第87話:賢者は騎士の壁となる2
「……よくわからないけど、今はあんたは敵ってことでいいのよね」
沈黙が場を支配する中で、最初にそう切り出したのは青い
彼女は身の丈ほどもある槍を以前よりもしっかりとした形で構えると、「ハァッ!!」という気合の入った一声と共に一足飛びで槍を突き出してくる。
速度、威力ともにキース戦で見せていたんのとは段違いだ。
「だがその程度であれば、まだ届かないぞっ!」
突き出された穂先にタイミングよく杖を当てて外へと弾く。
しかし青旗少女もそれだけでは終わらないようで、外側へと流れた体を捻ると今度は石突による一撃を狙ってくる。
俺はその攻撃を喰らわないように身を屈めると、バックステップで距離を取った。
「避けるんじゃないわよ!」
「避けるに決まっているだろうに。素直に当たるやつがいるかよ」
不機嫌そうに睨みつけて来る青旗少女であるが、彼女は「まぁいいわ」と一度仲間たちの元へと戻る。
急に始まった戦いに反応が追い付けていない赤園少女と白神は、一人で突っ込んでいった青旗少女に「な、なんで」と問いかけていた。
「何でも何も、あっちが吹っ掛けてきたのよ。何様のつもりかわからないけど、上から目線で実力を測ってやるとか言ってくる奴の顔を拝んでやらないと気が済まないわ」
「で、でもブルー。あの人はこの間ホワイトを助けてくれた人なんだよ? きっと話をすれば仲良くできるはずだよ……!」
そ、そうですよね? と今度はこちらに話しかけて来る赤園少女であったが、俺はその言葉に首を横に振った。
彼女の言いたいこともわからなくはない。実際に、話せばわかるのはその通りであることも事実だ。
だがその場合、俺は彼女らを戦わせることに真の意味で納得はできないだろう。
その意味でも、彼女らを戦う者として認めるためにも、今この場で直接見ておかなければならない。
俺と言う、加減のできる敵が相手とならなければならない。
「確かにあの時、俺はそこの白い騎士を助けはした。だが、あれは英雄として弱者を助けただけの話だ」
弱者、と呟いた白神の言葉に、俺はそうだと頷いて見せる。
「弱いものを守るのが、英雄としての責務だ。だからこそ、弱い者が戦いの場に立つことを俺は良しとしない」
だからこいと、戦えることを示して見せろと、俺は杖埼先をもう一度だけ彼女らへと向けた。
そしてその言葉に、今度は赤園少女が剣を抜いて答えてくれた。
「レ、レッドさん……」
「ホワイト、私はやるよ。あの人の言う通り、私たちは弱かったかもしれないけど……それでも、アルちゃんたちの国も、他の世界の人たちも助けるために強くなったんだもん。ちゃんと戦えるんだって見せてあげるんだから!」
ホワイトは? と白神に問いかける赤園少女。そんな彼女の言葉に顔を俯かせていた白神であったが、やがて顔を上げると何かを決めたような表情で頷いて見せた。
「私も……やります。レッドさんみたいに、全部の世界を、何て大きなことは言えないけど……せめて、私の大切なものを守るために戦います……!」
うん! と白神の言葉に笑って頷いて見せる赤園少女と青旗少女。
ついに三人の思いを一つにした彼女らは改めて対峙する俺を見据えた。
「まさか、三人がかりは卑怯、だなんて言わないわよね?」
「当然だな。むしろ、三人がかりでなければ意味がない」
青旗少女の煽るような言葉に、俺は逆に溜息を吐いて見せた。
今後も三人で戦う彼女らの成長を見るために出てきたのに、一人ずつ戦うなどという予想外の対応をされたらどうしようかと考えていたくらいだ。
「あっそう!」と面白くなさそうな様子の青旗少女は赤園少女と一瞬視線を合わせると、次には二人同時に駆けて来る。
その後ろには構えた弓に雷の矢がつがえた白神の姿。
「ハァッ!!」
まず最初に切り込んできたのは赤園少女。
前方を薙ぐように振られる紅の両手剣に注意を向けながら、もう一人の青旗少女の動きを見る。
薙いで避けたところに、赤園少女の後ろから槍の突きが飛んでくるのだろう。
だがそれも、タイミングが少々遅い。まだ息があっていないことが伺える。
「そこっ!」
「えっ!? キャァッ!?」
「レッド!?」
剣の横なぎに対して俺が取った選択肢は、避けるのではなく一歩距離を詰めてからの防御。
振り切る前に剣の柄の部分に杖を当ててそれを阻止した俺は、驚く彼女を無視して横方向に蹴り飛ばす。
