第103話:こうして賢者は打ち明ける

「――と、まぁリンとの出会いはこんなところだな」


「何でめちゃくちゃいいところで止めちゃうんですか!?」


 リンと出会った時の話を終えて一息吐くと、ちょっと待ってくださいよと白神が立ち上がって抗議してきた。


「その戦い、今からすごく盛り上がるところじゃないですか! そこからどうなって、どういう経緯で仲間になったのかとか、すごく興味あるんですよ私!」


「って言ってもなぁ……あんまり聞いてもいいもんはないぞ」


 とりあえず落ち着けと白神を手で制して座らせた俺は、「そうだなぁ……」と目を瞑る。

 詳細になると、それこそ年齢制限かかりそうな事ばっかなんだよなぁ……あの戦い。


「一応確認しとくけど、白神はグロイ話とか大丈夫な感じか? オカルトにもそんなのはあったりする?」


「え……いや、私もそう言うのはちょっと苦手ですけど……まさか先輩、そのリンさんとの戦いってかなり惨憺さんたんなものだったりします……?」


「お、難しい言葉をよく知ってるな。それと、その質問に対しても答えはYESだ。フィンは腕が千切れる寸前だったし、俺も足一本ぶっ飛んだよ。一番攻撃を喰らってたガリアンなんかは何度死の淵に立ってたのか想像もできないな。全部、マリアンヌが治してくれてなかったら、俺たちの旅はあそこで終わってたな」


 恐る恐ると言った様子の白神に対して、俺は懐かしいなぁ、と一度はじけ飛んだ左足に手を添えて当時のことを振り返る。

 それはもう、めちゃくちゃ痛い、なんてもんじゃすまないほどの激痛だった。幸い、マリアンヌがすぐに直してくれたおかげでその想像を絶するような痛みもすぐに治まったわけだが、もう体験したいとは思わない。


 あと、ガリアンにも感謝だな。


 あいつが体を張ってくれたおかげで、俺たちへの被害は最小限に収まったのだ。


「ともかく、最後は俺を囮にしてフィンが斬って終わりだ。リンの奴、当時は俺をご所望だったからな。戦利品になる予定の俺を殺すのをためらった隙を突いたんだよ」


「そういえば、事の発端はリンさんが先輩を欲しがったから、何でしたっけ。結局リンさんって先輩をどうするつもりだったんですか?」


 首を傾げる白神の問いは当然の疑問だろう。

 もしかして一目惚れ……? などとアホなことを抜かす後輩の脳天を魔法書の表紙で軽く小突く。


「あんな尊大な態度とってたやつが、そんな理由でほしがるかよ」


「むぅ~……じゃあ何だったんですか?」


「食事だ」


 思いのほかあっさりとした、しかししすぎている返答に、白神は一瞬「え?」と呆けた。

 そりゃそんな反応にもなるわ。当時それを聞いた俺たちもそんな反応だったし。


「だから、食事だ。食事係をさせるつもりだったんだよ、あいつは」


「……ごめんなさい、ちょっと意味が分からないです」


 頭を抱えて、「何で?」としきりに首を捻っている白神を尻目に、当時のリンの言い分を思い返す。


 何でもリンの奴、あの時は食事のための世界中の魔力の強い場所を転々としていたらしい。

 マナから生まれた竜であっても、その存在を保つためには魔力の補給は必須。だがマナによって実体化しているリンにとっては魔力の強い場所にとどまったとしても十分とは言い難い。


 そんな中で、星からマナを引き出せる俺と言う存在が目の前に現れたのだ。


 竜であるリンでも、星の魔力であるマナを自ら補給することはできないため、それが可能な俺をどうしても手に入れたかったと、そういうことである。


「できるだけわかりやすく言うとだな、『高級レストランの料理しか食べたくないお嬢様』が『インスタント食品しか食べられない環境』の中で『高級レストランの料理を作れるシェフ』が目の前に現れた状況、みたいな?」


「……なる、ほど? えっと、つまり先輩たちはそんな理由で死にかけることになった……?」


「まぁ、そう言うことだ。とはいえ、リン本人にとっては大事なことだったそうだから、あんまり言ってやらないでやってくれ」


 『嫌じゃ嫌じゃ我はマナを食うんじゃー! もう魔力は飽きたのじゃー!!』と泣き叫んでいたことについては、本人の名誉のために言わないでおこう。

 人化した見た目相応の泣き顔なんて、最年長を自称(真実)するリンにとっては恥ずかしい過去だろうし。


 まあ、それくらいリンも我慢の限界が来てたってことだ。


「それで、まぁ俺が毎日のマナをリンに供給するのなら、旅の仲間としてついて行ってやる、なんて言い出してな……」


 フィンがリンを瀕死に追い込んだことでようやく話ができるようになったリンの発言に、当時の俺は当然大反対だった。

 だが、人化して話ができるようになったこともあってか、もう人を襲わないことを約束させたことでフィンはリンを許し、結局全員無事だったからと一番酷い目にあっていたガリアンが許してしまったことで襲ってきた件についてはチャラになってしまった。


 そして仲間として俺たちの旅に同行することに関してなのだが、リンほどの魔法による攻撃が可能な仲間がいてくれるのは助かるということで俺以外の三人が賛成。

 そして最後まで反対していた俺も、リンの最後の一言で賛成に回らざるを得なかったのだ。


『のう、賢者よ。貴様は魔王の居場所を知りたいのであったな? なら我を連れていくとよいぞぉ? この世界で最も強き魔力の澱み。我なら知っておるからな』


「それで結局、リンも仲間になって旅を再スタートさせたわけだ。そっからはリンが知ってるっていう場所に向けて旅をして、2年後に魔王の討伐が叶ったわけだ」


 俺の異世界の仲間達との話は以上だ、と締めくくると白神は「おぉ~」と感嘆の声を上げる白神だったが、その途中であれ、と首を傾げた。


「あの、先輩。そう言えばなんですけど……」


「? どうした?」


 何故か言葉を選ぶように話す白神に疑問を覚えながらも、とりあえず話を聞こうと待つ。

 

「先輩って、中学の時に異世界に召喚されたんですよね? てことは、先輩ってもう二十歳を超えてるんじゃ……」


「ああ……その話か。この世界に戻ってくるときに、時間軸を召喚された日に指定したんだ。だから、精神はもう20を超えてはいるが、肉体的には17歳であることに変わりはないぞ」


「だから私のこと、子ども扱いしてたんですね」


 ムゥッ、と頬を膨らませて怒ってますアピールをする白神に、すまんすまんと形だけ謝っておく。

 そういうところだぞ、とは言わないでおこう。


「さて、異世界での俺の話は終わったわけだが、ここからはこっちに戻って来てからの話だ」


 改めて白神に向き直れば、彼女も俺の雰囲気が変わったのを察してくれたのだろう。真剣な目で俺を見ていた。


「異世界から帰還した俺が、何故賢者として行動しているのか。お前たち宝石の騎士ジュエルナイトの味方をするのか。その話をしてやろう」


 そうして俺は再び白神に話し始める。

 俺が見た、異世界の未来の話を。その世界を救いたいことを。


 すでに夕焼けで染まった光が窓から射し込む中、ゆっくりと言葉を紡いでいくのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

岳鳥翁です。

これにて過去編終了!

そして、宝石の騎士との邂逅編もこれにて閉幕!

前回は期間を開けすぎたので、今週中には次の話を始められるようにしたいと思います。

ですので、水木金辺りはお休みをいただき、土日から再開します。


面白い、続きが気になる! など思っていただけましたら、是非とも感想やレビュー、ブックマーク等々よろしくお願いします!

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