第84話:世界樹の試練2

「……あれ、ねねさん……? 舞さん……?」


 白い光が収まって目を開けた私は、先ほどまで一緒にいたねねさんと舞さんがいつの間にかいなくなっていることに気付いた。

 試練は、私たち三人で受けるんじゃなくて一人ずつ受ける形になろうのだろうか。


「……いけない、それよりも探さなくちゃ」


 詳しい話は試練で会った者に聞くように、とアルくんから言われているため、その目的の人物を探すために私は歩き出す。


 それにしても、ここはどこなのだろうか。

 薄暗く、岩肌がむき出しの洞窟の中。ATM洞窟(メキシコの心霊スポット。正式名称はアクトゥン・チュニチル・ムクナル)ではないだろうけど、ここが試練の場所なのだろうか。


 妙に熱く感じる中をゆっくりと進んでいく。

 幸いなことに、ここでは既に返信できているらしく、今の私はジュエルホワイトとして動くことができる。

 途中落ちたら助かりそうにない穴や切り立った絶壁など、変身していなけばどうにもならない場所も進み、やがてたどり着いたのは洞窟の最奥。


「こ、れは……」


 目に入った光景を前にして、私は立ち止まざるを得なかった。


 まず感じたのは立っているだけで倒れてしまいそうになる暑さ。そして吸うだけで灰が焼けそうになる空気。

 目の前のマグマがブクッ……ブクッ……と噴き出し、岩盤のあちこちから高温の空気が漏れて視界が揺らいでいる。


 変身しているとはいえ、あのマグマの中に落ちればどうなってしまうかわからない。


 その恐怖で思わず一歩引いてしまいそうになるが、すぐさまこれが試練であること。そして何のためにこの試練を受けると決めたのかを思い出して踏みとどまった。


『……ほぉ、踏みとどまりおったか』


 すると、何かに声を掛けられた。

 面白いと言いたげな、しかしすぐその後には興味をなくしていそうな口調だった。


 頭に直接響くようなその声に、私はあわてて辺りを見回した。

 どこから見ているのだろうかと視線を巡らせる。


「だれ……なの。どこにいるの……!」


『ふむ? 探さずとも、我は目の前にいるぞ』


「前って……」


 その言葉通りに視線を前へと向ける。

 しかし、声の主らしき人物の姿はそこにはなく、あるのは見上げるほどの火山が一つ。


「……いや、違う……? 火山じゃない……?」


『なるほど。我を山か何かと間違えておったか』


 山の一部が動いた。

 ズズズッ、と辺りが揺れ動くほどの地響きを鳴らしながらその山の一部が上に持ち上がると、その持ち上がった先の一対の光が私を見下ろした。


 それは顔だった。


『応えよ。貴様、名を申せ』


「……し、白神夕、です」


 その言葉に何とか答えることができた私は、相手の姿がどのようなものかを観察し続ける。

 真っ赤な巨大なトカゲ……いや、翼もあるのを見るにあれは物語の中でも出て来るドラゴンと言う存在なのだろうか。

 まさか、このドラゴンが私の試練で会う者?


『違う。宝石の騎士ジュエルナイトとしての名だ』


「じゅ、ジュエルホワイト……」


 慌てて言いなおしながら、内心で一人アルくんに文句を言いたくなる。

 者って言ったじゃんかぁ~! どう見ても人じゃないよあれ~!


『うむ、ならばジュエルホワイトよ。ここに来たということであれば、まずはこの試練について貴様に教えることがある。心して聞くように』


 そう言って、ドラゴンさんはこの世界樹の試練や、ドラゴンさんたち英雄の影について語り聞かせてくれる。

 顔に似合わず優しいようで、途中『すまぬ、暑かろう』といってこの火山地帯のような場所を一瞬で草原に変えてくれた。そういうことができるらしい。


『ふむ……にしても妙じゃな』


「妙、ですか?」


『うむ。説明した通り、試練にはその相手に見合った英雄の影が選ばれる。故に貴様の場合は何処かの世界の高名な弓使いが選ばれてもおかしくはないんじゃが……』


 ドラゴンさんは自身の体を見下ろすと、『な?』と何故か首を傾げていた。


『こうなると考えられるのは例外だけじゃが……貴様、最近異世界の英雄と縁があったりはせんかったか?』


「英雄の人、ですか? いえ、そんなことはないんですけど……」


 ドラゴンさんの言葉に思い返してみても、これといってそう言った人に出会った記憶はない。

 特別英雄みたいな人だと同じ宝石の騎士ジュエルナイトのねねさんと舞さんだけど、そうじゃないだろうし……普段は津江野先輩と会うことが多いけど先輩はただの男子高校生だし……他に考え付くのはクラスメイトや家のお手伝いさんだけど、そこもそうとは考えられない。


『ふむ……そうか。とすれば、何かしらのイレギュラーかの』


「あの、その場合試練はどうなるんですか?」


『特に問題はない。イレギュラーとは言え、これが貴様が乗り越えるべき姿であることに変わりはないからな』


 何かの手違いがあったが、それで試練が中止になるようなことはないらしい。

 その事実に、私はホッと胸を撫で下ろすと己の武器である弓を構えた。


「それじゃあ、ドラゴンさん。お願いします」


『よろしい。我は英雄の影ではあるが、それでも好みに宿す力を持って貴様の壁となってやろうぞ!!』










『――我の身を真似されたような感覚があったと思って調べてみれば……なんじゃここは』





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どうも、岳鳥翁です。


お、お前はもしかして!!と思ったそこのあなた。

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