エンカウント




 【エンカウント――〝シャドウ〟×1】



「なんていうことでしょう、敵です! 敵ですよ、クチナシ! あれは私たちを襲おうとしています! 私を守ってください! ――え? お前が戦わないのか? そんな野蛮なこと私に出来るはずが……」


 その時、ルクシュの姿に変化があった。


 白いワンピースからコートのような衣装に様変わり。その背には翼のような機械が備わっている――それは鎧のようでもあり、マントのようでもあり――有機体であり、銃火器を備えた巨大な手のひらのように見えた。翼の先端――五指にあたる部分が銃口になっていた。なんと禍々しい姿だろう。気味が悪い。


「そうでした、私は『天使ザ・フォールン』なのでした! 今ちょっと思い出しましたよ――このクズ共を浄化するぶっころすのが使命なのです! ……でも戦闘とか野蛮なことはやったことがないので、キミが私に指示をするのです! 私はそれに従うだけ! 何も悪いことはしていませんからね!」


 ふわっ、と――それまでも地に足のついていなかったルクシュがさらに浮上。それに呼応するように、地面に焼き付いたような黒い染みがもこりと浮き上がる。


「ふっふっふ、しょせんは地を這うことしか出来ない地上の魔物のけもの……空を飛べる私にかなうはずも――」


 その時、不定形の塊と化していた黒い染みが膨張する。直後、塊の一部が先鋭化し、ルクシュに向かって伸びあがった!


「うわっ、きったな!」


 とっさに急浮上し、攻撃をよけるルクシュ。その瞬間、身の危険を察したキミはルクシュの足首を掴んだ。


「ちょっと! 何をするんですか!」


 上昇するルクシュに掴まり、地上から遠ざかる。眼下のアスファルトでは、まるで針山のように複数のトゲが展開されていた。さっきまでキミが立っていた場所も黒く染まっている。


「むむむ……重くてそんなに高くは飛べませんが、気を抜くとどこまでも上がっていきそうだったので程よいおもりにはなりそうです。ですが、上を見上げてはいけませんよ、蹴り落としますからね!」


 そう言われ、思わず頭上を仰ぐ。ルクシュのスカートがはためいている。何かが見えそうだ。ルクシュが足蹴にしようとするが、生憎とキミが両足の足首を掴んでいる。

 片方の足が拘束を逃れる。何かが見えそうだ! しかし同時に、キミは命の危機を感じた。既に地上5メートルの距離。落ちるといろいろマズそうだ!


「せっかく片手が空いているのですから、キミもこれを使って戦いなさい!」


 と、ルクシュが何やらポシェットをがさごそやりだす気配がした。思わず顔を上げると、ルクシュの柔らかい足裏に頬をもみくちゃにされる。何かが見えそうだったが、キミは頭上から降ってきた物体を掴むことにした。


〈 ハンドガン を手に入れた!〉


 キミは手にした拳銃を早速、地上に向けた。引き金を絞ると、弾丸が放たれる。安全装置も何もなかった。射出された金属塊は地上の黒い染みに激突する――が、弾丸はひしゃげるも、黒い塊にはなんの変化も見られない……。


「むぅ……銃はあまり効かないようですね……。こんなザコ相手にこの私が直接手を下す必要があるなんて、」


 ――! 気を悪くした黒い染みが再度盛り上がる――弾力を感じさせる動きをしながらヘコみ――


「うわっ、何か飛んできました!」


 射出されたのは、黒いインクの塊のようだった。天使の頭ほどのサイズのそれは目にも止まらぬ速度で地上から放たれたのだが――ルクシュが驚く余裕があるくらい、中空に向かうにつれて徐々に失速していく。ぼよんぼよんと全体を震わせながら、ゆっくりと近づいてくる――



【銃を装備することで、キミも攻撃できるようになります。ただし、シャドウをはじめとした実体を持たない敵にはまったくの無意味ノーダメージ! 

 撃破するのは天使に任せ、敵がまき散らす障害物ブロックから天使を守ることに努めましょう】



 キミは頭に浮かんだイメージに従い、拳銃をそれに向けた。飛び出した弾丸それ自体は塊をすり抜けて地面に衝突するも、弾丸の生み出す気流の変化が塊を細かく砕き飛沫へと変えた。


「まあ、あんなもの簡単に避けられましたけどね!」


 空飛ぶ天使は良くても、その片足にぶら下がっているキミは直撃を免れなかっただろう。どうやら自分の身は自分で守るしかなさそうだ。それより、


「なんです? 早く倒せ? ……いいでしょう、ここらで私の有能さを見せてあげましょう! 私がいなければ何も出来ない自分の惨めさを自覚させてあげます!」



【心の画面を指でなぞると天使の動きをコントロールできます。神様気取りの彼女たちにどちらが真の指揮者なのかを知らしめてあげましょう!

 注意*あんまり勢いよく移動すると、ルクシュの馬鹿に振り落とされるぞ!】



 ルクシュが泳ぐように背の翼を羽ばたかせ、急浮上する。キミはルクシュの足に必死で掴まる。上空から黒い染みを見下ろしたルクシュは今一度翼を大きく羽ばたかせ――その先端を地上へ向ける。瞬間、無数の光の玉が放たれた。


 豪雨のように降り注ぐ光弾が地上を光の海に変える――たくさん撃った割に黒い染みに直撃Hit!した数は少ないが――


「やりましたよ、ご覧なさい! 跡形もありません!」


 アスファルトの地面には、元からあった亀裂とそこから顔を覗かせる雑草だけ――先の黒い染み状の怪物の姿はどこにもない。まるで何事もなかったかのようだ。全部夢だったのかもしれない。それならルクシュが得意げなのも納得である。


 ルクシュがゆっくりと下降する。上を見るなと言われていたので確認できなかったが、飛んでいるというより浮いていたようだ。今も翼を羽ばたかせることなく、徐々に空気が抜けるように地上へ近づいていく。

 地面に足が届きそうなところで、キミはルクシュから手を離し、飛び降りた。

 横に降り立ったルクシュはいつの間にか、元のワンピース姿に戻っていた。翼も消えている。


「ふう……。いい汗をかきました」


 冷や汗をかいたキミはようやく一息をつく。ルクシュの足を掴んでいた腕が痛かった。腕一本で全身を支えていたのだから仕方ない。


「ところでクチナシ、先ほど浮かんでいる時、向こうの方に複数の人影を捉えました。行ってみましょう。原住民にこの私の威光を知らしめるのです。……え? 飛んでいけばいい? それではあなたを置いていくことになるでしょう。自分が何なのかも分からない哀れなあなたを見捨てるような私ではありません」


 飛んで、連れていくという選択肢はないようだった。


「それに、さっきので体力を消耗しました。やはり激しい戦闘は性に合わないようです。私は女神のように温厚なので」


 天使はそう言うと、次の目的地を指さす。どうやら、進め、ということらしい。


 キミは促されるまま、前に進むことにした――




 ここでMVが流れます。いい感じの音楽と共に描かれる、壮大な世界観をご想像ください――




 体験版チュートリアルはここまでです。続きは製品版でお楽しみください。



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