第7話 スキンケアを

「スキンケアを、始めようっ!」

「……してるけど?」


 少しだけ。

 佑菜ってば、また何言い出し――いや、


「もしかして……佑菜、?」

「? 顔なら洗ってるけど? 毎日お風呂入った時、手を洗う石鹸で」

「――…………」


 絶句。


 佑菜の肌、スベスベで、ピカピカで、真珠みたい。

 それが、


「――こせ」

「? 有佐?」

「その皮膚――よぉこぉせぇええええ!」

「ふぁああああ!? やめへ、有佐はひは、頬は千切ひひれるぅうう!?」






 ――っと、掃除終了。

 今日はもうこの教室に、特段用事は無くなった。


 ので、


「佑菜、帰ろう」

「おっけー。ところで、さっきの続きだけども〜」

「ん、ああ、あの続きね。脳天締めアイアン・クローでいい?」

「ヒェッ。えーとー、では無くぅ。スキンケアのお話なんだけど」


 そう言えば、そうだった。


 佑菜、ちょっと照れ臭そうに――


「いやぁ、お恥ずかしながら藤沢佑菜、美容品こういうモノにはうとくてですねぇ……。よければ教えて欲しいナ〜? なんて」

「あぁ、それで


 照れ隠し。って、別にいいのに。


 ……それにしても。


 5月下旬の陽光が、開け放たれた窓辺から。

 口元に、人差し指を。ほおに天然の薄紅を。

 そうして恥じらう佑菜の所作を、それでも光が割り出して――ぁ、花弁はなびらが。 

 カーテンの、手招きで。佑菜の髪に――


「――有佐?」

「え? あ、何でもない……」


 め、目が離せなかった……。

 写真で今の撮っといて、SNSに投稿したら――バズったり、したのかな?

 ハッシュタグ藤沢佑菜。


「ふふっ……」

「え、何、有佐……うわぁ」

「あっ、今“キモ”って思ってたでしょっ? んんっと、話を戻すね」


 って、佑菜の髪から花弁を取って――


「悪いけど、美容について。私も鞭撻レクチャー出来る程、詳しい人じゃないんだよね。ただ、話は聴けるから。どうして急に悩んだの?」

「ぁ、うん。さっき、トイレで気付いたんだけど。遂に――が、出やがりまして……」


 あー。


「何か対策を講じようと、有佐先生センセーに訊いた訳ですよ」

「そっか、なる程。……佑菜、この後時間ある?」

「うん?」

「私と買い物、してみない?」






 ――陽が傾いてきた。

 いつもなら、休日とかに。ママと買い物とかしてる、大きな駅の商業施設ショッピング・モール

 平日の今日も盛況で、人の往来は途切れてない。


 まぁ、何度も来てるから、そんなの知ってはいるけれど。


 けれど、何度も来てるのに、


「やったぁ、大量収穫っ」


 佑菜と一緒は、新鮮だ。


「ふふっ、佑菜はしゃぎ過ぎ。薬用洗顔フォームとか、泡立て器とか普通だし。寧ろなんにも持ってない方が、スゴいって言うか、ヤバいって言うか」

「え、マジでっ? 普通フツーじゃないっ?」


 はいはい、佑菜の普通フツー、っと。


「あ。そうだ、有佐先生センセーっ」


 ? 佑菜、急に立ち止まって――


「あたし、実は探し物が。ほらこれ、この日焼け止め」


 って、スマホで――あ、これなら多分、


「“ブルプラ”で売ってると思う」

「ほう、ブルプラとな。……“ブルドッグ・プライド”?」

「何それ」

「ウチの近所のペット屋さん」

「そんな訳無いでしょ……。えっと、“ブルー・プラネット”って、化粧品とか売ってるお店。他にも海外雑貨とか、輸入物の食品とかさ」


 てか佑菜、知らなさ過ぎる。

 結構、有名ドコだけど。


「なる程な、ばっちし理解。それじゃあ有佐――案内、お願いっ!」


 ……はいはいっ。






「ここが“ブルプラ”、外からもお洒落〜」


 なんて。

 佑菜がお店の外観を、くりっとした目で見つめてる。


 駅前施設の一角に、広い間口で構えてる。白い木目調のテーブル、照明を透過する硝子ガラス棚。

 そこに雑貨から洋服と、化粧品までも揃ってる。うん、嫌いな女子はいない。


「あ、お店の中央に! あたしの探し物、発見っ」

「良かったね、佑菜。それにしても、結構思い切ったよね」

「? Why?」

「ほら、値段。1700円もするから」

「……え」


 あ、今知った顔。


「それじゃあ佑菜、ここで待ってるね」

「ぅえ!? 一緒に来てくれないの!?」

「ぇ、だってこのお店、店員さんから声掛けられるし。私そういうの、苦手だし」

「それなら、あたしも苦手じゃんっ!? ねぇ、有佐ぁ〜。有佐サマぁ〜っ!」

「え〜。てか結局、買うの?」

「ぃやそれは――でもとにかく、お店に入ってみたいじゃんっ?」


 ――で、一緒に入店……。

 店員さんの挨拶に会釈えしゃく、中央エリアへ迅速介入かいにゅう

 うん、後は商品の、試験品テスターを佑菜が試して――


「これ、新商品なんですよ!」


 ! しまった、店員さんッ!?

 えっと、佑菜――


「そ、そうなんデシタ」


 微妙にバグってる……。

 んっと、じゃあ――


「あ、お客様。そのぬいぐるみ、」


 ? 店員さん、佑菜の鞄のぬいぐるみを視て――


「アニメの限定商品、ですよね!?」

「! え、分かります!?」


 ――佑菜の瞳に、火が。


 ふふっ、これなら平気、かな?






 ――で、お店の前で。

 佑菜、ロゴ入りの袋持って、


「か、買っちった」

「あはは、結局かー」


 なんて。

 私が見てない間に買った、日焼け止めを袋から――


「おすすめの、ドライマンゴー……」

「何があったし」

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