第9話40歳冒険者の休息日1

「ふああ、あ」

硬い枕から頭を上げて大きく背伸びをする

事件を起こしてから今日で2日目

だいぶいろんなところに迷惑をかけてしまったが

ルナティ学長にもお詫びの菓子折りを持って行ったりシャーロットと

フィーナのご機嫌取りをして昨日は過ごした

そしてそのまま眠ってしまっていたようだ

未遂とはいえもう少しで永眠するところだったのだから体が疲れていても

別におかしくはないだろう この硬いベットも何も気にならなかった

うがいでもしようかと思ったがこの世界での水は正直口に入れるようなものでは

ないので我慢する マジックアイテムが水道の役割を果たしているようで

この宿にも一つ設置されているが有料だ 日本人の感覚だからかもしれないが

高く感じてしまうので今まで一度も使っていない 水質も別に良くはないようだし

今日は冒険者になって初めての休日だ

うちのパーティリーダーたるシャーロットが体調が好ましくないらしいので

ついでにということで我々二人も休日となった

フィーナはゴブリン討伐の成果を通じて勉学に励んでいるらしい

急に休みと言われても特にやることがなく、リタはまだ胸の奥で眠っているようだ

改めて冒険者組合に行ってみるか


<冒険者組合>

組合のドアを開けて進むとこちらに気がついた担当の受付嬢がこちらへと近づいてきた

「ナオ様ご連絡があります」

何か重大そうだ 解雇通知とかかな

そのまま個室へと通される

「ご連絡というのはナオ様のシルバー昇格についてです」

昇格?まだ一度しか依頼をこなせていないのだが

「ゴブリン討伐及び『ポイズンスパイト』討伐の報告書を見させていただきました。

重大級<S>である『ポイズンスパイト』を倒されたとあればシルバー昇格どころか

ゴールド昇格も見えますが、今回はやはり物的証拠がなく昇格は厳しいというのが

組合での意見です。」

そりゃそうだろう 俺が使った時空間魔法は傷ひとつなく『ポイズンスパイト」を

消滅してしまったらしいし討伐である証拠にはなりえないだろう

当然といえば当然だ

「ですが『ポイズンスパイト』はかなり執着深く狙った獲物は逃さないモンスターです。姿が急に見えなくなり消息も掴めないという点で時空間魔法で飛ばされたという証言はかなり信頼性が高いといえますが確かめようがありません。」

モンスターの種族としての最低報酬もかなり高く、あの首筋に赤い線があった個体は『ポイズンスパイト』のヌシ級で賞金首もかかっていたらしい

被害がなくなったが討伐したという証拠もないのであの土地の領主は報酬も払わなくてすんでウハウハだ

こちらの身にもなってほしい 

「なのでこちらでシルバー昇格用の依頼をご用意いたしました。達成することが

できれば報奨金と同時にシルバーへの昇格が認められる運びとなります。」

うーんこれはかなり美味しい話ではないだろうか

シャーロットが強すぎて結局自分の実力はよくわからないままだったし

シルバーへと昇格をすれば報奨金の高い依頼を受けることもできるようになる

その場で二つ返事をして組合と後にした


<宿>

依頼これ一人でできるかな〜?

1週間近くパーティとしては休みなので今すぐ依頼に行きたい俺としては

一人で行くことになるのだが・・・

かなり不安だ

内容は豪商の一人息子であるノイヤという人の護衛だ

かなりの変人らしく親御さんも相当困っているらしい

今回は王都から少し離れた海岸での探索をするのだそうだ

親心で一人息子のことが心配のくせにたっぷり持っているお金をできるだけ使いたくはないらしくが少しでも安くするために

冒険者組合と交渉をしていてかなりめんどくさがられているところ

ちょうどゴールド級適正でありながらブロンズ級報酬で雇うことができる俺がいた

そこだけを見込んでの指定依頼なので素直には喜べない

「これお前はどう思う」

胸元へと呼びかける

「何度言えばわかるんじゃわしは”リタ”じゃ!」

「はいはい”リタ”はどう思う?」

「別に受けてみればよかろう。最悪ワープで逃げれば良い」

そこも悩ませる部分だ

リタのおかげで一応保険は持っている

だが依頼に失敗したとなるとシルバー級への昇格は取り消され

しばらくは昇格できないようになるだろう

断れない理由としてこれは冒険者組合と豪商が”相談”して依頼を出しているので

断るとどちらにも亀裂を生みかねないということだ

「まっ成功すればいっか」

気楽に生きていかないと髪の毛が薄くなっちまうわ


<冒険者組合前>

海外での探索は3泊4日の旅なのでできる限り食料を馬車へと積み込む

俺は魔法使いなので剣を使う冒険者と違い整備品なのど消耗品は飲水や

食料が主な荷物だ

「息子をお願いします」

そう言って母親だろうか?俺の手を厚く握る 

失礼な話だがもしかしてこの人俺より年齢低いのでは?

