第105話:賢者は正体を明かす
「ねぇ夕ちゃん、津江野先輩が私たちに用事っていったいどうしたの?」
昨日の放課後に、突然私達
その内容は、津江野先輩が私たちに用事があるから、近いうちに話す時間はあるかと言うもの。
私は補習とかがなければ問題ないし、舞ちゃんも生徒会の活動がなかったため、次の日でOKした。
「先輩から、大事なお話があるんです」
旧館に向かう途中でその話の内容を聞いてみれば、すごく真剣な目でそう答えた夕ちゃん。
その返答に、隣を歩く舞ちゃんは「大事な話?」と首を傾げた。
「確かに先輩とはそれなりの知り合いではあるけど……夕はともかく、私とねねはそこまでかかわりが深いわけじゃないわよ?」
「ん~……津江野先輩から私達への大事な話……はっ!!」
その表情から、私は察してしまった。
「わかったよ舞ちゃん! ずばり、先輩と夕ちゃんがいよいよ付き合い始めたからその報告! これしかないよ!」
「はい? ……ええぇぇぇぇぇ!?!?」
「あら、そうなの?」
「絶対そうだよ! それでそれで!? どっちから告白したの!? グイグイ攻めた夕ちゃんから!? それとも夕ちゃんの魅力に陥落した津江野先輩から!?」
「ねね、落ち着くアル」
顔を真っ赤にして慌てふためく夕ちゃんにズイズイと体を寄せて質問攻めにしていると、それに見かねたのか鞄のポケットから顔を覗かせたアルちゃんが私を見上げて溜息を吐いた。
「ねねは恋愛が絡むと、ちょっと面倒くさいアル。
「もー、アルちゃん! 私みたいなお年頃の女子中学生は皆こういう話が大好きなんだよ! 舞ちゃんだって、こっそりと読んでる少女漫画の王子様に憧れるくらいには乙女なんだから!」
「ちょっ、ねね!? あ、あんた何でそのことを知って……!?」
「ふふ~ん。前に家に行ったときに、隠してるのを見つけたんだよね! 舞ちゃんったらかわい~」
夕ちゃんと同じようにわなわなと震えてる舞ちゃんに詰め寄り、羞恥で真っ赤になった頬をちょんちょんと突く。
「あ、後で覚えておきなさいよねね……!」
「もう忘れたよ! さて、それじゃぁもう到着したしなかに入っちゃおうよ! 先輩はもういるんだよね?」
「……あ、はい! もう中で待っていると思います」
「OK! でもほんとに、私達への用事って何なんだろうね。お、張り紙新しくなってる」
新しくなった『黒魔法研究同好会』と書かれた張り紙を見て、そう言えば結局黒魔法って何なのかなと改めて考える。
でもその話も、今日聞けばいいかと私は元気よく「こんにちはー!」と言って中へと入った。
「ようこそ。待っていたよ」
夕焼けが差し込む窓を背景に、本を読む先輩の姿が目に入った。
先輩とは夏休み以降は体育祭で遠目から見かけただけで、こうして直接話すのは久しぶりだ。
この部屋に来るのもそうだ。
ぐるりと部屋の中を見回せば、以前にも見たテーブルとイス。そして用意してくれていたであろうお菓子類の入った菓子鉢。
それから、本棚いっぱいに詰められた本の数々。
「……あれ?」
前、あんなに本ってあったっけ? と疑問に思う前に、何かが私の前に飛び出した。
「ねね! 舞! 夕! 三人とも今すぐここから逃げるアル!!」
◇
……そういや、もう話すからって魔法書そのままにしてたな。
内心で天井を仰ぎながら、穏便に済ませようとしていた初動が見事ご破算になってしまったことを嘆く。
だが、もう起きてしまったことを嘆いても仕方ない。切り替えて、今度こそ落ち着いてもらう必要がある。
「いや、逃げる必要はないよ。俺の方から君たちに話が――」
「ねね! あの本棚の本は危険なものが多いアル! あんなものを所持している人間が危険じゃないわけがないアル!!」
「だから、本自体は触らなければ問題はないし、まずは俺の話を――」
「こんなレベルの危険物がこんな身近にあったなんて……! クッ……!
「あの、一人でつっぱしらな――」
「たとえこの場で僕が犠牲になったとしても! 僕は彼女らを
ちょっと落ち着くのが無理そうだなぁーと思ってアルトバルトの周囲に展開した魔法陣から鎖を数本射出し、口をふさぐ形でぐるぐる巻きに拘束する。
するとその様子を見ていた赤園少女と青旗少女は、鎖を見た時点で驚愕しつつもアルトバルトを庇うような形で前に出た。
仲間のピンチでとっさに体が動くなんて、ほんと君達は良い英雄になれるよ。
「……とりあえず、俺が君たちを害することはない。まずは座ってくれ。お茶を用意しよう」
「……はいそうですかって、私たちが素直に頷けるとお思いですか? 津江野先輩」
警戒の目を向ける青旗少女のその言葉に、それはそうだと自嘲気味に笑うしかなかった。
だが、あのままあの妖精に好き勝手悪いように捲し立てられれば流石の俺だって「待て」と言いたくもなる。
「その気持ちもわからなくはないが、まずは落ち着いてくれ。白神、俺はお茶の準備をするから、二人の席の準備を頼む」
「あ、はい。わかりました」
「ちょ、夕!」
「大丈夫ですよ、舞さん。先輩は本当に私たちに何かしようとは思ってないですから」
「……夕ちゃん、信じてもいいんだね?」
赤園少女の言葉に、はいと頷く白神。
そんな白神を信じてくれたのか、赤園少女と青旗少女はお互いの顔を見合わせると、ゆっくりと頷いてから席に着いた。
それを見届けた俺は、お茶を運びながら鎖の拘束を解除する。
「そこの妖精も。気持ちはわかるが、まずは話を聞いてくれ。じゃなきゃ、できる話も満足にできないからな」
「……わかったアル」
しぶしぶと言った様子で赤園少女の方に乗っかったアルトバルト。
こちらは少々不満げな様子であったが、それでもこうして話を聞いてくれるのをみるとこいつ自身も根は良い奴なのだろう。
流石王族と言うべきか、先ほどの啖呵だって、自身に責任も感じているみたいだったしな。
どこかの食べてばかりの王族には見習ってほしいものだ。
白神も席に着き、俺は三人の対面の席へ座る。
「まずは今日この場に来てくれたこと、感謝する。まぁそっちは一般人の男子高校生に呼ばれたと思って来てくれたんだから、だますような形になってしまったことは謝罪しよう」
悪かった、と一度頭を下げる。
「改めて自己紹介させてもらう。俺は津江野賢人。孔雀館学園には高等部から編入した高等部二年。それと、異世界に召喚されて戻ってきた元賢者だ」
保管の陣にしまっていたローブと杖を取り出して見せれば、それらを見て「じゃああの時の……」と呟く赤園少女。
その言葉に俺は頷いて見せ、昨日白神にも話した事の経緯を話し始めるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
岳鳥翁です。
ついに来たこの時。
面白い、続きが気になる! など思っていただけましたら、是非とも感想やレビュー、ブックマーク等々よろしくお願いします!
また応援は執筆の意欲に繋がります。是非ともレビューやコメントでのメッセージもよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます