第106話:賢者は目的を話す

 赤園少女達にも白神と同じように、これまでの経緯を話し終えた。


 反応はそれぞれ、と言った様子。赤園少女は終始ワクワクしたような目で話を聞いていたし、青旗少女は怪訝な目を向け、アルトバルトは何かを考え込むようにしていた。


「私たちのこと、だいぶ最初から知っていたんですね……」


「白神にも言ったが、白神が変身したあの日の学校で、君たちのことを知った。以降は、ずっと隠れて戦う様子を見ていたよ」


 君達が俺にとっての敵になるのかどうかわからなかったからな、と答えれば青旗少女はため息を吐いた。


「まぁそんなところだ。以上が俺がこの世界に戻って来てからの経緯だな」


「驚いたアル……まさか、世界樹を使わずに他の世界へ渡れたアルか……なんてリスクのある方法アル」


 すぐに反応したのは赤園少女の方で考え込んでいたアルトバルトだった。

 その言葉に、赤園少女が「そんなに難しいの?」とさっそく反応すると、アルトバルトはテーブルに飛び降りて頷いて見せた。


「その通りアル。世界樹はどの世界にも必ず存在するアル。だから、世界樹を介せばその移動は世界樹から世界樹を移動するだけの話アル」


「まぁわかりやすく言えば、世界樹を使った移動は飛行機で海外に行くようなものだ。決まったルートで短時間で安全に目的地へと行ける。一方で召喚による世界観の移動は、徒歩で海外に行くようなものだな。青旗、徒歩でヨーロッパは行けるか?」


「え、いや、無理だと思いますけど……」


 急に話を振られたからか、一瞬戸惑った様子の青旗少女。

 だがその答えに、俺は「無理ではない」と首を振る。


「極論を言えば可能だ。目的地が決まっているのなら、そこに向かって真っすぐに歩いて泳いで飛び越えてと、ただひたすらに行けばたどり着く」


「そ、そんなの無理に決まってるじゃないですか!?」


「そうだ、普通は無理だ。ただ召喚するだけなら、どこに召喚されるかも、万全な状態かもわからない無茶無謀極まりない愚行だ」


 めちゃくちゃなことを言っている自覚はあるが、実際にそうであるから仕方ない。

 それくらい、召喚というのは危険でリスクも大きく、成功するかもわからない荒業なのだ。


 だが、そんなリスクも代償を払えばゼロに等しくなる。


「召喚には魔力を必要とする。召喚そのものも魔法だから当然なんだが、この魔力を過剰供給することで召喚のリスクは格段に減るんだ。さっきの例で例えれば、同じ徒歩でもルート案内は着くようなものだな」


「……ついたところで、無茶なことは変わらないと思いますよ?」


「だが危険は段違いだ。召喚の魔力を増やせば増やすだけ、安全面、確実性は保証できるようになる」


 話を戻すぞ、と俺は改めて三人に視線を向ける。


「俺の強さについては以前戦って分かってくれたとは思う。それにこれでも元英雄だ。君たちの力になってもいい」


「ほ、本当ですか!」


 俺の言葉に、一瞬でパァッ! と喜色の笑みを浮かべた赤園少女。

 しかし、そんな赤園少女を「待ちなさい、ねね」と青旗少女が手で制し、真っ直ぐに俺を見る。


「なりたい、ではなくてなってもいい・・・・・・。つまり、先輩が私たちの味方になるには、何か条件があるということですか?」


「……察しが良くて助かるよ、青旗。その通りだ。そしてこれはそこの妖精……アルトバルトにしか頼めない」


「アル? 僕アル?」


 首を傾げるアルトバルトに、俺は「そうだ」と頷いた。


「頼みたいのはほかでもない。あの世界樹を使った移動を許可してもらいたいんだ。妖精郷フェアリーガーデンの王族であるお前なら、妖精郷の国王へ頼むこともできるだろう?」


