第122話:宝石の騎士と悪の王1
「ぐっ……二人とも、大丈夫……?」
「なんとか、受け身はとったわよ……」
「め、目が回ってますぅ……」
ダメージはあったものの、動けない程ではない。
なんとか立ち上がったねねが他二人に呼びかけると、舞は槍を支えにして立ち上がり、夕は逆さになった状態で目を回していた。
ねねと舞が手を貸して夕が起き上がると、武器を構えて視線の先を見据えた。
「……どうやら、まだ本気じゃなかったみたいだね」
クイーンが闇の粒子となって消え去り、ゆっくりと振り返ったキングと対峙した三人。
中でもねねは、キングから感じ取れる圧のようなものが先ほどよりも増しているように感じとっていた。
無意識に剣を握る手に力が入る。
「……私の気のせいかしら。さっきよりもあいつ、大きくなってるように見えるんだけど」
「わ、私もそう感じます……」
「でも、これ以上私達もやられるわけにはいかない。折れちゃだめだよ、二人とも」
賢人が動けない今、キングに唯一対抗できるのはねね達しか残っていない。
ここで彼女らがやられてしまえば、宝石は奪われたうえに世界樹を掌握され、さらには妖精郷以外の他の世界にまでその悪の手が向けられることになる。
無差別な復讐を為そうとするキングのことだ。支配下に置かれた世界がどうなってしまうかは想像に難くない。
赤い目が、三人を捉える。
「む、立ち上がっていたか……いや、むしろそうでなくてはな。ここ
仰々しく腕を広げて天を仰いで見せたキング。
その様子を訝し気に睨む三人であったが、直後感じ取った悪寒に顔を上げた。
見上げた先、キングの頭上。
そこにはいつのまにか渦を巻く巨大な闇があった。
「余の記憶の欠片にあったものを再現してみたが……初めてにしてはなかなかうまくいったものよ。もっとも、見た目だけの模倣品ではあるがな」
渦巻く闇が徐々に収束し、やがて大きな球体へと姿を変える。
その球体に向けて徐に腕を突き刺すと、同時にその闇の球体が大きく弾けた。
現れたのは、漆黒の剣。
キースが手にしていたシンプルなものとは違う。黒一色であるにもかかわらず、細かい装飾のようなものが伺える両手剣だった。
キングの体のサイズには合っていないようにも感じるそれであるが、満足そうに振るってうんうんと頷いている。
「あの剣……」
キングの手に握られている剣を見て、何か引っかかるものがあったねねであったが、その違和感の正体に気付くことはできなかった。
「レッド、どうする。あっちも武器を持ち出してきたけど……」
「え……? あ、そう……だね。前は私とブルーの二人、全力で強化して攻めるよ。ホワイトは数は無視して一射の威力を重視して。さっきのを見る限り、全力で攻めれば攻撃が通用することはわかったから」
「わ、わかりました……!」
既に弓を構える頼もしい後輩の姿に頷きながら、ねねと舞は宝石からの魔力供給を増大させる。
先ほどよりもより強く、より速く、より鋭く。
体と武器を巡る魔力は彼女らの意を汲み取ると、彼女らの体に炎と水を迸らせた。
「ふははは!! 来るか!!
爆発的に高まった魔力を感じ取ったキングも、それに呼応するように体中から闇を迸らせて剣を構えてみせる。
「いくよ、ブルー!! 合わせて!!」
「わかってるわよそんなこと!!」
ダンッ!!! という爆発音とともに彼女らの駆け抜けた後には炎と水の残滓が軌跡として跡を残す。
普通であれば視認することすら不可能なほどの速度。
だがそんな彼女らの姿をキングはその目で捉えていた。
一直線に真っ直ぐに向かってくる二人の姿に、キングは内心で見えているぞとほくそ笑む。
彼女らの速度に反応できていないと思わせてギリギリまで引き付け、カウンターを叩き込む。
そう考えていたキングがいよいよもってその刃を振るおうとした、まさにその時であった。
「そう来るのは!!」
「わかってんのよ!!」
「む……?」
刃を振り下ろす直前、さらに一段速度を上げた二人が左右それぞれに分かれてキングの剣を躱すと、その頭に彼女らの後方を追従するように追っていた雷の矢が着弾した。
焼かれた視界でみれば、その視線の先では第二射を構える夕の姿。
そして反射的に夕の姿を見ようと前を向いたキングのその横合いから、未だにトップスピードを維持したねねの剣と、舞の槍による挟撃がその首筋に叩き込まれる。
「グォォォォッ……!?」
切り落とされることこそなかったものの、刃はかなり深くキングの体を傷つけたことは勢いよく吹き出だす闇を見れば一目瞭然だ。
だがそれでも油断をしないと、二人のコンビネーションによる攻撃は続けられ、さらには特大の雷が襲い掛かる。
攻めて攻めて攻めて、キングの再生が追い付かなくなるほど激しく攻め立てる。
賢人の使うマナとは少し異なり、彼女ら
星が生み出す魔力と似たような性質を持つが、大きく異なるのは全ての世界の中心となる妖精郷、その世界樹が創り出す魔力であるということだ。
故に世界樹の魔力はマナと比べても少量で大きな力を発揮する。
そしてその魔力を過剰に強化へと回したことで、その負荷が少しずつ彼女らの体を疲労で蝕んでいった。
やがて、彼女らの体と武器が纏っていた炎と水の残滓は消え失せ、大きく肩で息をするねねと舞がキングと対峙する形で足を止めた。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
「ちょっと………無理、しちゃった……わね……」
変身しているとはいえ、無理をすれば疲弊するのは当然のこと。
今まで感じたことのない疲れに息も絶え絶えな二人であったが、反撃も許さず、そして息もつかせぬ怒涛の攻撃はキングの再生速度を確かに上回っていた。
これならばあるいは、と彼女らは両膝をつき、ボロボロの姿となったキングを見据えた。
「今のは、かなり効いたぞ」
絶望がにやりと笑って見せた。
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