第130話:闇の最期

『オオオオオオォォォォォォォォ!!!!!』


 大上段に構えられた聖剣のパチモンが振り下ろされる中、フィンの「散開!」という合図とともに全員がその場から飛び退いた。

 巨大化していることもあってかなりの威力を有した一撃は、俺たちが立っていた地面を砕き、土埃に加えて埋まっていた岩盤の一部までもをまき散らす。


「『防御結界陣』」


 飛散した岩盤が直撃することを考慮して、全員の体に結界陣を構築する。

 その様子を見ていたのか、こちらを向いたフィンと目が合った。


 直後、お互いが頷いた。


「『拘束陣』」

『ムッ!?』


 キングが振り下ろしていた腕。

 その周囲に突如として展開された魔法陣からいくつもの魔法の鎖が飛び出し、瞬く間にその腕を雁字搦めに拘束する。


 制御に干渉されるような感覚はあったが、周りにカバーしてくれる仲間がいるこの状況で制御以外に気を使う必要はない。それも『拘束陣』であればなおさらだ。


 制御の奪取は不可能と判断したのか、今度は無理やりにでも引きはがそうと腕にまとわりついた鎖ごと引き抜こうと全力で引き上げるキング。

 集中しなければすぐに破壊されてしまうため、こちらも全力で魔法陣に集中する。


「我が援護する!」

「頼んだ、リン!」


 俺の言葉ににやりと笑ったリンが赤い翼を広げて飛び出していった。

 キングの頭上まで急上昇したリンは、目下で俺の魔法と綱引きしているキングを見下ろすとその腕を空へと掲げた。


「全身、燃やし尽くしてやろう!」

『グゥゥゥッ……!! 小癪なぁっ……!!』

「『加速陣』『防火陣』」


 リンの掲げた手の先に、先ほどよりも巨大な火炎の弾が生成された。

 まるで太陽かともいえそうなそれを空を見上げて目にしたキングは、赤く染まった目の端を吊り上げながら悪態を吐く。


 そしてその直後、俺が拘束していた腕を自ら切り落としてその場を離脱した。


「ぬっ……自切しおったか」

『フハハハ! 余の体はこの妖精郷世界があるかぎり何度でも再生する!! 容易く倒せるとは思わぬことだ!!』

「なら、その腕。もう一本はまた僕がもらうよ」

『フハハハ――は?』


 ザンッ、と笑い声をあげていたキングの腕に黄金の一閃が駆け抜け、見事にその腕を切り落とした。

 そして同時に『加速陣』で速度を増していたフィンが着地し、振り返ってキングを見上げた。


『今炎の中から……!?』

「頼りになる仲間がいるからね!」


 だろ! とこちらを見たフィンに肩を竦めながら次の魔方陣を展開する。

 切り離した腕を『加速陣』によって一気に駆け上ったフィンは、リンの炎を『防火陣』で耐えながら一直線にキングの元まで跳んでその剣を振るったのだ。


 目が合った時からやるような気はしてたし、こちらには未来視もある。

 合わせることなど、俺からしてみれば簡単な話だ。


 だがフィンで終わり、なんてそんな甘いことがあるわけないよな?


「それより、僕ばかり見てても仕方ないんじゃない?」

『ッ!?』

「「ハアアァァッ!!」」


 フィンの言葉と同時に、地を駆けていた赤園と青旗の二人がキングの足を斬りつける。

 だがフィンほどではないためか、二人がかりでも巨大化したキングの片足を切り落とすことはできなかった。


『勇者ならともかく、汝らにやられるほど余は弱くはないゾッ……!!』

「私達二人だけなら!!」

「そうだったかもね!!」


「――ボウセット」

「汝に我が力を授けよう。『祝福の手』」


 手持ちの宝石を全て割りながら、矢を番えた白神の肩に手を当てて唱える。

 その様子を見ていたマリアンヌは、感心したように「流石ケントくんですね」とほほ笑んでいた。


「できるとは思っていましたけど、まさかこの数分でやってしまうなんて」

「これでも賢者なものでね。それより白神、力の譲渡はうまくできてるか?」

「もんっ、だい、ないです……!! ちょっと制御が難しいですけど、必ず当ててみせます……!!」


 引き絞る魔力の矢に込められた力が増していく中、歯を食いしばりながらキングへと狙いを定める白神。

 『祝福の手』はマリアンヌのような上位レベルの神官が扱える魔法だ。


 その効果は使用者の魔力を対象へ譲渡するというもの。

 治癒魔法の魔力を残す必要があったため、あまり使用することこそなかったが、何度か魔力不足になった際にお世話になっている。


 その魔法を、先ほどマリアンヌから教えてもらい今使えるようにしたのだ。


 0からの習得ならともかく、使用者であるマリアンヌがいるのなら簡単な話だった。


 そして引き出すマナの量は、使用者の魔力量に比例する。

 『保管陣』にしまい込んでいた今迄にため込んだ魔力を含んだ宝石。そのすべてをこの一撃のために使ったんだ。


 どれだけのマナがこの一射に込められているのか、それは俺でさえうまく把握はできない。


 だが、確実にその威力は星の一撃と呼んでしまってもいいだろう。


「決めろよ! おめぇら!!」

「きついお仕置きを叩き込んであげましょう!」

「「ホワイト!!」」

「我にその一撃、見せてみよ小娘ぇ!!」


「任せたよ!! 二人とも!!」



「さぁぶっ放せ!! 世界と星、どっちが強いか比べてやろうぜ!!」

「迅雷の弓よ、今ここに雷の証明を! サンダーアロー!!」


 『祝福の手』によって俺から白神へと譲渡したマナの効果で、今迄とは比べ物にならない程の規模で放たれた一射。

 白神の弓が余波で壊れそうになるほどの威力で放たれた矢は、その直後から視界を眩ませるほどに発光し、一直線に標的に襲い掛かった。


 巨大化したキングを呑み込むほどの矢は、その規模も相まってもはや光線のそれだ。


『ッ!? こ、こんなところデェッ……!! 余は、負けるわけにはッイカンノダァァァアアア!!!!!』


 未だに半ばまでしか再生していない腕を無理やり動かして前へと突き出したキングは、その一射を受け止める体勢へと入った。

 しかしその直後、背後に展開された魔法陣からいくつもの鎖が飛びだすと、突き出していた腕をからめとって左右へと広げさせた。


 受け止めて、防ぐことすら許さないと言わんばかりに。


「風穴開けられたんだ。仕返しはきっちりやらせてもらうぞ……!!」

『け、賢者貴様ァァァァァ!!!』


 赤い目が俺を見る中、じゃあな、と杖で地を突く。

 腕だけではなく、全身を鎖で縛られたキングは、逃げることも抵抗することもできずに光線となった矢に全身を呑み込まれた。 


『ヌゥオオオオオオオォォォォオオオオオォォォォオオオォォォ!?!?!?!?!?!?!?』


 断末魔のような声を響かせながら、徐々に徐々にその体を構成する闇が消滅していくキング。

 やがてその光が収束して消えてしまう頃には、かつてはキングであったはずの小さな闇の塊のみがその場に残っているのだった。


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