第1話 青年・田原早一漏は異世界で下ネタを叫ぶ

「起きてください、勇者様」


んん?なんか心地よい声が聞こえるな。


「いいかげんに起きていただけないでしょうか・・・」


うーん、やわらかいものに顔が包まれて幸せだぁ。


「ゆ、勇者様、じつは起きてるんじゃないですよね?ちょっと手の動きが卑猥なんですけど!?」


なぜか抗いがたい誘惑を振り払い、僕は目を開ける。


目の前には声のイメージと違わない抜群なスタイルの美女の紅い顔があり、そして自分は倒れ掛かるように女を組み敷いていた。


えっ、どうして顔しか見えないのに抜群なスタイルであることが分かるのかって?人間には視覚のほかにもしょっか、、、ゲフンゲフン。


とにかくまずは現状把握だ。ヒジョーに残念ではあるが泣く泣くこの美女から体を離すことにした。


周囲に目を向けるとこの女のほかには人はおらず、どことなくギリシアっぽいデザインの石造りの部屋で、床にはいかにも召喚陣という感じの模様が描かれている。


「えっ、ここどこ!?」


先ほどまで自分は、同じ下宿先の友人と銭湯に来ていたはずだ。


そうだ、そしてちょうど服を脱いだところで友人のイタズラに気づいたのだった。


僕は幼少のころからの習慣で自分の服には「総一朗」との刺繍をいれておくのだが、その友人は「総」と「朗」の上に×印で消し、すぐ横に「早」と「漏」を書き込んでいたのだ。


一張羅を台無しにされた僕は、げらげらと笑いながら湯煙に消えていく友人を一張羅をつかんだまま追いかけた。


そして床で足を滑らせて、、、その先は覚えていない。


「あの、、、勇者様たいへん申し上げにくいのですが、そのぉ~~」


我に返ると、先ほどの美女が顔を赤らめてこちらを見つめていた。顔を覆った両手の指の隙間からチラチラと。


そう、たしか僕は「一張羅をつかんだまま」友人を追いかけた。それはその一張羅が僕の片手にあることからも明らかである。


つまり今の僕は、、、全裸だった。

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