第128話:勇者パーティ
「……」
イーヴィルキングは、焦ることも、怒ることもなく、ただただ切り落とされた腕の切り口を見つめていた。
特に痛みがあるわけでもなく、そしてキングにとって痛手であったわけではない。
現に彼の腕は、
だがそれでも、イーヴィルキングは動かない。
「あ、あぶなかった。落ちることを考えてなかったよ……失敗だね、これは」
視線を移せば、そこにいたのは黄金の剣を手にしながら額の汗を拭う男の姿。
勇者フィン
津江野賢人が異世界において得た親友であり、相棒。そして魔王を倒し世界を救った英雄にして次期国王。
親友の賢者であれば、もっと鼻高々に当たらずとも遠からずな大言壮語を宣うであろう人物。
そしてイーヴィルキングにとっては、伝説の騎士である
配下であるマスキュロスが倒されたことで脅威と判断し、世界樹の宝石を入手した後に世界ごと滅ぼそうと考えていた。
だからこそ、イーヴィルキングにとっては二の次の相手であった。
今、この時までは。
『……その、剣は……光は……』
ぼそりと誰にも聞こえない声で呟いたイーヴィルキングの目に映る黄金の剣。
知っている。
『ああ……知っている。よくも知らぬ、この目で見たことなどない光だが……この魂は覚えている……!!』
記憶の欠片に残る、黄金の光へと向けられた憎悪をイーヴィルキングは知っている。
その形を覚えている。
『見つけたぞ……!! 余の、この魂の怨敵を……!! 貴様が……貴様が余の……!!』
怒気が混じったのか、今まで以上に赤く発光した眼が地上で剣を手に賢人たちの様子を見守っていたフィンへと向けられる。
『余の魂の怒りを、今ここでェェェェ!!!』
再生した腕を振り上げて叫ぶイーヴィルキング。
巨大化しているイーヴィルキングにとって、拳程度のフィンを圧死させるには十分な一撃。
常人であれば、簡単にぺしゃんこにされてしまっただろう。
「何に怒っているか、僕にはよくわからないんだけどさ」
だが、その一撃が向けられたのは常人ではない。
腰だめに構えられた聖剣が、その狙いを降り下ろされる拳へと定めた。
「怒っているのが、君だけだと思わないでほしいんだよ、僕は」
英雄であり、そして勇者。
聖剣という、星が創り出した剣によって、その在り方を認められた人物。
「聖剣、解放――」
――この一刀は魔王を滅するものなれば
「『ルミナス・スマイト』!!!!」
一層に黄金の輝きを増した聖剣による一閃。
その一閃は斬撃となり、そして光の帯となってイーヴィルキングを吞み込んだ。
『ヌゥォオオ!? ま、ちがいない……!! この光が……!! この光こそが余の記憶の……!!』
光に呑まれるイーヴィルキングが断末魔のような大絶叫を上げる。
フィンが魔王を打倒した光の一撃。
剣に蓄えられているマナを光へと変えて斬撃と共に放つ一閃。
そしてフィンが魔王を消し飛ばした一撃である。
聖剣は魔力の澱みから生まれた魔物、そしてその親玉となる魔王にとっては致命的なダメージを与える星のマナから生まれた武器だ。
その魔王に連なるイーヴィルキングにとっても、その攻撃が脅威であることには変わりがない。
だがしかし
脅威ではあっても、完全ではないのも事実であった。
「……やっぱり、魔王そのものじゃないから、かな」
『ハァッ……! ハァッ……!』
やがて帯となった光が収束すると、その中から現れたのは腕と胸の半ばまでを消し飛ばされたイーヴィルキングの姿であった。
肩を上下させてはいるものの、滅ぼすまでには至らない。
『……フハ、フハハハ……フハハハハハハハハ!!!!! ハァーッハッハッハ!!!!!』
その事実に気付いたイーヴィルキングは、焦りの様子から一転して笑い声をあげる。
勇者の攻撃では自身を滅ぼすには至らないと、そう確信して高らかに笑う。
『余は勝ったぞ……!! 克服したぞ……!! 記憶の奥底にあった余の恐怖の一因を……!! 魂が屈した光の一撃を……!!』
