第123話:宝石の騎士と悪の王2
「どんな耐久してるのよ……」
ボソリと小さく呟く舞の言葉に、ねねはまずい、と武器を握る。
かなりの無理を通した体は、暫く休めなければ先ほどのように動くことは難しいだろう。
笑いだしそうな膝を精神で押さえつけて二人はキングを見据えた。
そんな二人の様子を見て、影の主は「ほう」と零す。
「なるほど、かなりの無理を通したようだな。余が危険だと感じるほどに刃を届かせたのだ、誇るが良い」
だが、と続ける。
「無理の代償は大きかったようだな?
「できないかどうか、試してあげましょうか?」
キングの言葉に、槍を構えて答える舞。
しかし、構えてみせた槍は疲労によって震えていた。既に出し切った彼女にとっては、馴染んだはずの武器である槍も重りのように感じてしまう。
「口は元気なようだな? 口は、だが」
「くっ……」
悔し気に睨む舞にたいして余裕を見せたキング。
だが今の二人は睨みつける以外に抵抗の意思を示す手段がなかった。
――せめて少しでも休めれば
(どうしよう……今の状態で攻めても、通用しないことはわかってる。けど、このまま攻められたら太刀打ちできないかもしれない……!)
考えたところでなにも思い浮かばない自分に歯噛みする。
最悪、自分ひとりで突っ込んでその間に舞に休んでもらおうか。
そんな考えが頭をよぎり、いよいよもって力の入らない手で無理やり剣の柄を握りしめたその時。
雷光が二人の間を駆け抜けた。
「ヌォッ!?」
突然の雷に体を倒せば、特大の雷光がキングの頭を掠めて背後の壁へと着弾する。
「レッドさん! ブルーさん! ここは私に任せて休んでいてください!!」
「ホワイト!? 待って!」
今まで背後から援護していた夕が駆け出し、ねね達の前に出る。
呼び止めようとしたねねであったが、その前に放たれた矢は四方八方へと分離し、雨霰とキングに降り注ぐ。
ダメージにはならないかもしれないが、それでも牽制にはなる攻撃だ。
「私だって
「ホワイト……」
「くっ……レッド! 動けるようになったらすぐに行くわよ!! ホワイトも! 無理はしちゃダメだからね!?」
舞の言葉に、「はい!」と元気よく頷いて見せた夕が再び矢を放つ。
「ふははは! ここで来るか、弓の騎士よ!! その勇姿を称えて相手をしてやろう!!」
「言われなくても!」
こい! と剣を構えてみせるキングに向けて、夕は躊躇うことなく矢を放つ。
分岐する矢はもちろんのこと、大量の矢による射撃の合間に放たれる特大の雷には、流石のキングであれども簡単には防げないらしい。
時折くぐもった声を漏らしながら剣で弾き、夕との合間を詰めようとするキング。
だが夕も距離を詰められれば不利になることはわかりきっていることであるため、矢で牽制しながら慎重に立ちまわる。
その際、ねねや舞たちから離れるようにキングを誘導し、できるだけ休む時間を稼ぐ。
(そのくらいのことはやらないと……!!)
武器が弓であるため後ろから援護することしかできない夕は、前に出て戦う二人に対して心のどこかで申し訳ないという気持ちがあった。
もちろん、そのな事を気に病む必要はないと二人なら言うだろう。
ねねであれば自分の援護で助けられていると、舞なら適材適所だと。
だが、その二人が息を切らして追い込まれている。
疲弊している二人に対して、今迄矢を打ち込むことに専念していた自分。
ならば、少しでも二人の助けになるように動かなければならない。そしてそれは今までのように矢を放つだけではダメなのだ。
二人がy住めるだけの時間を稼ぐには、もう後ろに立っているだけでは意味がない。
(前に出て、私が相手をしないとダメなんだ……!)