目の前の相棒が突然吹っ飛んだかと思えば、目の前に俺が現れた状況に青旗少女も驚いた様子を見せるが、続けて蹴り飛ばす前に彼女は槍で俺の蹴りを防ぐ。
「なめんじゃないわよ!!」
そして地面に槍を突き立てると、彼女はそのやりを軸にして飛び回し蹴りを俺の顔面目掛けて放ってきた。
なんて危険な技をとも思わなくはないが、自分でそういう状況にしたのだから仕方ない。
両手で持った杖でガードすれば、予想していたよりも強い衝撃に思わず足を止めた。
「ホワイト!」
「はいっ!!」
そして足を止めた俺に向かって放たれた雷の一射。
視認することも難しい速度で放たれたその雷は、迷うことなくまっすぐに俺に撃ち込まれる。
だがそれも遅い。
撃ち込まれた一射は、瞬時に展開した『防御結界陣』によって俺の体に当たる直前にパァンッ! という音を立てて露散してしまった。
「「なっ……!」」
「驚いている暇なんてないぞ!」
目の前で弾けて消えた雷に目を見開く青旗少女の隙を見て、今度は槍を持つ彼女の腕を掴む。
急に掴まれたことで、反射的に振りほどこうとする青旗少女であったが手にした槍で反撃される前に適当な方向に投げ飛ばした。
一人になった白神と目が合った。
「どうした、こないのか?」
「っ……!」
「武器が弓だから後ろから援護する。その考え方は正しいかもしれないが、その考え方は守ってもらうことが大前提だ。こうして前の二人がいなくなって、『何もできません』なんて言うんじゃないぞ……!」
「言いませんっ!」
瞬時に生み出された10本近くの矢をつがえた白神は、ためらうことなくそれらを放つ。
真っ直ぐ飛ぶだけではなく、上下左右あらゆる方向へと軌道を変えて襲い掛かってくるその矢は対処することは難しいのだろう。
おまけに触れれば感電し、一時的に行動することが困難になる雷の矢だ。
左目に魔力を込め、数秒先の未来を先読みする。
狙われているのは両腕と両足にそれぞれ二本に胴に数本。まったく同じ軌道で時間差で攻撃してくる矢まであるときた。
試練で相当鍛えたのだろう。
「『防御結界陣』」
それらすべてを、各所に展開した魔法陣で対処して見せる。
「あれ……?」
「どうした。それで終わりか? その程度だというのであれば……正直、期待外れもいいところだぞ?」
「誰が!!」
「期待外れですって!!」
「『空間置換陣』」
「「!?」」
背後から襲い掛かってきた槍の刺突と剣の一閃に、続けて発動させた魔法陣で背後の何もない空間と自分の位置を入れ替える。
後ろからの攻撃を射なされ、一瞬で姿を消したことに動揺を露にする彼女たちは、背後に移動していた俺に向き直ると改めて武器を構えた。
「レッド、今の動き見えた?」
「ダメ、わからなかった。ホワイトは?」
「……え? あ……そう、ですね。さっきの一瞬で魔法陣が見えたので、恐らくはそれなんじゃないかなと……」
「……厄介ね。この間も見ていて思ったけど、あいつ近接戦闘よりもああした搦手の方が得意なタイプよ。それなのに、近接も強いなんて反則じゃない……!」
「うん、強いね」
話し合う彼女たちの出方を伺いつつ、次はどうやって攻めるかを考える。
「……何ともしがたいなこりゃ」
そんな中で、俺は彼女らには聞こえないようにボソリと心情が口から零れた。
というのも、彼女ら自身の実力が俺が予想していた以上に伸びているからだ。
今はまだ個人の実力では俺が勝っているが、三人の息が合うようになれば苦戦は免れないだろう。遅延はできても最終的には押し切られてしまうことも考えられる。
息があっていないのも、試練による成長で以前のタイミングでは合わなくなってしまっているからだろう。
ならここは、彼女らの息が合うようになるまで相手をしてやるのがいい。
俺が期待しすぎただけで、息があってもなお変わらないのであればそれまで。だが、そうでなければ、彼女たちが戦うことにも納得せざるを得ない。
「さぁ、ここからだぞ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうも、岳鳥翁です。
もう少しで7万PVだぁ!
面白い、続きが気になる! など思っていただけましたら、
是非とも感想やレビュー、ブックマーク等々よろしくお願いします!
やる気とモチベーションに繋がりますので是非!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます