第89話:賢者は騎士の壁となる4
「まずはこれから喰らってくれや!!」
周囲に展開した魔法陣。
地面に木に空にと展開されたその場所から勢いよく鎖が飛び出し、前を張る赤園少女と青旗少女に襲い掛かる。
しかしそれで止まるわけもなく、赤園少女は踏み込みで足元からの鎖を破壊し、そのほかは剣で斬り捨てる。
また対する青旗少女は鎖よりも速くそこいらじゅうを駆け、どうしても邪魔な鎖の身を槍を回して弾き飛ばす。
このままいけば両者ともに、すぐ俺の元までたどり着くことになるだろう。
「そう簡単に行くと思うんじゃねぇぞ……!」
「ッ……!?」
「! ブルー!!」
未来視で捉えた青旗少女が駆ける足元に『防御結界陣』を展開する。
突然足元に現れた魔方陣に驚いて見せた青旗少女は、飛び上がって避けようと試みるもかなりの速度を出していたこともあって完全に避けることはできなかった。
空中で体勢を崩した青旗少女。身動きの取れない今なら捉えることは容易い、と彼女の周囲からまた新たに『拘束陣』の鎖を射出し、捕縛にかかる。
「なめんじゃ……ないわよっ!!」
しかし、それでも彼女はしぶとかった。
手元の槍を思い切り引いたかと思えば、次には勢いよく真下の地面へと突き立てて体を浮かび上がらせる。
殺到した鎖はそんな彼女のすぐ増したを通ってすかされてしまった。
「ブルーすごい!」
「伊達にあの面倒なおばあさんの試練を突破してないわよ!」
鎖をやり過ごして再び着地した青旗少女が再び地を駆け、俺に向けて突撃してくる。それも簡単には対処ができないよう何度も方向転換を繰り返してだ。
「『石柱陣』」
「きゃぁっ!?」
だが何度方向を変えたとしても、どこをどう通るのかは全て見えている。
左目の魔法陣が起動し、数秒先の未来を覗き見た俺はちょうど青旗少女の踏み出した一歩に合わせて地面から石柱を射出。
勢いよく空へと押し出されたことで今度は槍も届かないだろうと思ったが、鎖が届く前に赤園少女がカバーに入り、すべての鎖を薙ぎ払おうと剣を構えた。
させるかと、赤園少女の背後に魔法陣を展開しようとしたものの、今度は10の雷が軌道を変えながら撃ち込まれたため『防御結界陣』に切り替える。
赤園少女への魔方陣が不発動に終わったことで、二人並んで着地を決めた。
「助かったわレッド! ホワイトも、援護ありがとう!」
「は、はいっ! 任せてください!」
「うん! それより、気を付けてブルー。さっきも見てたけど、あの人ブルーの動きを読んでるよ」
「かもしれないわね。流石にさっきのは焦ったわ」
此方を見据えながら額に浮かぶ汗を拭う青旗少女。しかし、そんな彼女の言葉に、「いいえ、違います」と何か確信を持った様子で白神が答えた。
「どういうこと?」
「動きを見てるんじゃないです。あの人は多分……未来が見えてるんだと思います」
「ええぇ!? 未来!?」
チラリとこちらに目をやった赤園少女に、白神は大きく頷いて見せる。
「確かにブルーさんへの対処だけ見れば、動きを読んでいるとも言えなくはないんです。ただそうなると、私の不規則な矢の動きを全て防ぎきれる説明が付かないんです。着弾直前に軌道を変えてみましたが、それも防がれてるんですから」
ですよね、と何故かこちらに確認するように問いかけて来る白神。
何故そこで現状は敵である俺に解を求めて来るのかはわからないが、せっかく後輩がノーヒントから頑張って導き出した正解だ。
それに未来視が分かったところで、対処法なんてないのだからこれくらいはサービスだろうと頷いて見せると、白神は「やっぱり……」と緊張した面持ちで呟いた。
