第9話「義妹とのデート(feat.神様)」


 そして、講義を終えた俺は駅前のデパートの前でスマホをいじりながら待っていた。


 まぁ、実際のところは待つのが暇なのでスマホを片手に視線を降ろしているように思わせて――久々の人間観察をしているのだが、誰にも分るまい。


 昔からよく人間を観察するのが好きだったのだ。観察とは名ばかりかもしれないが、そこまで友達のいなかった俺から言わせてみれば案外楽しいと言える。


 なぜそんな人間観察にハマったのかを問われれば、小学生まで遡る。授業中にやってくださいと言われた問題をすぐ解いて暇になった俺はなんとなーく、斜め右側に座っている女子を眺めていたんだ。


 クラスでも指折りの可愛い女の子で、俺も少なからず好いていたと思う。そんな彼女が頑張って問題を解くその顔を眺めていて「かわいいな、持ち帰ってしまいたいな」なんて考えていたと思う。


 しかし、そんな俺を前に……彼女は頬を赤らめながら少し苦しそうに腰をくねくねともじもじとし始めたのだ。


 何をしているのか、俺には皆目見当もつかなくて先生に教えることも出来なかった。


 そして、さらに一分ほど待っていると彼女の腰のくねりともぞもぞは次第と大きくなっていき、表情はさらに険しくなる。


「……」


 さすがに言うべきかな、とそう思った時にはすでに遅かった。


 ちょろちょろちょろ……とじわじわとパンツが濡れていき、ズボンがひたひたになり、履いていたジーンズが黒くなっていく。


 それを見て、丁度そのフィルターを突破して椅子から地面までしたたり落ちた瞬間に俺は理解したのだ。


 彼女の膀胱は決壊して、漏らしてしまったのだと。


 その後はそれはそれはひどかった。教室に漂う美少女のアンモニア臭。笑い出す男子、かわいそうにと見つめる女子。焦りながらも彼女を保健室に移動させる先生。修羅場も修羅場、そんな状況。


 しかし、そんな彼女が俺の変態への扉を開いたのだ。


 人間観察していればラッキースケベがあるのだと!!!


 いやはや、感謝しているよね。まったく、あそこまで性癖を擽られるものはなかったよ。俺も俺で罪な話だけど、いいこともあってどっこいどっこいだ! むしろ、後悔はしていない!! 俺はこうして義妹と性癖の両方を手に入れているんだし、感謝感謝だ!


 まぁでも、今覚えば――あの時に何か働きかけることが出来れば彼女との未来も少なからずあったのか知れないな。


 今更、本当に後の祭りだが。


 おっと、話がずれたな。とにかく、俺は澪の到着を待つべく、デパートの前で人間観察を続けている。


 目の前を通り過ぎていく女性。ながらスマホをしながら歩く女性。スパッツを履いて走るスポーツお姉さん。あみあみのエッチなタイツを履いているエロエロお姉さん。リクルートスーツを着ている色気むんむんなアラサー風なOLさん、とにかく明るいけどスカートが短すぎてパンツが見え見えなエチエチ女子高生、薄黒いタイツを履いているメガネを付けているちょっと地味目な女子高生と……これはこれは目が肥えるばかり。


 べっぴんさん、べっぴんさん、べっぴんさん……そして一人も飛ばさずみーんなべぴんさん。


 あぁ、今日も最高だな。と義妹とのデート前に不届きものな考えをしているが、日加なので許してほしい。


 しかし、そんな俺の目に向こう側にじっとこちらを見つめる一人の電波少女がいた。


「……あ、あれは、神様!?」


 いたのは自称神さまのようだった。さすがに尾行とは神とは程遠いことをしてくるなと思った俺はすぐさま言いつけに行こうとしたのだが——タイミングが悪かった。


「——お兄ちゃんっ、お待たせ!!」


 すぐに澪がやってきてしまい、俺たちのデートはくしくも始まってしまったのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る