第88話:賢者は騎士の壁となる3

 右からは槍の突き、左からは剣の薙ぎ。そして頭上と背後、そして二人の攻撃の間を縫うようにして雷の矢が飛んでくる。


 まだ何とかなるタイミングだ。


 槍の突きを避けて柄の部分を拳で弾き、剣は杖で防ぐ。矢に関しては未来視で着弾箇所を事前に見ることで、『防御結界陣』を使用して防ぐ。

 もう何度目かの攻防。だが着実にその刃は俺に届きつつある。


「ブルー! 少し遅れてる! もう後半歩早く合わせて!」


「わかったわ!」


「ホワイトはもっと撃ち込んでいいよ! 私たちの方で何とかできるから!」


「わかりました!」


 そしてとくにヤバいのが赤い騎士……赤園少女だ。

 何だあれは。変身していなかったら一番やりやすい相手だと思っていたが、変身したらこんなに変わるのか。


 攻め込みながら他の二人に指示を出し、その指示通りに動くことで三人の連携が更によくなっていく。

 少し前までは反撃もできていたはずが、今では身体強化も使っての防戦一方ときた。


 サポートがメインで近接戦闘能力も自衛する程度の俺ではあるが、それでもあの世界で5年間も鍛えてきたんだぞ。押し負けるのが時間の問題だったとはいえ、こんなに早く限界が来るとは思っていなかったぞ……!