幸い、後方支援がメインでも立ち回れるようにと賢人からの師事は受けた。
放った矢が漆黒の剣で叩き潰される様子を確認しながら次弾を番える。
「ハァッ!!」
「っ……!」
だが、その次弾を放たせないとキングは足元に剣を突き刺し、そして思い切り振り上げた。
いくつもの飛来する瓦礫は、そのどれもが人間の頭ほどの大きさだ。いくら変身しているため死ぬことはないだろうがそれでもダメージは免れない。
急遽狙いをキングから変更し、瓦礫を迎撃するために矢を放った。
細かく分岐した雷の矢は瓦礫を拳大の大きさに、さらに小石程度の大きさに。そしてついには粒状になってはじけ飛んでいた。
開けた視界の先でキングが笑う。
「フハハハ!! 余がこれほど詰め切れぬとはなぁ!! 驚いたぞ、弓の騎士よ!」
「……そうですか。なら大人しく矢に射貫かれてほしいんですけど」
「そういうでない。まったく、遊びは終わりにしようとは言うたが、これではまた遊びたくなるではないか。つくづく、
だが、とキングは剣を天井に掲げた。
「余も配下に約束したのでな」
剣先からあふれ出した闇がキングの足元へと落ちると、まるで意思を持っているかのように周囲に広がり始めた。
警戒して弓を構える夕の目の前でいくつもの渦を創り始めた闇は、やがてその中心から漆黒の人型が姿を現した。
「これは……!」
「もともとクイーンは余が生んだでな。再び取り込んだ今、余にも似たことはできる」
さぁいけ! とキングの合図と同時に、生み出された数十体の闇人形が夕に向かって駆け出した。
「こんなに……でもっ……!!」
その数に一瞬気圧されそうになる夕だったが、勇気を奮い立たせて矢を放つ。
数が数であり、そして接敵まで時間がないことを悟った夕は、分岐する雷を即座に番えて射った。
――そのすべてが、闇人形が手に叩き潰された。
「劣りはするが、その程度は効かぬぞ?」
「ブルー!!」
「わかってる!! でも……!!」
夕の危険を悟った二人が駆け出すが、未だに疲労が抜けぬ体では間に合わせることができない。
闇人形が振り上げた手の先が、剣のような鋭い刃と化す。
「ホワイトー!!」
いよいよもってその刃が夕に向けて振り下ろされるその様子を、ねねと舞の二人はその目で見ていることしかできなかった。
ジャキン、と音が響く。
迫る刃に固く目を閉じて身構えることしかできなかった夕は、いつまでたっても訪れないその時が来ないことに違和感を感じてそっと目を開けた。
四方から取り囲むようにして迫っている闇人形に変わりはない。だが、その闇人形たちが一様に腕を振り上げたままその動きを止めているのだ。
「……ほう?」
その腕の先に夕が目を向ければ、鎖のようなものが結びついていた。
「『大火柱』」
下から噴き上げた巨大な炎の柱が夕を取り囲んでいた闇人形を一気に燃やし尽くす。
「まだ動けたか、死に損ないよ。……といっても、今にも死んでしまいそうではあるがな?」
「うるせぇよ」
未だおぼつかない足取りに、血こそ止まってはいるものの穿たれた穴はそのまま。
それでも、立ち上がって杖を構えてみせる賢者がそこにはいた。
「先輩!? 動いちゃダメって言ってたじゃないですか!!」
「死なない約束はした……が、動かない約束はしてないからな」
驚きと困惑で叫ぶ白神を落ち着かせるような静かな声で答える賢人は、その目をキングに向ける。
その目が捉えたのはキングが手にしていた漆黒の剣。
「ふざけやがって……形だけとはいえ、お前がそれを手にしてることは絶対に許せねぇ。だがな、今はそれは二の次だ」
フゥ―ッ、と大きくゆっくりと息を吐き出す。
「後輩が……未来の英雄が、頑張ってんだ。ここで俺が立たなきゃ、元英雄として示しがつかねぇんだよ……!!」
ガンッ!! と思いきり杖で足元を殴りつけると、賢人を中心に広がった魔法陣が全員を取り囲む。
「制御? 奪えるもんなら奪ってみろ。賢者の意地ってもんを見せてやらぁ!!」
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