第8話 読モ

どくモ!」


 は?


 教室の、入り口に。1人のギャルが立っている……。


 ストレートの長い金髪。に、毛先はミントグリーン色。めっちゃ目立ってるけど――1年だ。

 色白で、胸元のゆるい。ぱっちりとした、ギャル美人。


 が、廊下と3組ウチの境界を越えて。ズンズンこっちに――


 ちょっ、私!? まさか、カツア――


「藤沢さんっ! 藤沢佑菜さんだよねぇ!?」


 ……杞憂。

 知らないギャルの標的は、私の右隣り、佑菜でシタ。


 けど佑菜、そっぽ向いて動かない。


「ねぇ、佑菜。呼ばれてるよ?」


 って。

 こう、ぐるっと顔を覗いて――あー。

 罰ゲームで苦いお茶を飲んだ、新人アイドルの顔だぁ。


「……有佐、パス」

「いや無理だって。手の届く距離に来てるけど?」


 来客者、目をぱちくりさせて――


「あれ、あたし、歓迎されてないカンジ? 藤沢佑菜さんにこれ、訊きたいだけだったんだけど」


 ん、謎のギャル。

 なんか、雑誌を取り出して。

 10代ティーンズ向けの、ファッション誌?


「――ぅげっ!?」


 え? 佑菜、突然――


「ちょっ、雑誌それ……!? とりあえず、場所変えようかぁ……?」






「あたし、葛野かずらの絢禾あやかって言うから! 櫻庭さんも、これからよろ〜!」

「ょ、よろ」


 満面の笑み、ギャル強い。

 完全に別の世界の住人……。


 こんないてた多目的室で、私と一緒にいる人じゃない。

 それは多分、佑菜も同じ。


 で、


「佑菜、どうして私まで……。あの雑誌、何かあるの?」

「いやぁ、有佐が一緒なら、数的有利に立てると言うかぁ……。あ、で、雑誌なんだけどぉ――」

「ほらっ! 藤沢さんだよね、これっ!?」


 葛野さんが開いたページ。

 読者モデルの特集――ん?

 え、うそ、


「佑菜じゃん……!?」


 間違い無い。

 高級そうなチェックの上着、このスカートも――うわ、2万!?

 お洒落なベレー帽まで被って。物憂げにポーズ、私の友達……。


「え、佑菜これ……」

「いやいや有佐、違うって。これ、ズルだから。お母さんの知り合いが、カメラ仕事にしててさぁ。なんか“どうしても〜”って言うから、渋々1回撮っただけ」

「ぁ、ああ、そういう事ね」


 まぁ、佑菜なら納得。

 被写体として、上物だもん。


「って事で、葛野さんっ。あたし、とかじゃないから。なんか期待してたなら、悪いんだけど――」

完璧カンペキっ!」


 え。

 葛野さん、佑菜を遮って――


「藤沢さん! あたしの専属になってよ! “ファッション部”の、雑誌モデルにっ!」






「うわヤバっ! それめっちゃよき!」


 カシャッ!


「藤沢さん、羽ばたいてるぅ!」


 カシャッ!


 ……ポージングしてる佑菜、チョロい。

 “アニメのもあるよ”って、撒きにまんまと食い付いて。

 こうして放課後を使った、ファッション部の部室で撮影会。


 てか私達、3人だけ?


「あの、葛野さん」

「ん? 何、櫻庭さん?」


 って、被写体ゆうなからカメラを外す、撮影者側の葛野さんへ――


「他の部員、いないんですか? 道具も、背景セットまで。全部、貸し切り状態ですけど」

勿論もち、他もいるよ? でも今日はあたし1人だけ」

「? 何でです?」

「みんな彼氏カレシと遊んでるから」


 は?


「2人は彼氏カレシいないの?」


 うっ――私の胸にナイフがッ……!?

 葛野さん、容赦無い。


「……えっと、私はいないデス」

「ついでに、あたしもフリーですっ!」


 佑菜、どうしてそこ元気?


「え、2人共フリーなの? だったらあたしと一緒じゃん! なんなら今度、逆ナンで――」


 Piriri!


「ん、ごめっ、絢禾あたしの着信。――はい、もしもし……え、マジ? ん〜」


 問題トラブル

 通話切った所、見計らって――


「葛野さん、大丈夫?」

「あぁ、うん、大丈夫。ちょっとモデル予定のに、“辞退したい”って言われちゃって。あ〜、どうしよ」

「――だったら! 葛野さんが被写体モデルやればっ!?」


 佑菜――うん、良いと思うっ。


「えっ、あたし、は……」

「ほらほら、早くポーズっ! 今度はあたしがこうやって、葛野さんを――」


 カシャッ!


「っ、藤沢さ――」


 カシャッ!


「じゃあ葛野さん、お次は――」

「やめて!!」


 ――――。


 ……葛野、さん?






 ――それ、イジめじゃん。

 中3で、葛野さん。自分モデルの写真を破かれて……。

 嫉妬? 何それ、有り得ない。


「それ以来、になっちゃって。あたし、ずっとで……」

「……ごめんなさいっ」


 佑菜――


「あたし、無理に――」

「ううん、平気ヘーキ! 代役いないの事実だし。ちょっと怖いけど、頑張れば――」

「私でよければ、被写体モデルやる」


 「え?」って、葛野さん。

 ううん、驚く事でもないって。


「乗り気じゃなかったけど、撤回。櫻庭有佐わたしでよければ、使――!」






 ――気付かなかった、もう出来てたんだ。


 6月1日発行。ファッション部の校内雑誌っ!


 ……雑誌これの影響かな。

 こう、教室にいるだけでも。周囲の視線が増えた気が。


 でも、男女でがある?

 何故? 私の気のせい、かなぁ。


「……有佐ぁ」


 ん、右隣り――佑菜?

 なんか、また苦い顔で……。

 雑誌のを指して――ん?


 デカデカと――


 【佑菜&有佐 彼氏カレシ募集中!!】


「な――」


 なんだゃこりゃあああああああ!?

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