第119話:賢者の油断
「どうやら、他も決着がついたみたいだぞ?」
後輩達の戦いが決着する中、俺は対峙するクイーンに杖を突きつける。
もう抵抗する気がないのか、『拘束陣』を使えばあっさりと捕まってしまった。
だがそれでも油断はできない。
拘束し、戦力である人形はつい先ほど燃やし尽くしたが、またいつ追加で出て来るかわかったものではない。
そのため動けば攻撃するという意を込めて、その一挙手一投足を注意深く観察しながら語り掛ける。
「キースもアンフェも、それにプリッツもいなくなった。あとはさっきのキングってやつと、もう一人
「……マスキュロスなら、もういないわよ。まったく、どいつもこいつも使えないんだから」
はぁ、と諦めたようにため息を吐いたクイーンが吐き捨てた言葉に、俺はなるほどと頷いた。
これだけ戦闘になっているというのに出てこないのは何か理由でもあるのかと思っていたが、すでにいないというのならば納得だ。
「先輩!」
するとそこへ、白神ことジュエルホワイトが駆け付けてくれた。
いや、白神だけではないな。魔力の感じからして、赤園と青旗のものも感じ取れる。
みんな戦いが終わって早々に来てくれたようだった。
「まだ油断はしちゃダメアル」
「アルトバルトか」
そして三人に遅れてやってきたアルトバルトは、拘束されたクイーンの前へと躍り出る。
クイーンはそんなアルトバルトを見ると、「あら、誰かと思えば逃げ出した王子様じゃない」と皮肉を込めて笑って見せる。
「私に何か用でもあるのかしら?」
「聞いたことだけに応えてほしいアル。君達は僕らの
あまり聞いたことがないアルトバルトの口調に俺は思わず目を見開くが、考えてみればアルトバルトの怒りも当然の物だろう。
何せ平和に暮らしていたら突然攻め込まれ、そして仲間を大勢失ったんだ。
アルトバルトの言う黒幕。それはおそらく少し前までクイーンとともに俺を相手していたあの声の主であるキングと言う奴のことだろう。
「それを私が言うとでも思っているのかしら?」
「僕たちがその黒幕を倒せれば、
真っ直ぐにクイーンを見つめるアルトバルト。
だがそんなアルトバルトを鼻で笑ったクイーンは、「あっはっはっは!!」とさも愉快そうに笑いだした。
「呆れたわねぇ。まだそんなことが言えるなんて、流石甘ちゃんの国の王子様ってところかしら? そんな愚かなあなた達に変わって私たちの創造主たるキング様が
「『無音陣』」
聞くに堪えない内容だったため、途中で魔法陣をクイーンの喉へと展開させる。
突然声が出なくなったことに驚いたのか、何かをしきりに叫ぼうとするクイーン。だがそんな彼女を無視して、俺はアルトバルトに話しかけた。
「アルトバルト。さっき言ってた黒幕についてだが、俺がお前たちが来るまで相手にしていたキングと呼ばれていた奴のことだと思う」
「キング……アルか?」
「ああ。俺の魔方陣の制御を奪ったりしてくるヤバい奴でな。戦っている時も姿は見えず声だけだった。もっとも、その声も三人が来てからは聞こえなくなったがな」
途中で声も聞こえなくなり、魔法陣の制御を奪われることもなくなったためクイーンとの戦いも有利に進めることができた。
だがそうなるとわからないのは、その声の主であったキングがどこへ行ったのかと言うことだ。
白神達が来たのを機に声が聞こえなくなったことを考えると、戦況が不利と見て逃げたか?
「そのキングの居場所は君に探せるアル?」
「そう思って探っているんだがな。残念なことに、俺の魔力視でもまだ見つかっていない」
あれだけ大きな魔力反応だったんだ。
すぐに見つかると思って探してはいるんだが、いくら探してもそれらしいものは全く見つからない。
「仮に逃げたとしても、こいつに合流されれば厄介なことに変わりはない。早いとこ倒した方がいい」
骸人形を出してこないのを見るに、先ほど燃やし尽くしたので最後だったのだろう。
『無音陣』によって声を出せないクイーンが何とかして『拘束陣』の鎖を引きちぎろうとしているのだがそれも無駄なことだ。
俺の言葉に武器を構えた三人を見て後ろへ下がる。
クイーンが片付いたら次はキングをやらを探すことになるが、それさえ済めばあとは俺の用事が待っている。
もう少しで俺の悲願を果たすことができると胸のペンダントを握りしめて事の成り行きを見守った。
「ブレイドセット」
「ランスセット」
「ボウセット」
静かに構えられたそれぞれの武器に光が集う。
高まっていく魔力の奔流。それを一身に受けることになるクイーンのことはかわいそうだとは思わない。
それ以上のことをやってきたと、あの骸人形が証明している。
「灼熱の剣よ、今ここに炎の証明を」
「静謐なる槍よ、今ここに水の証明を」
「迅雷の弓よ、今ここに雷の証明を」
いよいよもって振るわれるその光。
だが、俺はその光の向こう側でほくそ笑む何かを見てしまったのだ。
「ふむ。それは少々、余にとっては困るでな」
気づいた瞬間に駆け出した。
魔力視に移る強大な魔力の反応は、いつの間にか三人の後ろに立っていた。
「ちと貴様が厄介そうでな。先に始末させてもらうぞ?」
「え……?」
振り上げられた腕が振るわれた先には、弓を構えていた白神がいた。
「白神!!」
このままではまずいと手にした杖で床を小突く。
ザクリ、と体を貫く生々しい音が耳に響いた。
「……ほぅ? 自らを犠牲にしたか、賢者よ」
「……ゲホッ……っるせーよ……」
「せ、先輩……?」
すぐ傍で困惑した様子の白神が俺を見ていた。
よかった、無事だったか。
そう言葉にしたかったはずなのだが、代わりに口から零れたのは真っ赤な何か。
見れば、俺の脇腹に突き刺さる真っ黒の腕のような形をした闇がそこにあった。
急きこむと同時に、鮮血が一気に吐き出された。
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