少し心がささくれる

肝心のノイヤ君は探索道具だろうか荷物を一生懸命馬車へと積み込んでいた

豪商らしくお手伝いとかはいないのだろうかそれともただケチっているのか

そんな感じで初めてのお使いが始まった


<旅道中>

気まずい・・・・

シャーロットやフィーナと同じ感じでフランクに絡んでくるのかと

思ったがノイヤくんはかなりうちな方なのかこの数時間全くの無口だ

話を振ろうかとも思ったがただえさえなれない馬車の操縦に気を取られて

そちらまで気が回らない

荷台は荷物でいっぱいなので一応隣に座ってはいるが

髪が目にかかっててどこを見てるかもよくわからない

ん?胸ポケットから何かを取り出すようだ

タバコ!?

「ノイヤさんてタバコ吸うんですね」

「ふー。よく幼く見られますが一応これでも17なんで成人はしてます。

あとあなたの方が年上なのでさん付けはやめてください」

意外としっかりしてる子だな 周囲の評価は変人とのことだったが

噂で判断するのは軽率だったかもな

「ナオさんも一本いりますか?」

「いえ俺は結構です」

「へー珍しいですね。なんで吸わないんですか健康にもいいのに。」

だいぶ価値観が違うようだ

冒険者組合でも灰皿は結構あって意外と煙たかったりしたし

みんな吸うんだろう

逆に魔術組合の方はタバコの匂いがわからないほどいろんな匂いが混じってたな

どちらにしてもタバコは健康には悪い

そしてなぜ俺が吸わないかというと単純に女の子にモテなくなるからだ

値段も上がるし周囲の目もキツくなると上司がぼやいてたな

でもあの人には奥さんいたし子供もいたな

俺の何が悪いんだろう

「ぷへっぷへっ。なんじゃこの臭いは。うん?お主ガキのくせに

タバコなんて吸っとるのか。感心せんぞ」

胸元からリタが飛び出してノイヤに文句を垂れる。

「なっなんですか?妖精?」

「あーこいつはリタって言って俺の守護精霊なんです。やかましいですけど

無視してください」

「羽虫は扱いすな!!」

ぶーぶーいうとこはマジで虫だ

「へー!魔術師の方ってやっぱりすごいんですね。精霊を操れるなんて!」

「わしはペットじゃn」

「ありがとうでも見ての通り全然制御しきれてないからそんなにすごいことじゃ

ないんだけどね」

「でもすごいです。精霊なんて初めてみました。」

やっぱり結構守護精霊というのは珍しいのだろうか

ノイヤの興奮ぶりはすごい

「まぁそもそも人間以外を見たのが初めてなんですけどね。親が危ない危ないって言って外には出してくれなかったから」

闇深いな と思ったが王都内でも強盗やモンスター襲撃がたびたびあるのだから

一人息子をわざわざ外に行かせたりするほうが酔狂なのかもしれない

リタの話を皮切りに話が弾んであっという間に目的地の海岸へとついた。


<王国領 海岸>

「それで結局ノイヤはこんなところまで来て何をするんだ?」

「それはですね・・ご飯探しです!!」

「・・・どういうこと?」

「僕実は帝国出身で15で成人したので社会経験として王国に来たんです。」

「あれ?家の外に出たことないって。」

「あの時はこんな旅ではなくほんとに荷物と同じように輸送でしたから

風景を見ることもできなかったんですよ。で話の続きなんですけど王国ってご飯不味くないですか?ナオさんも外国出身なのでわかると思うんですけど。」

外国というか異世界だし分別つけるのもあれかもしれないが王国の飯は

決して褒められたものではないだろう

肉主体で野菜は不味く肉料理も味付けがめちゃくちゃ濃いこしょう味だし

水もまずい 酒は美味しいらしいが筋肉に悪いのでこの世界に来て一滴も口には

していない

「帝国では水道が通っていて綺麗な水が井戸からくめるんですよ。ご飯も

王国みたいに野蛮でモンスターを食べたりせず、家畜の肉ですからね。

街中に水路が通ってていろんな場所から美味しいものが届くんです。」

すごい熱意だ

これが変人と謳われる所以なのだろう

だがそれは日本人としての俺の魂を強く打ちつけるものがあるのも

また事実だった。

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40歳童貞 異世界にて大魔法使いになる @baibaisan

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