「シィッ!」


「グッ……!」


 力強く踏み込まれた足元の地面は深く抉れ、赤い残像と共に突撃。

 勢いよく振り下ろされた剣を杖で防ぐが、その力が思っていた以上に強く腕に響いた。

 『強化陣』で杖を強化し、身体強化で俺自身の力も上がっているはずなんだが、それでも赤園少女の方が上。

 今の彼女であれば、力であればドラゴンガールにも引けを取らないだろう。


「隙を見せたわね!」


「見せてねぇよっ……!」


 そして速く、巧くなっているのが青旗少女だ。

 猪突猛進でわかりやすいイメージではあったが、今ではそれも鳴りを潜めてこちらの様子を伺い、状況を先読みし、素早く動いて的確な場面で死角を突いてくる。

 幸いにもこちらには未来視があること、そして常に死角を狙ってくることから対応はできているが彼女の行動に意識を割かねばならないことは非常に厄介だ。


 背後から突き出された槍に対して『防御結界陣』を斜めに展開し、結界に沿うようにして槍の突きがいなされる。

 その直後、更に速く、強くなった雷の矢が彼女らの隙間を縫うようにして飛んでくるのだった。


「っ……!?」


 更に合ってきた。


 『空間置換陣』で緊急回避を行い、その場から一時離脱。

 それに伴って彼女らも一度俺から距離を取ると、再び三人と一人で対峙する形になった。


「どうですか。これでもまだ私たちは弱いって……戦えないって言うんですか」


 意志の籠った強い目だった。

 どことなく、フィンと戦い方が似ていると感じていたが、なるほど。似ているのは剣だけじゃなかったようだ。


 おまけに人のために戦うと決めたところも、まさしくあいつと同じときた。


 勇者になれる素質。なるほど、通りで俺が勇者になれなかったわけだ。


「……君のような人が世界を救うんだろうな」


「え?」


 きっと彼女らは、彼女達が言うように妖精郷の平和を取り戻すのだろう。その先に待っているのはみんな幸せのハッピーエンド。誰一人欠けることのない大団円。

 そのためには、それを成せるだけの力が必要になる。 


「いや、なんでもない。それよりも、君たちの実力は確かなものだ。連携も徐々にではあるがよくなりつつある」


「なら……!」


「だが、それで納得できるのかと言えばそうじゃない。俺程度は簡単に突破してくれないと、この先を任せるとは思わない」


 コツン、と杖先で地面を突き、そこいら中に魔法陣を展開させる。

 空にも木にも地面にも、次々と展開されていくその魔法陣の量に三人は驚愕を顕わにしながら武器を構えた。


「な、ななななんて量の魔法陣アルゥー!?」


 そしてもう一人……一匹、三人とは別の反応をしてみせたのがハムスターモドキの妖精。確か、アルトバルトだったか。

 アルトバルトはあちこちの魔法陣を見回した後、その視線を俺に向けた。


「あ、ありえないアルッ……! 僕の結界を真似した上にこ、こんな量の魔法陣を使ったら普通の人なら死んでもおかしくないアル……!」


「「ええぇっ!?」」

「ちょっと!? あんた大丈夫なの!?」


 アルトバルトの言葉に何故かこちらの心配をし始める三人娘。

 何で戦っている最中なのに敵の心配をしてるんだよと思いながらも、これが彼女らなのかと思いなおして諦める。


 まぁ確かに、アルトバルトのいう通りこれを全て己の魔力のみでやろうとすれば魔力枯渇で死ぬ寸前になってもおかしくはないだろう。

 だが、あいにく俺は普通ではない。


「普通じゃないからな。第一、俺が使用しているのはマナだ。魔力じゃない」


「マナ……アルか?」


「そうだ。星の生命力であるマナ。これを使えば、この結界も、そしてこの魔法陣も無理な話ではない。だろ?」


 た、確かにそうアル! と納得して見せるアルトバルト。しかし、その内容をいまいち理解できていないのか赤園少女がねぇねぇアルちゃん、とアルトバルトに問いかけた。


「マナって何?」


「……詳しい話は後にするアルが、要はとても質のいい魔力、と考えればいいアル。例を挙げれば、1の魔力で一つの魔法が使えるとしたらマナは1で百でも千でも魔法が使えるようなものアル」


 アルトバルトの言う通り、マナは魔力よりもはるかに効率よく魔法の使用が可能になる。なら普通の魔法使いもマナを使えばいいという話であるが、そうではない。

 

「で、でも、マナは特殊な資格を持つ者でなければ扱えないはずアル……! この世界で、そんな資格が得られるなんて……」


「言っただろう、俺は賢者として見極めると」


「賢者……アルか?」


「ああそうだ。マナに干渉することを許された資格、それが賢者だ。お前の言う通り、この世界じゃそんな資格も得られなかっただろうさ」


 だがな、と俺は言葉を続ける。


「そういう世界で、賢者と認められたのなら話は別だ」


「っ!? まさか、召喚されたアルか!? この世界の人間が、別の世界に!?」


「ど、どういうことなのアルちゃん! いったい、何の話をしているの?」


「要はあの人間は、他の世界に賢者として召喚されて、そこで英雄になった人間アル! 恐らく、その後で彼はこの世界に戻ってきたんだアル!」


 三人娘の表情が、改めて緊張したように引き締められる。

 まぁ俺のような特殊な人間がいるなんて考えられるはずもない。驚くなと言う方が無理な話であるだろう。


「そういうことだ。あと一つ、賢者ってのは主には仲間の援護が仕事だ。自衛程度はできるが、本来は近づけさせず仲間たちが有利になるように立ちまわるのが基本戦法になる」


 周囲に展開された魔法陣が、より一層光を増す。

 赤園少女と青旗少女の二人は魔法陣で問題はない。だが、俺のにとっての鬼門は魔法の利かない白神だ。あいつを如何に対処するかで、ここでの戦いが変わってくる。


 さぁ、ここからが勝負だぞ津江野賢人。

 できうる限り、彼女らに対しての理不尽な壁となれるよう立ち回ってやらねばならない。


「それじゃあ、第二ラウンドだ。ここからは賢者らしく、正々堂々搦手も交えてお相手しよう」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どうも、岳鳥翁です。

あの、余談なんですけど、津江野君のイラストとかあるなら欲しかったりします?みたいな。

あ、全然気にしないでください。聞いてみただけですので。


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