再生しながらどんよりとした天を仰ぐイーヴィルキングは、今しがた先ほどの一撃を放った勇者へとその目を向けた。
『さぁ! さぁ! これで汝の力では足りぬことが証明された!! この魂の怒りを、どうぶつけてやろうか!! 一撃では足りぬ……そんな呆気なくは済まさぬ! 許さぬ! まずはその四肢を捥ぎ取り、動けない中嬲り殺しにしてやろう……! 汝の行いを後悔しながら、絶望の中で死んでゆけ……!!』
「ずいぶんと、怖いことを言うんだね」
捲し立てるイーヴィルキングの言葉に、フィンは肩を竦めて剣を構える。
「確かに、僕だけじゃ足りていないんだろう。聖剣が反応しているから魔王の類だとは思うけど、似ているだけの別物にはちょっと相性は悪いのかもしれない」
でも、とフィンは笑う。
「足りていないからこそ、それをどうにかしてくれる仲間がいるんだよ」
「他力本願やめぃ」
コツン、と後ろから伸びた杖の石突がフィンの後頭部を小突くと、フィンはイテッ、と笑いながらも隣へと並び立つ親友に苦笑を浮かべた。
「でもやってくれるんだろう?」
「当然。そのための
さっきはよくも風穴開けてくれやがったなこの野郎……! と杖を握りしめる親友の姿を頼もしく思いながらフィンは内心で笑みを浮かべた。
またこうして、君と肩を並べられた。
もう会うことはないだろうと考えていた友と再開することができた。
状況はあまり褒められたものではないのかもしれない。
しかしその事実は、フィンにとって何よりも喜ばしいものであることに違いはない。
「それとな
「それは興味があるな。どんな子たちなんだい?」
「大事な俺の後輩で、そんで英雄にもなれる奴らだよ。ほら、あれ」
ケントの指さす先で立ち上った三柱の光。
赤、青、白の光が上空へと伸び、そしてその光がイーヴィルキングへと向かって一直線に急降下する。
『グゥッ……!! まだ諦めぬか、
「諦めるなんて……!!」
「そんなこと……!!」
「あるわけないじゃない……!!!」
マリアンヌによって再起した三人が勢いよくイーヴィルキングを攻め立てる。
「なるほど、頼もしい子たちだね」
「だろ? 負けてられないぞ、俺たちも」
そうだろ? とケントが後ろを振り向いた。
つられる形でフィンも振り向けば、そこにはガリアン、マリアンヌ。そしてリンの三人が揃って頷いていた。
「おう! 守りは任せろ! 物理も魔法も、全部この盾で受け止めるぜ!」
「だからって死なないでくださいね? 死なせませんけど」
「こんな時にイチャ付くでないわ……それよりケント。我との相性の良さをあの娘に見せつける良い機会じゃ! いっしょに行くぞ!」
「おめぇの方が脳内お花畑じゃねぇか!!」
「あらあら~もう~リンちゃんったらぁ~」
騒がしい三人の様子を見て、いつも通りだなぁと苦笑するフィン。
そんなフィンに一歩近づいたケントは、小さな声でフィンへと尋ねた。
「ガリアンとマリアンヌって、そういう関係になったのか……?」
「うん、君が帰ってからね。結婚してるよ」
「マジか、あとでお祝いの品を送らないとだな」
全部終わったらね、というフィンの言葉に力強く頷いたケント。
そんなケントに向けて、フィンはすこしからかうように笑みを浮かべた。
「でもケント、大丈夫かい?」
「何がだ?」
「帰ってから動いていなかった君が、僕の動きに合わせられるかなってね」
その言葉に一瞬キョトンとして見せたケントであったが、やがて「抜かせ」と笑みを浮かべる。
「そっちこそ、あのお転婆姫の尻に敷かれて政務ばかりだったから動けない、なんて情けないことにはなるなよ?」
「ははっ! 面白いことを言うね。それじゃぁ、皆。久しぶりの勇者パーティだ! 行くよ!!」
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