賢者と共同戦線

第104話:賢者は好意を受け取るのが苦手

「それで、先輩はどうするんですか?」


 すべてを聞き終えた白神は、そう言って俺の反応を伺っていた。


 ラプスに話した俺が死ぬ云々の話こそしていないが、俺のいた異世界が危機に瀕していること、そしてその危機を救うために俺が再び異世界へと戻ろうとしていること、そしてそのための魔力を集めていたことは既に打ち明けている。


「ああ、それについては他の二人と、それからアルトバルトと言ったか? あの妖精にも話は通すつもりだ。その上で白神達に協力しようと思っている。……もっとも、そちらがそれを認めてくれるならの話だがな」


「私は良いと思うんですけど……この前ので先輩の実力についてはねねさんや舞さん達もわかっていると思いますし、むしろ味方になってくれるなら心強いはずですから」


「だといいんだがな……」


 白神の考えは少し楽観的にも思える。

 確かに、単純にそう考えてくれるのであれば苦労はしないのだが、俺のことをどこまで信用してくれるのか、そこに尽きるだろう。


 赤園少女は影とはいえフィンに会ってるというし、俺とフィンの関係性を示せば協力してくれるかもしれない。が、問題は青旗少女と妖精のアルトバルトだろう。


 まぁでも、こうして白神に話してしまった以上後戻りはできないんだ。誠心誠意、頭でもなんでも下げるつもりだ。


 フィン達のためにも、もしかしたら俺の死を悲しんでくれるかもしれない誰かのためにも、こんな安い頭いくらでも下げようじゃないか。


「それで、いつ話しますか? ねねさん達なら、今からでも電話すれば時間あるかもですけど」


「いや、今日はもう遅い。明日以降で、他の二人と一匹に都合がいい日があれば教えてくれ。その時に話すよ」


 流石に長く話しすぎたせいか、すっかり陽も暮れてしまっている。冬だから、と言うのもあるのだろう。高校生ならともかく、中学生をこんな時間に呼び出すようなことはしたくない。


「白神も、いろいろと話を聞いてくれてありがとうな」


 正直なところ、白神が原因で正体に感づかれてしまったと思う気持ちがないわけではない。

 けど白神が気付いてくれたからこそ、俺自身も生き残れる可能性が出てきたことを考えれば、これでよかったのかもしれない。


「あ、いえ……先輩も、ちゃんと話してくれてありがとうございました」


「ああ、今日の活動は以上だ。疲れただろうから、帰ってゆっくり休んでくれ」


 それじゃあ、と鞄を持って部屋を出ようとする白神。

 しかしその足は、部屋から出る直前にピタリと止まる。


「あの、先輩」


「どうした?」


「先輩って、覚えてるんですか? あの時の……商店街の時のことです」


「……ああ、あのエルフ耳……プリッツとかいう奴が襲ってきたときのことか。覚えてるぞ」


 夏休み前に、白神と放課後商店街でコロッケを奢ってやった時の話だ。

 あのプリッツとかいうエルフ耳が俺たち二人に襲い掛かって来て、白神を赤園少女たちと合流させるために俺が囮になったんだったな。


 また随分と前の話を持ち出してきたな、と口にしようと思ったのだが、いつの間にか扉から離れてすぐそばまで近づいていた白神に気付き、思わず体を仰け反らしてしまった。


「あの時の先輩って、私が宝石の騎士ジュエルナイトと知っていて囮になってくれたんですよね?」


「……まぁな。けど、白神は俺のことを一般人だと思っていただろ? そんな相手の前で変身なんてできないし、隠してはいたが俺にも戦う力はあった。白神達に正体を見せないためにも、最善の方法をとっただけだぞ俺は」


「でも、私のことを守ろうとしてくれたのも確かなんでしょ?」


 こちらを覗き込むように目を合わせて来る白神。

 そんな彼女と俺の間を隔てるように魔法書を挟み込むと、そのままグイと突き離す。


 何するんですかと頬を膨らませているのなんて無視だ無視。


「戦う者の先達として、同好会の先輩として。それと、年上として当然のことをしただけだ」


「それでも、そういうなんやかんや優しいところ。私は好きですよ」


「……そう思いたいなら、勝手にそう思っていればいいよ」


「はい、そう思っておきます♪」


 したり顔で俺を見る白神に、シッシと手を振って退室を促す。

 話すことはもう話したんだ。あとは、赤園少女たちを交えた時でいいだろう。


「それじゃあ先輩! また明日です!」


「……ああ。また明日」


 にこやかな笑みと共に部屋を後にする白神を見送り、一人になった部屋の中で俺は椅子の背に身を任せてもたれかかった。

 天井を仰ぐような姿勢のまま、はぁとため息を吐く。


 すると、俺のスマホに着信が入った。送り人は先程帰った白神から。


 内容は明日の放課後、赤園少女と青旗少女を誘って同行系まで来るとのこと。行動速すぎないかな君。


「……とりあえず、わかってもらえるように話すしかない、か」


 

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岳鳥翁です。

もうすぐ8万PVです! ありがとうございます!

近況ノートの方でも記載していますが、本日から投稿再開です。

まずは白神を除く他の面々に話をしなければならないケント君です。


面白い、続きが気になる! など思っていただけましたら、是非とも感想やレビュー、ブックマーク等々よろしくお願いします!

また応援は執筆の意欲に繋がります。是非ともレビューやコメントでのメッセージもよろしくお願いします!

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