第83話:世界樹の試練1

「ここは……」


 ふと気が付いた時には真っ白だった視界が晴れていた。

 辺りを見渡してみれば、先ほどと同じ森の中。ひょっとして、光っただけで何も変わっていないんじゃないかと思ったけど、さっきまで一緒にいた舞ちゃんと夕ちゃん。そしてアルちゃんの姿がないこと。

 そして背後にあったはずのあの大樹の姿がどこにもないことに気がついて、私自身が違う場所にいるんだと知った。


「もう試練は始まっている……ってことかな」


 よし、と握りしめた拳を見ればいつの間にか変身していたらしい。いつものジュエルレッドの格好になっていた私は、剣は抜かずに森の中を歩く。


 アルちゃん曰く、この試練は私たちの成長を促すためにあるって話だったけど、どんな試練が待っているんだろう。

 詳しくは会った者に聞いてほしい、とも言ってたから私はこれから誰かに会うことになると思うんだけど……歩けど歩けど森の中。くまさんにでも出会うのだろうか。


 貝殻のイヤリングも着けてなければ、踊りもそんなに手なわけじゃないんだけどね!


「……お?」


 森の中なのに動物の姿も見ないじゃん! と思わず試練だと忘れて歌いだそうとしていたころ。

 ちょうど私は、視界の先の木々の隙間に一軒の小屋を見つけることができた。


 もしかしてあそこに人がいて、その人に話を聞くのかなと考えた私は少し駆け足になる。


 たどり着いた小屋は、木でできた私が絵本とかでも見たことのあるような造りのもので、「おじゃましまーす……」と恐る恐る開けてみる。

 森の中のこういうお家に住んでいる人って、たいていはクマみたいなおじさん! ってイメージが多いから思わず小声になってしまった。


「お、どうやら来たみたいだね」


 だがそんな私の予想を笑うように。

 扉を開けて出てきたのは、金髪碧眼のまさしく王子様! という言葉が相応しい男性だった。


 最近学園にやってきていたあのキースって人も金髪だったけど、この人はこう……あふれ出る王道! みたいな雰囲気がすごい。

 でも何でこの人、鎧みたいなのを着ているんだろうか? すごく、山の中の小屋と言う状況にミスマッチしている気がする。


「初めまして。君が世界樹の宝石に選ばれた伝説の戦士……ってことであっているかな?」


「……あ、はいっ! 赤園ねねです! よろしくお願いします!」


「あはは! 緊張しなくてもいいよ。それと、君はここにジュエルレッドとして来ているんだ。名前を名乗るのであれば、そちらの方がいいよ」


「わ、わかりました……」


 容姿に見惚れて反応が遅れてしまう。

 うわ~イケメンだぁ~と思いながらその人を見ていると、彼は「立ち話もなんだからまずはここに座って」と、小屋にあったイスを指し示す。


 言われたとおりに座ると、彼はテーブルを挟んだ向かい側の席に着き「さて」と話し始める。


「君も知っている通り、これは世界樹の試練……つまり、君が真に世界樹の宝石の管理者足り得るのかどうかを試し、認められれば更なる力を世界樹から与えられる」


「……え、私ってまだ認められてなかったんですか? アルちゃんは認めらたって言ってたんですけど……」


「いや、認められていることは事実だよ。そうだな……言ってみれば、現状の君はある程度の力を引き出せる状態。そしてこの試練で君が真に認められれば、君は完全に世界樹に認められたことになり、宝石の騎士ジュエルナイトとして覚醒できるようになるだろう」


 そしてその試練を担当するのがこの僕だよ、と男性は自分自身を指さした。

 そんな中、私は覚醒かぁ~と少しばかり上の空。それってあれでしょ? 私の好きな『マジックナイトリン』みたいにすごいオーラを出しながら衣装も変わってめちゃくちゃ強くなる奴じゃん!


 少しだけ未来の自分の姿にワクワクしながら、私は「はい!」と手をあげる。


「何かな、ジュエルレッド」


「その試練って言うのはどんなの何ですか?」


「うん、その話も今からするよ」


 いつの間に身に着けていた眼鏡をクイッと動かした男性は、これまたいつの間にか取り出したホワイトボードにスラスラと何かを書き込んでいく。


 ホワイトボードのど真ん中に、大きな文字で『世界樹の試練とは!』と書かれていた。


「まずこの世界樹の試練は、さっきも言った通り君達宝石の騎士ジュエルナイトが真に認められるようにするためのものだ。そしてその試練は三人の宝石の騎士ジュエルナイトそれぞれに与えられ、それぞれに試練の担当となる者が当てられる」


