第117話:決着した戦い 舞

「ほらぁっ♪ ほらほらほらぁっ♬」

「くっ……! 鬱陶しいわね……!!」


 一転して今度はアンフェから攻められることが多くなった舞は、攻撃を何とか凌ぎながら後退して反撃のチャンスを待つ。

 しかし待てども待てども、そんな隙をアンフェが見せることはなく、ついには彼女の防御を突破して拳の殴打が舞の腹部へと叩き込まれた。


「ぐぅっ……!?」

「ブルーさん!!」


 吹き飛ばされた舞の体が宙を飛び、夕が弓を構えた後方の壁へと激突する。

 弾丸のような速度の影響か、壁にクレーターができるほどの威力だ。変身して魔力による強化を行っているとはいえ、そのダメージは決して無視できるものではない。


「あっれれぇ~♪ やっぱりぃアンフェの勘違いだったかもっ♬ あんたざっこぉ~いっ♪」


 あははっ♪ と笑うアンフェにホワイトが弓を構えて即座に放つ。

 一直線にアンフェの頭を狙ったと思われた雷の矢は、その途中で軌道を変えていくつもの矢に分離すると四方八方から降り注いだ。


「……あはっ♫」


 だがその矢は、アンフェが背中の翼を大きく羽ばたかせることで全て地に落ちる。


「う~ん、制御はいいけど、私相手には無駄かもっ♩ 0点♪」

「そ、そんな……」


 魔法などに対する耐性が高いアンフェにとって、威力を殺して数と速さを重視した魔法は怖くない。

 これが賢人のようにマナを使っているか、あるいは威力特化の魔法であったならアンフェにも効果はあった。


 しかしそうでなければ、脅威とはなりえないのである。


 フフンッ、と笑みを浮かべたアンフェはまるで夕を怖がらせるようにゆっくりとした足取りで近づいてくる。


 何とかしようと再び矢を番えた夕。

 しかし、その夕の肩を後ろから叩いたものがいた。


「ホワイト、下がってなさい……」

「ブルーさん、でも……」

「私なら大丈夫よ。ホワイトはレッドの援護をお願い。こっちよりも効果はあるはずだから」


 槍を支えにしてフラフラと立ち上がった舞は、一度大きく息を吐き出すと前に歩を進める。

 その様子を見てでも、と不安げな夕であったが、舞の大丈夫だからという言葉に悩んだ末に頷くとレッドの元へと向かっていった。


「あはっ! あの程度でフラフラになっちゃうなんてぇ~……すっごくよわよわ、なんだねぇ~♬ お仲間がいた方がよかったんじゃないのぉ~?」

「……言ってなさい。そのムカつく顔にすぐ吠え面かかせてあげるからっ!!」


 ダンッ! と一歩でアンフェの目前へと迫った舞は先程よりも鋭さを増した槍さばきでアンフェを攻め立てる。

 その攻撃を躱し、爪で弾き、更には尻尾で叩き落として防ぐアンフェはニヤリと笑うと、舞の攻撃の僅かな隙を突き再び拳を繰り出した。


 ゴンッ、と鈍い音が響く。


「くぅッ……!」

「……あはっ♩」


 もう喰らうつもりはない、と舞はその攻撃を膝で受け止めた。

 だが強化しているとはいえ、痛いものは痛い。骨に重く響いた痛みに顔を顰めながらも、舞は槍を振るう。


 その槍を体を後ろへ仰け反らしながら躱したアンフェは、更に喜色をあらわにした。


(やることは同じ……一本ややこしい腕が増えた程度のことよ……!)


 尻尾と言う予想の難しい動きをする器官によって先ほどは翻弄されてしまったが、それすらも組み込んで予測を行えばいい。

 冷静に、落ち着いて相手の動きを予測し、その予測の先に槍を突く。


(まだ……まだ、ここじゃない……!)


 狙うのなら、もっと確実な時だ。


 ガキンッ!! とアネフェの爪と舞の槍が交差し鍔迫り合いになると、アンフェの体の影から突如として尻尾が襲い掛かってくる。


「あんたのそのやっすい奇襲なんてわかってんのよ!!」


 だがそれをアンフェの爪とぶつかり合う槍を起点にして、上空へと跳び上がって躱して見せた舞は、その背後へと着地。

 振り返ることなく石突を後ろに向けて突き出した。

 

