第6話 小説一年生

「『新・小説一年生』……?」

「ほう?」


 「ほうほうほう?」、佑菜サンタが覗き込む。って、茶髪ボブ邪魔なんだケド。


 落ちてたから、拾ってみたけど。

 これ、“文芸部”の冊子?

 ここが、図書室前だから……?


「あ、それは――」


 ん、後ろ?


 少し小柄な、女子生徒。

 栗色の癖毛。長い、腰まで。

 それと、やや眠そうな双眸そうぼうで――えっと、多分、知らない……。

 制服のリボンが緑色だから、同じ1年なんだけど……。


「よかったー、見付かった。ごめん、その冊子、私のだー」

「ああ、そうなんだ。はい、これ」


 って、渡してあげて――っと。

 ? この、佑菜の顔視て――


「キミ、藤沢佑菜さん、だよねー?」

「うぇ、あ、ハイ。藤沢ですけども」

「あー、やっぱり。ちょっとした有名人だもん、アイドルみたいながいるってさー。……あ、ごめん、山吹やまぶき美郷みさと。よろしくー」


 なんて、山吹さん。

 小さな手で佑菜と握手――ガッ!


かったい握手したついでに。ウチの文芸部、見て行かないかい?」


 タチの悪い勧誘だ――って、


「いやちょっと、山吹さん? あの、佑菜も困ってるから」

「まぁそう言わずに、櫻庭さーん」

「え、私の名前まで?」

「? 別に不思議じゃないさー。キミのだって、いるだろう?」

「っえ、ど、どういう意味イミ……!?」


 変な冗談はよして下サイ!?


「――山吹さん、ごめんなさいっ」


 ん、佑菜……。


「あたし、今んとこ帰宅部だから〜。あ、でも――小説書くのは、興味あるかも」

「え、本当? 藤沢さん!?」


 山吹さん、ちょっと食い気味……。

 それに対して、佑菜――


「ぇ、はははっ、興味ね? 興味だけっ。それに1人だと、大変じゃない?」

「そんじゃーキミ達、書くとか?」


 え、


「「2人で?」」

「おー、ハモった。キミ達2人、仲良いねー。で、執筆の話なんだけど――ズバリ、“リレー小説”だねー」






「――ふぅ」


 サッパリしたぁ。

 新しいシャンプー、良い感じっ。


 あれ、自室へやの時計。午後9時、35分。

 5分進んでる、後で直そ――あ。


「そうだ、小説――」


 書いて、連絡しないとっ。


 えーと、とりあえず小説アプリ。

 1000文字以内で執筆したら、佑菜に完了連絡、ね。


「……どう滑り出そうか」


 設定は、もう決めた。

 ピアノが好きな、女の子。年齢は、15歳。

 名前は何故か、古風に“梅子うめこ”。佑菜のセンス……まぁ、いっか。

 無難に入学式から入ろう。えっと――


 青空を背に、桜舞う。春の祝福を受けた日に。

 『今日、入学式……。緊張するなぁ』


 入学、無難に友達作って――迷子。

 そう、名門校の中。迷って音楽室に着く。

 そしたら先客の男子、“りょう”がピアノを弾いていて――


 『キミも、迷子? 一緒だねっ』


 ――っと。

 よし、ここまでお膳立てすれば、佑菜が

 気になる2人にしてくれる、はず


「ふー。うん、これでとうこ……っ」


 ドッ、ドッドッ――


 ……あれ、何だろ。

 なんか、!?

 “梅子”より、緊張してる!?


 人に小説を見せるのって――なんかスゴい、不安で怖い!?


「ぅ、お、落ち着け有佐わたし……」


 別に、小説投稿サイトへ、掲載する訳でもないんだから。友達ゆうなに見せる、だけなんだから……!


「――ッ、送信っ!」


 ……アプリ、投稿しちゃった。

 ゆ、佑菜に連絡しなきゃ。


 “つまんない”とか、言われたら。

 私は、どうなるのでしょうかぁ……?






 『あたしの続き、投稿したよ〜!』


 え、佑菜、早くない?

 まだ日も跨いでないんですケド!?


 ぃ、いやそれは置いとこう。

 肝心なのは、その前の――『有佐の書いた冒頭部分、綺麗な言葉で、スゴく良かった!』。


「――す、救われたぁ〜!」


 なんか、不安、乗り越えたら。

 “楽しさ”が、……!


 佑菜と文通してるみたい。少し古典的、あったかい。


 よしっ、ヤル気が湧いてきたっ。

 ちょっと夜更かし、しちゃうけど。

 このまま続き、執筆しちゃおっ!


 えっと、佑菜の投稿は、アプリに反映されていて――


 『うぅっ、どうして、どうして亮君っ!? 私を置いて、……!?』

 涙を、梅子は止められなかった。


 うぇえええええええええええええええ!?

 亮君、急にしたぁああ!?


 で、デートの初日に事故?

 どうして、ソウナッタ……。


 ――し、仕方無い。

 世界観に、ヒビは入るけど。


 、やっちゃおう。

 梅子に蘇生、させちゃおう。


 後は野となれ、山となれ――。






「でー、3日でこさえた小説だけども」


 わざわざ3組ウチの教室まで来て。

 山吹さん、私達に――


「異世界転生した亮君が、最強魔剣“ギガスレイヤー”でチート魔王になった後、それを人間へ戻す為、半神となった梅子の能力、“伝説蘇生レジェンド・リターン”が発動し、絶対防御の無敵盾、“無窮の障壁エターナル・ディフェンダー”が顕現。で、大陸が1つ割れたんだけど――……。これ、終わるかい?」


 そんなの――


佑菜こっちに訊いてぇ!?」「有佐こっちに訊いてぇ!?」

「おー、ハモった。仲良いねー」






「――ねぇ、有佐っ?」


 ? 佑菜?


「小説、ポシャっちゃったけど。なんか、ドキドキ楽しんじゃった。……またやらない?」

「――その内っ」

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