 君の場合は僕だね、と男性は言う。


「試練の内容は簡単だよ。僕らを倒すこと。これだけさ」


「い、意外とシンプルなんですね……」


「そんなものだよ。ただ、シンプルだからと言って簡単なわけじゃないさ」


 男性はくるりとホワイトボードを裏返す。

 するとそこにはいつかいたのか、『英雄の影』という文字。


「英雄の影?」


「僕らのことさ」


 首を傾げた私に、男性は少し得意げな様子で胸を張る。


「君達の相手をするのは僕ら『英雄の影』だ。まぁ名前だけじゃわからないと思うから、ちゃんと詳しく説明するさ」


「よ、よろしくお願いします……」


「うん。それで僕らの話なんだけど、その前に君は君の世界以外にもたくさんの世界があることを知っているかな?」


「あ、はい。知っています! 異世界、みたいな……」


 前にアルちゃんが話してくれたことがある内容だった。そしてそんな数多くの世界の均衡を保っているのが妖精郷であり、世界樹なんだとも聞いている。

 その言葉を聞き、男性は嬉しそうにうんうんと頷いていた。


「そうだね。そしてそんな世界には、世界を救うような英雄と言う存在が数多く存在しているんだ。世界を飢饉から救った英雄、隕石を止めた英雄、世界を滅ぼす巨悪を打倒した英雄と様々だ」


 ホワイトボードに複数の円を描き、その中に『英雄』と書き込んでいく男性。

 やがてその中の一つを赤く囲むと振り返って私を見た。


「そんな英雄たちの中で、君に相応しいと世界樹が判断した存在。その英雄の人格や能力を模したのがこの僕であり、だからこそ『英雄の影』なんだ」


 要は影法師だねと呟く男性。


 え~と、つまり?

 英雄って呼ばれる人たちが他の世界にたくさんいて、その英雄の人たちの中で私の試練の相手として一番相応しいって世界樹が判断した人のコピーがこの男性ってこと?


 聞いてみれば、彼はそうだよと頷いた。


「まぁ例外もあるんだけど、君の場合は関係ないから問題はないよ。それよりも、試練だ。早速だけど、今の君の実力を見るために僕と一戦交えてもらうよ」


「え、急にですか?」


「何事も、早い方がいいさ」


 パチン、と彼が指を鳴らした。

 するとどういうことなのか、先ほどまで私が座っていたイスも、目の前にあったテーブルも。そして小屋や周りに広がっていた森すら消えて、私と彼は広い草原の上で対峙していた。


「……え、ええぇぇぇぇぇぇええ!? な、何が起こったんですか!?」


「フフッ、君の試練においては、その管理権限は僕になるからね! さぁ、どこからでもかかってくるといいよ!」


 男性はそう言って、どこかすごくかっこいい剣を両手で構えた。

 神々しいとか、そういう言葉の似合いそうな黄金の剣。


 私もそれに倣って剣を構えるが、気になったことを一つだけ聞いてみることにした。


「あ、あの! 一つだけ聞いてもいいでしょうか!」


「ん? もちろん、いいよ! 何が聞きたいんだい?」


「えっと……あなたのお名前を聞いてもいいでしょうか!」


 ずっと心の中では男性とか、彼とかで呼んでいたがいい加減名前を知りたい。

 その言葉に、彼は少し考えるように頭を捻ったが、やがてなぁいいか! と笑顔を見せた。


「本来僕は、その本人じゃないから名乗るのもどうかなって思ったんだけど、その本人もそこまで気にしないだろうから敢えて名乗っておくよ!」


 彼はそう言うと、一度構えを解いて剣を鞘にしまった。


「僕はフィン。巨悪であった魔王を仲間たちと共に打倒した勇者フィン! その影が僕さ!」








「ほれ、腰が入っとらんぞ腰が」


「そんなこといってもぉぉ……!! これいつまで続けるのよ……!」


「わしがいいというまでじゃ」


「こんの……! 試練だ何だっていってたのに、どうして筋トレから始まるのよ……!」


「ほれさぼるな」パシーンッ


「ひぅんっ!? ちょっと!? 竹刀でお尻叩かないでよ! こっちは乙女なのよ!?」


「口答えする出ないわ!! わしも元は立派な乙女じゃったし、それくらいはやって負ったわ! ほれ、追加で千回じゃ。変身しているならいけるじゃろう」


「アルトバルトォォ……!! もどったら覚えておきなさい……!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どうも、岳鳥翁です。

いよいよ試練に入ります。


え……!? ここで出てくんの!?と思ったそこのあなたは

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