 ギャリィッ! と振り向いたアンフェが爪でこれを阻む。


「チッ……!」

「あははっ! さいっこうぅ~! お兄さんもよかったけど、あんたもいいじゃんっ!!」


 爬虫類のような瞳孔が大きく広がり、楽し気に爪と尾を振るうアンフェ。

 対する舞は、冗談じゃないと顔を顰めて真正面からぶつかり合う。


「そんなこと言われても、なにも嬉しくないわよ!!」

「そう!? アンフェは楽しいよ!! すっごく!!」


 舞の予測が追い付き始めたことで、戦況は少しずつ舞へと傾いていく。

 しかしそんな状況を知ってか知らずか、アンフェはそれでも変わらず笑みを浮かべて戦い続けた。


「ああもうっ! ニヤニヤと気持ち悪いのよあんた!!」

「そんなこと言わないで、もっと楽しもうよ!! アンフェ、お姉さんもちゃんと愛でてあげるから!!」

「お断りよそんなの!!」


 迫りくる爪を槍で切り払い、その隙を突く横からの尾を蹴りで弾く。

 そして素早く引き戻した槍をがら空きになっているアンフェの足元に突き出した。


「あはっ!」


 だがそれを待っていたとアンフェは突き刺される前に足を上げると、槍の柄を踏みつける形で地に落とす。


 少女の見た目とは言え、中身はドラゴンのそれだ。

 力づくで戻そうにも、槍は戻せそうにない。


「あはっ! これでお姉さんは攻撃でき――」


 槍を抑えたことで笑みを深めたアンフェが舞を煽ろうと前を向いたその時。

 目前まで迫っていた拳に虚を突かれたことで、無防備な顔面に舞の一撃が叩き込まれた。


 かなりの勢いだったのかその小さな体ごと大きく後退させたアンフェは、倒れることはなかったものの、思わぬ一撃で体をふらつかせる。


「誰がそれしかできないって言った? ざーこ」


 手放していた槍を拾い上げて構えてみせた舞は、今度はこちらの番だと言わんばかりに煽ってみせる。

 手招きしてドヤ顔して見せるほどの余裕を見せるおまけつきだ。


「……ちょぉーっとアンフェ、怒っちゃったかも♬」

「あら今更? やられそうになってから本気出すなんてダサいんじゃない? 雑魚雑魚言ってたやつに雑魚呼ばわりされるなんてかわいそうよね」


 直後無言で振り下ろされる爪に、舞は焦ることなく槍を合わせて弾き返すと、空中で無防備な体に石突での刺突を叩き込む。


 グゥッ……!? という呻き声とともに距離を取ったアンフェに、舞は「予想済みよ」と槍を構えた。


 そして今度は舞から仕掛ける。


「ちょっと上手くいったからって、調子に乗るのは違うと思うよっ!」

「ならそう思っていればいいわよ。油断してくれるなら大歓迎だから!」


 再度激しくぶつかり合う舞とアンフェ。

 しかしもうすでに行動予測を完了させた舞が後れを取るはずもなく、アンフェを追い詰めるように戦いを進めていく。


 最初と一転して焦りが垣間見えるアンフェと、対照的に落ち着いて攻める舞。


 そんな彼女らの決着は、意外なほどあっけなく訪れた。


「ッ!! アハッ♬」


 一瞬だけ、舞の槍が鈍った。 

 ここまで攻め続けた疲れなのか、それとも集中を切らしたのか。

 ともかく、その隙を逃さなかったアンフェは突き出された槍を首を傾けることで躱してみせた。


 舞と目が合う。


 この瞬間、アンフェが槍を掴み取って攻撃に転じれば逆転の目が見える。むしろ、今この時に賭けるしかない。


 しかし、そうはならなかった。


「言ったでしょ。油断してくれるなら大歓迎だって」


 ブシュゥッ、とアンフェの首筋から闇が噴き出した。

 深々と首筋を切り裂かれたことに何故と目を見開くアンフェは、それをみた。


 突き出された槍。

 その刃の根元には、左右に突き出る水の刃。

 躱す直前に展開されたその刃がアンフェの目測を誤らせ、首筋を捕らえたのだ。


「十文字槍。あのおばあさんに仕込まれたけど、これはこれで使えるわね」


 ちょっと取り回しは難しいけど、と文句を零した舞は続けざまに槍を振るうとアンフェの全身を切り裂いた。

 次々とアンフェの体から闇が零れる。


「ま――」

「待たないわよ。ランスセット」


 構えられた槍の先端に水の魔力が集い、動けなくなったアンフェへと狙いを定める。


 ――静謐なる槍よ、今ここに水の証明を! 


「これに懲りたら、もう2度とその生意気な顔見せないでよね! ハイドロキャノン!!」


 集まった魔力が一気に解放される。


「――あはっ♬ 負けちゃったかぁ……」

 

 極大の水がアンフェの体を呑み込み、そして呑まれた闇が消滅した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

岳鳥翁です。

舞VSアンフェ 決着


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