第129話:全員集合

 懐かしい感覚だ。


「ガリアン! あの三人のカバーに入ってくれ! その盾で思い切りぶん殴ってこい! フィンは後ろから攻めろ! 気を引く役割は俺たちがやる!」


「わかった! 任せるよ!」

「久々のケントの指示だ! そのくらいやってやる!」


 真っ先に駆け出して行ったガリアンとフィンの後ろを追う形でついて行き、その途中でフィンと別れた俺とガリアンはキングを攻め立てる白神達の元へと向かった。


 今のところはうまく連携をとっているようで状況は五分五分だろう。だが、また何かあれば不利になってしまうような危うさもある。

 幸いフィンが一時的に弱らせてくれたおかげで、白神達もそう簡単には崩されるようなことはないだろうが、それでも今のうちに状況有利に持っていきたい。


「ガリアン! 盾で殴る準備をして跳べ!! 一気に運ぶぞ!」

「任せた!」


 こちらを見ずに一気に速度を上げた巨漢が前方方向へと大きく跳び上がったことを確認した俺は、直後に杖を突いて魔法陣を展開する。


「『空間置換陣』『防御結界陣』」

「うおぉおおおおおお!!!」

『なっ……!? いったいどこか……ゴフッ!?』


 魔法陣の真上を通過したガリアンの体は、そのまま『空間置換陣』によって巨大化したキングの顔面付近に瞬間移動する。

 そしてその足元に展開した『防御結界陣』を足場にすると、弾丸のような速度で突撃をキングの横面へと食らわせた。


 これぞ俺たちがよく使用していた奇襲戦法。

 移動対象はガリアンだったり、フィンだったりもするが、どちらの場合でも敵に痛手を与えられることには変わりない。


 ガリアンが手にしていた盾が直撃したことで、キングの体勢は大きく崩れた。


 あわや倒れるかとも思ったが、流石にそうはいかないらしい。キングは一歩、外側へと足を踏み出すとよろめきながらもなんとか持ち堪えてみせた。


「チッ、まだ足りねぇかあ……!」


 宙から落ちながら悪態を吐くガリアンの足元に再び魔法陣が光ると、直後にはまた地上へと戻る。

 すると、そこにはちょうど白神達三人がいたらしく急に隣に現れた巨漢に驚いている様子だった。


「あの、あなたは……」

「ん? おお! 嬢ちゃんたちか、ケントが英雄になれるって期待しているのは!」


 ガリアンだ、よろしくな! と親しげな様子で手を差し出したガリアンに戸惑いながらもその手を握り返す赤園。

 俺はそんなガリアンの背後に追いつくと、その頭に向けて杖を軽く落とした。


「ちょっとは遠慮できないのか。戸惑ってるだろ」

「あん? そうだったのかよ」

「あ、先輩!」


 俺の姿を見た赤園が安心したような笑みを浮かべた。

 よう、と声を掛けながらガリアンの隣に並んで青旗と白神の様子も確認するが、赤園と同じくこちらも笑みを浮かべられるくらいの余裕はあるようだった。


「手短にだが紹介する。俺が異世界言ってた時の仲間の一人で、ガリアンだ。見た目通りの脳筋だが、こいつほど突撃させて安心できるやつもいない」

「紹介雑じゃねぇか?」

「褒めてるんだからいいだろ」

「……ならいいか!」


 ガッハッハ! と大笑いするガリアンにどう反応すればいいのかわからないのか、赤園たちがこちらへと視線を向けてきた。


「安心しろ。こいつも含めて、今から俺たちも前線に加わる。怪我したら下がって、あそこのマリアンヌに治療してもらえばいい」

「まぁ、そもそも怪我するような攻撃は俺が止めてやるがな!」


 任せろ! と盾を掲げるガリアンの姿に安心でもしたのか、どこか安堵したような表情ではいと答える赤園。


『余を前に話とは、随分と舐めておるな貴様らァ!!』

「僕がいるからだよ」


 よろめいていたキングが体勢を整えて拳を大きく振りかぶる。