「だがそれが分かったところで、いったいどうするんだ? 対処法もないんだ。どうしようもないだろう?」
「くっ……厄介ね」
「ふふんっ、そういうことなら大丈夫だよ! 私に策在り、だよ!」
何故か明るい様子で、対処が可能だと話す赤園少女。
その言葉に、俺は思わず眉を顰める。
確かに、俺の未来視も完全無敵と言うわけではない。
例えばの話、5秒先までの未来を見るために5秒分の魔力を『未来視』に込めたとしよう。だがその瞬間、俺は6秒先の未来を見ることができないのだ。
6秒先をみるためには、再度魔力を込めるという工程が必要になってくる。
そのため、戦闘時の『未来視』の使用は結構難しいのだ。何せ、何秒先を見ればいいのかを考えながら動かなければならない。
だからこそ、フィン達仲間がいる中でなら安心して使えたというもの。今のようなソロ戦では判断ミスが即刻敗北に繋がる。
「マジックナイトリンでも言ってたけど、未来を見ている相手には、その未来よりも上の動きを私たちがすればいいんだよ!」
「……あなたに期待した私がバカだったわ」
「なんで!?」
「あ、あははは……」
呆れた様子で溜息を吐く青旗少女と抗議の声を上げる赤園少女。そんな二人を見て苦笑する白神と、大変和やかな光景ではある。
対する俺も予想の遥か斜め下の答えとその光景に拍子抜けしてしまったが、彼女らとは今は敵同士であることを思い出すと杖先で地面を小突く。
瞬間、彼女らの足元に巨大な魔法陣が出現した。
「「「!?」」」
「『大火柱』」
ボゥッ!! と地面から噴き出した火柱が三人を飲み込もうとするも、その直前でバラバラに飛び退かれてしまう。
呆けていなければ、さっきの魔法で終わりだったな。
「とにかく、このままじゃ埒が明きません。レッドさんの言う通り、未来の動きを超えるっていう案。試す価値はあるかもしれません」
「ちょっとホワイト、本気で言ってるの!?」
「さっすがホワイト! わかってるじゃん!」
「はい。それに、私ならなんとかできるかもしれません」
「……ああもうっ! わかったわよ! こうなりゃ自棄よ! やってやろうじゃない!!」
本当にいいのかそれでと内心で思いながらも、彼女たちであれば何かしらやってくるかもしれないと改めて注意は怠らない。
少しだけ話して何かを決めた三人は、瞬時にそれぞれ距離を取ると赤園少女と青旗少女が同時に左右方向から駆け出した。
俺はその様子を視界に納めながら、すでに弓をつがえている白神の足元に『石柱陣』を展開するのだが、彼女はその発動前にその場で上に飛び上がる。
そして突き出した石柱を足場にして更に高く跳び上がった彼女は、上空から撃ち下ろす形でいくつもの雷を斉射した。
『石柱陣』が読まれたのか……?
「「ハァッ!!」」
頭によぎった疑問について考える暇もなく、左右からの攻撃をそれぞれ杖と『防御結界陣』で弾くと、体勢を崩した二人に至近距離から『氷槍陣』を展開して氷の槍を射出。
だが赤園少女は剣の振り上げでこれを破壊し、青旗少女は槍をうまく地面に刺して身を捻るとこれを避けてみせた。
そして続けざまに両者からの蹴りが叩き込まれる。
「見えているぞ……!」
予測はコンマ数秒先まで。
前と後ろから俺を挟み込むように繰り出される蹴りは、ここからの回避が難しいと判断。
『空間置換陣』で瞬時に上空へと飛び上がれば、彼女らの蹴りが眼下で激突する。
急に連携がよくなってきているな、と考えるのも束の間のことだった。
「……は?」
視線を上げると、そこにはもう着弾寸前の雷の矢が迫っていたのだった。
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