×月×日

 帯刀はあるロゴスに則っていた。だから僕を凌駕していた。僕は違う。主に感情によって動いていた。これは当たり前のことで、普通の人間は感情に合わせている。嬉しいことは快諾するし、嫌なら拒否する。しかし帯刀は確たる信念を持っていたからそれぞれの文脈において規律に対応した行動をしていた。規律に当てはまれば承諾。外れたら拒否。あいつは優柔不断だと言っていた。確かに咄嗟の出来事に対してはそんなきらいがあった。でも大抵の行動は僕にはそんな風には見えなかった。今になって考えるとそれは規律のせいだったと思う。

 僕は本当に何も予想していなかった。帯刀と偶然に逢ったあの日、僕は今日のような一日が訪れるなんてわからなかった。わかったのだろうか。途中で、心を通わせる中で何か気付いてやれば帯刀は傷付かなかった? 僕は知らない。知らなかったんだ。

 最近寝つきが明らかに悪くなってしまった。三十分おきに目覚める。リビングの天井をじっと見入った。白い電灯が僕だけを見下ろしている。帯刀が流血して発見される前日、僕は帯刀に包丁を向けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る