第5話 普通の特技

「“特技”って……、何だろう?」

「え〜、簡単だよ有佐ぁ。はぁああああ……!」


 って、佑菜サン。

 貴重な昼休みの時間、中庭に設置されたベンチで。

 青空の下、銃口ゆび向けてきて――


「コメット・ビ――――ム!!」

「……特技かぁ」


 まるで霧深い森の中。無意味に歩いているみたい。


 中庭を縫っていろどる花壇、弾むような青春の声。うぅ、対比されて眩しぃ。

 みんな、特技とかあるんだろうなぁ……。


「……有佐サン? ビーム、直撃してます――ぜ?」

「防弾チョッキ着てるから平気」

彗星コメット級の威力なんだけど」

「私のコメット防弾チョッキ」


 「ちぇ〜」なんて、不貞腐ふてくされてる。彗星コメット級に暇そうな佑菜。

 もう、昨日は中間テスト、“オワッタ……”とか嘆いてたのに。

 一晩経てば、この通り――あ。


「そう言えば。佑菜って、特技ある?」

「? あるよ?」


 はや、即答。


「でも有佐、どったの急に? 特技って、そんなに必要?」

「ん、まぁ一応。ほら、高校生にもなったし、その内バイトしようかな、って。そういう時に特技とかって、訊かれたりする事あるじゃん? だから今の内考えて、纏めておこうかなー、なんて」


 早計かもしれないけどね。


「ほぉ〜、真面目マジメだね有佐クン」

「いや別に普通……。で、佑菜の特技って――何?」

「うん、


 ――ば?


「佑菜……“バク転”って、バク転?」

「そうそう。正式には、“後方転回”って言うらしいよ? あ、見たい〜?」

「めっちゃ見たい」

「素直でヨロシイ。じゃあ、えっと〜、」


 って数メートル。佑菜、こっちから離れながら――


怪我ケガしないよう周囲を確認。ついでに目立つと面倒めんどっちーので、みんなが視てない今こそ――!」


 ――ヒュッ。


 一瞬、

 それから逆立ち、スタッて両足――うっわ、鮮やか……!?


 後方転回、くうを咲く。


 てかパンツ視え――いや、黙っとこ……。


「――どう? どう有佐っ!?」

「いやどうとかって訊かれても……!? き、綺麗で、速かった……」

「え、ホント? よっ、しゃー!」


 ぐしっ! とガッツなポーズを決めて。

 本当ホントに佑菜、カッコよかった……。


 もう、アイドルなりなよ!?


「……はぁ」

「有佐? え、なんで溜め息?」

「それは――あー、何でもない」


 って、残酷だぁ……。


「んー、佑菜を視ていると、ますます私の特技って……」

「えー、そんなのいっぱいあるじゃんっ! 授業は寝ないで聴いてるし、お小遣い計画的に使うしっ」

「それが特技じゃもうおしまいでしょ……」

「あれ? じゃあ――そうだっ! 人には!?」


 ? 人に、褒められた事?


「例え有佐が思ってなくても、誰かに褒められたという事はっ! イコール“特技”って事じゃないのっ!?」


 ――佑菜、


「その発想――良いかもっ!」

「ふっふっふっ、流石は藤沢佑菜あたし。で、有佐の褒められ事って、何!?」

「えーっと……あ、“反対言葉”」

「ん……んん?」


 あれ、佑菜。説明必要?


「“反対言葉”、言葉遊びだよ。“右”と言われたら、“左”と返す。ね、簡単でしょ? 私、ママとやるんだけど、毎回“面白い”って言われて、ちょっとだけ自信あるって言うか……」

「ほうほう、理解。それじゃあ、いくぞぅ! 有佐の特技がどれ程のモノか、あたしがこの目で確かめてやるぅ!」


 え、何その展開。

 って、佑菜の先制言霊こうげき――来るッ!


「上!」

「下」

「スプーン!」

「フォーク」

「タピオカ・ミルクティー!」

「クラフト・コーラ」

「え、審議。ちょっと待って」


 ? 審議?


「有佐、今、変じゃなかった?」

「え、どこが」

「……ま、いっか」


 っと、仕切り直し。

 佑菜の言の葉こうげき――!


「紅茶!」

「コーヒー」

「夏!」

「冬」

「東京タワー!」

「エッフェル塔」

「レオナルド・ダ・ヴィンチ!」

「葛飾北斎」

「めだかの学校!」

縁日えんにちの金魚」

「ぷっ、タイム。カメラ止めて」


 番組収録じゃないんだから。

 てか佑菜、ちょっと笑った……?


「有佐、その……? “エッフェル塔”の辺りから、雲行き怪しくはなかった……?」

「? 完璧だったけど」

「真顔で完璧、って――いやでも、妙に否定出来ない不思議。寧ろ、刹那ノータイムの絶技……?」


 ? 佑菜、何言ってんの。


 って、仕切り直し。

 佑菜の言葉こうげき――ってまた!?


「お肉!」

「野菜」

「渋谷!」

「巣鴨」

「猿!」

「蟹」

「芋羊羹ようかん!」

「マリトッツォ」

「ブレーメンの音楽隊!」

「下北沢の元ドラマー」

「ぶふぉっ!?」


 ぇ、佑菜サン?


「ふぁ――っはっはっはっはははっ! ヤバ、有佐っ! 今のは反則! トリッキー過ぎ、マジでダメぇ……!」


 な、え、何の

 ゲラゲラと、笑い終わって――


「有佐先生センセー、恐れ入りました。あたしが特技認定します。すごく、面白かったので、是非とも特技にして下さいっ」

「……えー、なんかヤダ

「えっ、ちょっ、どうして有佐ぁ!?」


 それは、だって――


「佑菜、バカにしてるでしょ……。さっきから様子、おかしいしっ」

「えええ、そんな事無いよ!? 実際、面白いんだってぇ〜! なんて抜き打ちで食らえ! 万引きGメン!」

「盗撮K点」

「ぶふぉぁ――」

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