第108話:賢者は彼女らの成長速度に驚きを隠せない

 赤園少女……いや、もう少女とは呼べないな。

 赤園たちと訓練として戦うようになってから一か月近くが経過した。


 その訓練の経過であるが……すさまじい。この一言に尽きるだろう。


「ラ、ラプゥ……ちょ、ちょっと休憩したいラプ……」


「……そうだな。ラプスも限界みたいだし、一度休憩に入るぞ」


「「「はい!」」」


 変身した三人が頷くのと同時に、展開していた結界を解除する。

 ボロボロになった木や地面が元に戻っていく中、今のは良かったね、こうすればよかったなど褒め合って反省会をする彼女らの姿には、頼もしくもあり恐ろしくもある。


「……俺とフィンの連携ならなんとか、といったところか?」


 訓練を始めてすぐのころは、俺一人ならばともかく、ラプスと一緒に攻めれば簡単に崩せる程度だったはずだ。

 それが一か月程度で抑えきれないほどにまで成長したのを考えると、流石世界樹が選んだ騎士と言ったところだろうか。


 正直な話、才能だけであればフィンにも匹敵すると言っても過言ではない。


 このまま一年もすれば、三人でガリアンやマリアンヌ、リンを含めた五人の戦力にも届きうるのではないだろうか。


「まぁ、そんな時間はないけどな」


「先輩! さっきのところなんですけど――」


「ああ、さっきのやつな。あれは――」


 赤園が立ち回りについて聞きに来たため、俺にできる限りのアドバイスをする。

 賢者であるため、技術面での専門的なことについては難しいが、これでも5年間聖剣を振るっていた勇者の隣にいたんだ。


 立ち回りであれば、フィンを後ろからずっと見てきた俺にでもアドバイスすることは可能だ。

 

 ありがとうございます! と去っていく赤園少女に手を振り、木を背にして座り込んむ。


「先輩、お疲れ様です」


「おお、白神。お疲れ様。矢の威力もだいぶ上がったじゃないか」


「はい! 先輩のおかげですね」


 休んでいると、木の後ろから現れた白神が俺と同じように座り込むと、そのままグッと体を伸ばした。

 変身している時は、いつもの真っ白な髪は鳴りを潜め、きれいな金髪の髪をシニヨンにしている。


 赤園や青旗もそうだが、変身している時は見た目からして全く別人に変わるため、そうであると知らなければ全くわからないだろう。


「あの……どうかしましたか?」


「いや、改めてみると変身したら結構印象が変わるなって思ってな」


「そ、そうでしょうか……変ですか?」


「いや、いいと思うぞ」


「……えへへ」


 頬を抑えてにやける白神を横目に、きっとこういうので青旗にイチャつくなと言われるんだろうなと天を仰いだ。

 イチャつくも何も、付き合ってすらないぞ。


「それより、魔力についてまだわからない部分はあるか? その弓は雷の属性を持つ魔力の矢を放つ特別製だ。宝石そのものから魔力を供給している関係上、出力を自分で調整できれば矢のバリエーションに幅はもっと出る」


 白神の背に背負われた弓に目を向ければ、彼女はそれを手に取って膝の上に置いてみせた。


 赤園の持つ赤い剣や、青旗の青い槍と同じく、宝石の騎士ジュエルナイトの主武器となるそれぞれの装備。

 白神はその武器として弓が与えられているのだが、本人は弓道のような弓に関わる競技の経験はないという。


「ありがとうございます、先輩。一応、その魔力についてもリンさんから教えてもらってたんですけど……先輩みたいに、細かい制御よりは効率化と威力の底上げメインでしたから」


「火力特化のリンらしい教え方だな」


 ひたすら固定砲台として後ろから特大の広範囲魔法をぶっ放していたリンの姿を思い返して苦笑する。

 矢の威力については以前戦った時から申し分ないまでの育っていたため、魔力制御を覚えさせることで威力以外にも白神の矢にはバリエーションが増えた。


 今では偏差射撃や曲射、移動しながらの連射の他にも、以前よりも数を増した同時斉射や何度も軌道を変える矢。そしてついには追尾までできるというのだから驚きだ。


 ちなみに、これは白神に限った話ではなく赤園や青旗も同じだ。


 赤園は剣はアニメの中でしか扱っているのを見たことがないらしいのだが、フィンに似たような力押しを得意と知る剛剣の使い手になっている。

 青旗は意外なことに多少は武の心得はあるらしいのだが、合気のような無手のものらしく、こちらも槍の経験はないとのこと。それでも、速さと技で攻めるのが得意なスピードファイターになっている。


 ここにサポートとして俺が加わるわけなんだが、戦力としては早々に負けることはないんじゃないかと思ってしまうほどだ。


「一応、先輩から教えてもらったとおりにやってできているので、特に問題はないと思います。制御の方もだいぶうまくなったと思いますし」


「そうか。まぁ、宝石を通してじゃないと魔力の操作はできないんだ。できる限りは教えたし、教えたことも訓練でうまく使えてる。呑み込みが早くて助かったよ」


「えへへ……そうなると、私は先輩の弟子みたいなものですね。魔法書の文字も教わりましたし、今回は戦い方も教えてもらいましたから」


 そこまで言って立ち上がった白神は、手にしていた弓を構えて前方へと向けた。

 みると、その先では一対一で模擬戦をやり始めた赤園と青旗がいた。


 もしかして狙ってるのか? と思うのも束の間、弓が生成した雷の矢が二本同時に斉射されると、それぞれが複雑な軌道を描いて二人へと襲い掛かった。


 だが、その矢は着弾直前、赤園に向かった矢は青旗に、青旗に向かった矢は赤園に斬り払われてしまう。


「ちょっとホワイト! いきなり危ないでしょ!」


「ホワイトも一緒にどう! 二人でブルーを責めるよー!」


「はい! 今行きます!」


「ちょっ、卑怯よレッド! 二対一なんて!!」


 それじゃあ行ってきます! と赤園たちの元へと走っていった白神を見送る。

 赤園と合流した白神は、そのままいい笑顔で青旗を狙うと、まるで追い込み漁のように動きを誘導して赤園が戦いやすいように工夫していた。


 流石だなぁと感心していると、見てないで先輩はこっちについてください! と青旗からのヘルプが入ったため、隣でぐでっと休んでいたラプスを掴み取った。


「……ラプ?」


「青旗の援護してきてくれ」


「え、でも呼ばれたのは主だったはずラプゥゥゥゥゥゥゥ!?!?!?」


 話している途中で青旗に向けてラプスを投擲する。

 彼女らの戦いっぷりを見ている限り、もう十分に戦えるようになっていると言えるだろう。


 なら、もう待つ必要はない。


「アルトバルト。いるか?」


「……もう大丈夫アル?」


「ああ。もう十分だと思うぜ。そこは俺が保証する」


 俺の言葉に、わかったアル、と踵を返したアルトバルト。

 向かったのはあの大樹――世界樹の子。これから、アルトバルトは妖精郷フェアリーガーデンとこの世界を繋ぐ準備に入る。


「さて、さんざんこっちに来てもらったんだ。今度は、こっちから顔を出してやらなくちゃだな」


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岳鳥翁です。



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