「……何で僕が王族なのかを知っているのかも気になるアルが、まずは理由を聞いてもいいアルか?」


「異世界の仲間たちを守るためだ」


 今でも忘れないし、時折夢にも見るあの破滅の未来。

 荒廃した国に、屍となった人々。倒れ行く仲間。


「俺がまたあちらに戻れば、どんな困難にだって打ち勝てる。その証明のため、俺はまたあの世界に戻らなければならない」


「だからこその世界樹、アル?」


「ああ。本来なら自前の魔力と集めた魔力を使って、危険も承知で異世界への転移も考えてたんだが、それでも片道切符だ。そちらが協力してくれるのであれば、わざわざリスクを冒す必要がなくなるし、こちらに戻ってくることもできる」


 向こうでもまた魔力を集めればこちらの世界には戻ってこれるかもしれないが、何年かかるかもわからない上にその間に俺がいる影響で向こうの世界に悪影響が出ればたまったものではない。


 それにどれだけ魔力を集めて安全を確保するとは言っても、やはり世界樹での移動はメリットしかないんだ。使えるのであれば、是非とも使いたい。


 それに、戻ってこれなければ、悲しんでくれそうな後輩もできてしまったからな。


「俺ができる限りの協力はしよう。だから、もしそちらの問題が解決した際には、世界樹での移動の使用許可を貰いたい」


 どうか頼めるだろうか、とアルトバルトに頭を下げる。

 すると、アルトバルトからは「協力してくれるのなら、世界樹の使用を許可するアル」と良い返事をもらうことができた。


 なんでも、このアルトバルト。次期国王として既に決定しているらしく、彼の許可のみで世界樹が使用可能らしい。

 すごいぞ、どこかのデブネズミとはわけが違う。


 ひとまずはこれで解決だな、と心の中で安堵する。

 しかしアルトバルトは「二つ聞きたいアル」と言葉を続けた。


「どうした?」


「一つは、この前君に質問したことアル。あのプリッツと名乗った男はどこにいるアル?」


「この学校の地下で、半永久的に魔力を収集するための魔力タンクになってもらっている。もともとの手段じゃ、魔力はいくらあっても困らない。その点あいつらは時間を置けば魔力の元になるエネルギーも回復するから、いくらでも集めることが可能だからな」


 それに、俺が彼女らの前に姿を現さなかった理由でもある。

 上質な魔力タンクを、易々と消滅させられるくらいなら俺が有効活用しようと狙っていたわけだからな。


 だが世界樹での移動が叶うのであれば、あれももう必要ないだろう。


 アルトバルトとしても、後顧の憂いは断っておきたいだろうからと後ほど俺の方で対処することで納得してもらった。


「それで、二つ目は?」


「何で僕が王族だと知っていたアル?」


「その話か。それについては、幸いなことに協力者がいてな」


「協力者……アル?」


 アルトバルトの疑問を解消するために、俺は今の今まで鞄に仕掛けていた『隠蔽陣』を解除する。


 その瞬間勢いよく鞄から何かが飛び出したかと思えば、俺の前のテーブルに着地し、アルトバルトと対面するような形になった。


「フッフッフ……漸く我の出番か、主よ。……ちょっと息苦しかったから、あとでご褒美のジンギスカンを所望するラプ」


「ラム肉なんざ買ってねぇよ。それより、自己紹介しておけ」


「む? 高貴なる血を同じくする我が一族ではないかラプ。こうして対面するのは初ラプ」


 デプンッ、とすでにトレードマークとなっている出っ張った腹を叩きながら胸を張るラプスは、その腹に見合ったような偉そうな態度で言い放つ。


「我は妖精郷フェアリーガーデン初代国王の七男にして、かつてこの地の厄災を払いし伝説の妖精……。その名は、そう! アインツ「あー!! あの時のネズミさん!!」アインツヴァラプス3世ラプ!? かっこよく決めるところを邪魔するなラプ!!」


 かっこよくは締まらなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

岳鳥翁です。

ラプス参戦。しかし、やっぱりこやつはかっこよくできねぇなぁ!



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