第9話 ズル休み

「あ、そうだっ。あたし、明日熱で休むから!」

「は?」


 


「え、何それ佑菜? 未来予知?」

「あははっ、違うってば有佐ぁ! ズル休みだよぉ、ズル休みぃ! 学校1日、ズル休み〜」


 学びを抜けた、帰宅途中。

 佑菜、パッと花が咲く笑顔で――


「明日、“”に行って来ます! あ、如何いかがわしい場所じゃないよ?」

「いや分かってるから、夢の国テーマパークでしょ。それじゃあ気を付けてね、佑菜」

了解オーキードーキー!」

「それ何語」

「全然知らない。アニメで言ってた」






 ――教室の外、良い天気。窓から青空が視えるね。

 けど、もう6月だから。

 これから梅雨がやって来て、当然のように雨だって。天気予報で言ってたっけ、こればっかりは当たるよね。


 そっか、だから“今日”なのかな。

 夢の国なら、晴れててほしい。


「…………」


 右隣の席、誰もいない。

 停学とは違うさみしさ。


 まだ、朝のホームルームだけど。


 今日は日本語、






「お、櫻庭さーん」

「はぃ!?」


 ぅあ、声が裏返った!?

 って――山吹さん?


 今日もまた、眠そうな目で。

 私相手でも、上目遣いに――


「図書室前でまた会ったねー。てーか今の裏声、何だい?」

「ぁ、いや、それはその。今日、初めて声出したから……」

「? もう3限の前だけど。……あれ、藤沢さんは?」


 山吹さん、小首を傾げながら――


「サクランボみたく2人で1つ。二人三脚じゃないのかい?」

「いや別に、そこまでじゃ……。佑菜は今日、熱でお休み」

「そうなんだー。……ズル休み?」

「すぐバレた」


 「藤沢さんだもん」ってそれ、否定出来ないんだよねぇ……。






「あ、櫻庭さぁーん!」

「……あー、葛野さん」


 トイレ出たトコで、偶然。

 テンション高め、晴れやかに……。


「ん、あれ、サゲ調子? 櫻庭さん、どうしたぁ?」

「どうしたって、葛野さん。この前のうらみ、あるんですケド」

「…………」


 葛野さん、悩んだ表情で――


「……ごめ。ウケる回答、思い浮かばなかった」

「そういうのいいから」


 大喜利じゃないんで。


「ほら、葛野さん。私と佑菜の雑誌ページに、“彼氏カレシ募集中”とか載せたでしょ。先生からも“やめなさい”って、怒られちゃったんですけどー?」

「あーそれね、本当ホンっとごめん! 彼氏カレシいた事無いって言うから、よかれと思ってやったんだけど〜……効果あった?」

「引かれただけです、もうヤメテ……」


 「あちゃー」って、葛野さん。

 少し困ったような相貌で、


「ありがとっ」


 って――え?


「多分、言ってなかったよね? 櫻庭さんがモデルの代役、買って出てくれてマジ助かった」


 葛野さん……。


「あたし、被写体モデルも出来るよう、また頑張りたいって思う。藤沢さんと櫻庭さん、めっちゃ綺麗に写ってたし! まぁ、すぐには無理かもだけど……」

「――その話、よければ佑菜にもしてあげてっ。きっと私なんかより、良い反応してくれるからっ!」


 そう――きっと、ねっ。


「櫻庭さん……。あ、そういえば、藤沢さんは今日いないの? 櫻庭さんとはなのに?」

「いやニコイチって……。佑菜は今日、熱出して休み」

「へ〜。……ズル休み?」

「ハイ」






 ――ようやく、昼休み。

 なんか1日が長い、かも。


 とりあえず、学食で。

 いつもみたく、こう、を。

 今日は――よし、カドに座れたっ。


 ……近頃は。

 私が黙って先に来てても、後から“席取り、ありがっと〜!”って、のこのこやって来るんだよね。


 ……佑菜、来ない。


 なんて、逆に来たらこわ――


「よっ、と。お待たせー」


 は?


 って、


「山吹さんっ!?」

「? そんなに驚くかい?」

「え、いや、急に来たから……。てか約束とかしてたっけ?」

「んっふっふー、いや全然」


 おい。


「ぶっちゃけ、櫻庭さんが独りって言うから、憐憫れんびんもってやって来た」

「ぇ、っと……れんびん?」

あわれでカワイソーって事」

「ぐふっ」


 いなめない。


「さぁー、美郷わたしとご飯を食べよう。やったね、孤独のランチは回避だ」

「ぃ、痛み入りますぅ」


 く、屈辱。

 でも助かったぁ〜!


 これでは――


「はろっ! お待たせ櫻庭さんっ!」


 は?


「え、葛野さん?」

「櫻庭さんがって言うから、今日は一緒に――って、あれ?」

「あ、お初だけど、ごめんねー。そのくだり、もう先客わたし


 「ぅえー、何ソレ!?」ってギャル。葛野さん、慌てて、る?


 ……ぷっ、ふふっ!

 なんか、これはこれで良い。うん、嫌いじゃない。


 私なんかには、勿体無い。

 女子高生の、他愛無さ。


 けれど――うん、もう一声ひとこえ


 、もっと良い――よねっ?






「――という、楽しい食事会があったそうな」

「いや何で佑菜が語り手ふう……」


 昨日の今日で、隅っこに。

 お互い、炒飯チャーハン食べながら――


「そうだ! 有佐にお土産あるよっ!」

「え、マジで」

「マジもマジ。これまた私とお揃いの――」


 いやぁ、なんか悪いな――


 カンッ!


「じゃーん! チョコクランチ缶〜っ!」

「…………」


 微妙。


 ま、佑菜らしい、かな?


「ぁ、ありがとぅ。じゃあ早速――っ! 佑菜、これ……!」

「?」

「中身――海苔のり煎餅せんべいだ」

「……Oh、No」

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