 だが天高く振り上げられた拳はそのまま振り下ろされることはなく、代わりに半ばから断ち切られて落下。


 駆け抜けた黄金の一閃を忌々しく睨みつけるキングの目が更に赤く染まった。


『グゥッ……!! 忌々しい……!! その光、必ずや余の手で消し去ってくれる……!!』

「ほう? ならこんな光はどうだ? 爆炎だがなぁ!!」

『っ……!?』


 憎悪の目をフィンに向けたその瞬間、死角から飛び込んできたのは炎の弾。

 だがその弾は巨大化したキングの体を丸ごと覆い隠せてしまえるほどの巨大な炎の塊だった。


 着弾と同時に巨大な大爆炎を巻き起こしたその様子を見て、赤園たち三人はその熱気で熱いはずなのに冷や汗を流した。


「リンのやつ、また威力上げたのか?」

「おう。最近のあいつはすげぇぞ? この間はくしゃみで山の一部を消し飛ばしやがったからな。それよりフィン、大丈夫だったか?」 

「いやぁ~危なかった……僕がまだいるんだから手加減してほしいよ」


 思っていた以上にヤバそうなエピソードを聞いて、あとで問い詰めてやろうと考えていると、額の汗を拭いながら近くに着地していたフィンが俺たちと合流した。

 ところどころ煤けてはいるが、それだけらしい。結構な近距離で爆風を受けていたと思うがまぁフィンなら当然だろう。


 そしてそんなフィンの顔を見た赤園が「ああ!!」と何かを思い出したかのように声を上げた。


「フィンさん!」

「? 確かに僕はフィンだけど……どこかで会ったことがあったかな?」


 フィンの名を呼ぶ赤園の顔を見て首を傾げるフィン。

 赤園がフィンを知っているのは世界樹の試練によるものだろう。確か、赤園の試練相手がフィンのコピーだったはずだ。


 そのことを青旗に小声で吹き込まれたのか、耳打ちされた後に「あ、すみません……」としおらしくなる赤園。

 そんな彼女の様子に再び首を稼げたフィンだったが、その手をためらいなく赤園の頭へと乗せると思い切りかき乱した。


「わ、わわ……!?」

「何でかは知らないけど、僕のことを知っているんだね。なら話は早いよ」


 ははっ! と笑って見せるフィンはそう言って自身の胸を拳でドンと叩いた。


「僕はフィン。勇者で、そしてケントの仲間でもある英雄だ! ケントから君達もまた英雄たらんとする者だと聞いている


――僕たちとともに、戦ってもらえるかい?」


「っ、はいっ!! いいよね、皆!」

「当然! 例え一人だったとしてもやってやるつもりだったわよ!」

「はい! 先輩たちも一緒なら心強いです!」


 三人の表情が一気に締まったのを見て、フィンは嬉しそうに頷いた。

 やはり、こういうのを見ていると勇者なんだと改めて思わされる。


 だからこそ、こいつが勇者なのだ。


「何じゃ主ら、楽しそうじゃの」

「うふふ、仲間外れは寂しいですよぉ~」


 翼を広げて飛んできたリンと、そんなリンに抱きかかえられてやってきたマリアンヌも合流し、これで全員が顔を合わせたことになる。


『ヌゥゥゥ……!! よくも……よくもよクもヨクモ……!!!』


 爆炎が晴れ、姿を現したキング。

 既に再生を始めてはいるものの、ところどころは未だに炎が纏わりついてその身を焼き焦がしている。


 その赤い目が、今まで以上に赤黒く光を放った。


『汝らは必ずここで……! 余自らの手で!!』


 再生しきった腕を掲げれば、再び闇を固めたような塊が現れる。

 その塊に手を差し込んだキングが徐に引き抜けば、その手に再びフィンの持つ聖剣を模したような漆黒の剣が現れた。


『必ずや余の怨敵を打ち滅ぼす!!』

「形も真似てほしくはないんだけね!!」

「全くだ。フィンの真似をしたこと、絶対後悔させたやらぁ!!」


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