を読んでる人、スマホをいじってる人もいる。

 まだ二年生になって間もないから教室の感覚にちょっと慣れない。教室の形は一年生の頃と同じはずなのにここまで違和感があるのはやっぱり顔ぶれが変わってたりするせいなのかな。

 一年生の頃から一緒の人はもう壁もほとんどないけど、二年生で初めて一緒になった人は生徒会長って肩書に気圧されてるのか、どこか遠慮気味だ。別に敬遠されてるわけじゃないからいいけどさ。

 まぁまだ二年生になったばかりだし、その辺りはこれからだな。

 

「今日は……あ、そっか、実力テストだったっけ。なるほど、だからこんなに勉強してる生徒が多いんだ」


 いつもに比べて勉強してる生徒が多い気がしてたけど、今日が実力テストだっていうなら納得だ。少しでもいい点数を取りたいんだろう。


「綾乃、おはよ~」

「ひゃんっ!」


 急に後ろから胸を揉まれて変な声が出る。

 慌てて口を押えて周囲の様子を確認するけど、幸いこっちを見てる人はいなかった。気付かれた? いや、気付かれなかったと信じよう。

 それからすぐに胸を触る手を掴んで無理やり引きはがす。こんなことをする奴は一人しかいない。


「更紗! いきなり何するの!」


 藤原更紗。一年生の時からの友達だ。若干軽いというかギャルっぽい子。髪もばっちり綺麗に染めてセットしてる。

 悪い子じゃない……悪い子ではないんだけど……。


「あはは、ごめんごめん。でもすっごくいい声だったよ!」

「いい声だった、じゃないでしょ! もう、びっくりしたじゃない」

「ごめんってば。うーん、それにしてもさ」

「どうしたの?」


 ワキワキと手を動かしながら何かの感触を思い出すように目を閉じる。


「胸大きくなった?」

「だからもう、そういうこと言わないで!」


 思わず胸を隠す。確かに最近ブラジャーがちょっときつくなっては来てるけど……ってそうじゃなくて!

 あぁもう、こういう所さえなければ普通にいい子なのに。


「そんな睨まないでよ。別に大きくなるのは悪いことじゃないでしょ」

「そうだけど。そうじゃなくて……あー、もう。急には止めてよね」

「つまり事前に報告すればオッケー?」

「そうじゃないからっ」


 まったく更紗はいつもいつも……。


「おはよう綾乃ちゃん、更紗ちゃん」

「あ、いずみじゃん。おはー」

「おはよういずみ」


 声をかけてきたのは秋元いずみ。更紗と一緒で一年生の頃からの友達。

 更紗とは真逆の大人しい系の子だ。でも胸の主張だけは大人しくない。


「二人ともどうしたの? 喧嘩しちゃダメだよ」

「別に喧嘩はしてないんだけどね」

「そーそー、あたしら仲良し!」

「どさくさに紛れて胸に触ろうとしない」

「あいたっ!」


 胸を触ろうと近づいてきた手を弾き落とす。

 全くもう。そんなに触りたいなら自分の触ればいいのに。


「いずみ~、綾乃がイジメる。なぐさめてー」

「え? え?」

「ぐへへへ、いいではないかいいではないかぁ」

「ん、あっ、ちょっと、更紗ちゃん……あっ……」


 全く遠慮せずにいずみの胸を揉みしだく更紗。

 エロい……滅茶苦茶エロい。更紗の揉むリズムに合わせて自由自在に形を変化させるいずみの胸。触らずともわかるその柔らかさ。なんという胸、いやおっぱい。全人類の夢と希望が詰まってる。

 じゃなくて!


「止めなさい更紗。いずみが困ってるでしょ。それにほら……」

「あ……」


 少し騒ぎ過ぎたせいで周囲の目がこっちに向いてる。騒ぎ過ぎたというか、変幻自在に形を変えるいずみの魅惑のおっぱいに注目してるってのが正しいけど。

 さすがにマズいと思ったのか更紗がバツの悪そうな顔をしていずみの胸から手を離す。


「ごめん、ちょっとやりすぎたかも」

「調子に乗り過ぎよ更紗。加減を考えて」

「まぁまぁ、わたしなら平気だから」

「いずみは優しすぎるのよ。たまにはちゃんと言わないと」


 正直ちょっとオレも触ってみたいと思ったのは秘密だ。 

 生徒会長がそんなことしたら大問題だからな。


「ごめんねいずみ~。ちょっと嬉しくてテンション上がっちゃってたんだよねぇ」

「次から気を付けてくれればいいよ。それに更紗ちゃんが嬉しくてテンション上がる気持ちもわかるし」

「嬉しくてテンションが上がるって……どうして? 何かあったの?」

「そんなのもちろん決まってんじゃん」

「ふふ、だよね」

「?」


 え、もしかしてオレだけわかってない感じか?


「ホントにわかってないの?」

「えっと……」


 ダメだ。何も思いつかない。

 更紗に何かいいことあったのか? でもそれだといずみまで嬉しがってる理由がわからないし……。

 オレが本気でわからないって顔をしてると、いずみがその答えを教えてくれた。


「あのね、私と更紗ちゃんは、また三人で一緒のクラスになれたことを喜んでるの」

「あ……」

「そーいうこと。もしかして綾乃は違った感じ?」

「そんなことない! そんなこと……私も、私だって……二人と一緒のクラスになれて嬉しい」


 更紗もいずみも、この学園に来て初めてできた友達だ。そしてオレにとっては女になってから初めてできた友達でもある。

 その意味でこの二人はオレにとって零斗と同じくらい大切な人だ。


「今の顔いただき!」

「あっ、なに写真撮ってるのっ」

「だって綾乃の照れ顔なんて珍しいし。これは永久保存決定だね」

「すぐ消しなさい!」

「やだもんねー」

「ふふふっ」


 そしてまた言い合いを始めるオレと更紗のことを、いずみが優しい目で見つめ続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る