第81話:宝石の騎士と世界樹の試練
クリスマスパーティーの翌日、私たち三人は一度学校の正門で合流してから山へと向かった。
その道中で舞ちゃんに、昨日のことを誤ったんだけど「別にいいわよ」と許してくれた!
許してくれたんだけど……
「なんでそんなに私から距離を取るの!? 夕ちゃんを盾にしてまで!!」
「そ、そんなことないわよ……ちょっと、貞操の危機を感じただけだから……」
「だから違うんだってぇ~! わぁーん、舞ちゃんがいじめるよ夕ちゃぁ~ん!」
「あ、あははは……わ、私盾にされてたんですねこれ……でも昨日の舞さんも、口ではああ言ってても、そこまで嫌がってなかったと思うんですけど」
舞ちゃんに肩を掴まれて苦笑を浮かべていた夕ちゃんだったが、ふと思い出す様に呟いたその言葉に舞ちゃんは驚愕を、私は笑みを浮かべていた。
「ちょっ……! 夕! あ、あなた何をわけのわからないことを言ってるのかしら!? 別に私はそんな風には――」
「ふっふっふ……何を焦っているのかなぁ~、舞ちゃん? 知ってる? 舞ちゃんって図星をつかれると早口になるんだよ?」
「そ、そんなことは……!」と夕ちゃんから距離を取って後ずさる舞ちゃん。
私はそんな舞ちゃんの行動を見逃さず素早く夕ちゃんを避けるように舞ちゃんに近づくと私よりもたわわに実った双丘目掛けて抱き着いた。
「もぉ~! 舞ちゃんってばツンデレさんなんだからぁ~! 私のことが好きなら素直にそう言えばいいのにぃ~!」
「ちょっとねね!? こ、こんな道端でくっついてくるんじゃないわよ!? あとその手つきを辞めなさい!!!」
必死に引き離そうとする舞ちゃん可愛い。
そして力づくでやれば引き離せるのに、そうしないってことは満更ではないと見た……!
私は「よいではないか~よいではないかぁ~」と舞ちゃんの服の下へと手を伸ばす
「いい加減に……しなさい!!!」
「ゥゲェッ!?」
なかなかの鈍痛に、思わず乙女的にはアウトな声を漏らして地に伏した。
流石に調子に乗りすぎたのか、脳天に舞ちゃんの鮮やかなチョップを叩き込まれてしまったようだった。
「まったくもう……」と顔を赤らめながら私を見下ろす舞ちゃんと、私たちのじゃれ合いを見て「本当に仲がいいですよね」と笑みを浮かべる夕ちゃん。
「あはは……幼馴染だからねぇ~」
「こっちは大変よ。夕も、こんな幼馴染がいたらきっと苦労するわ」
頭を抑えながら立ち上がると、「ふんっ」と舞ちゃんにはそっぽをむかれてしまった。
如何にも「私怒ってます」というその態度を見て舞ちゃんらしいやと思いながらも、私は泣き崩れる真似をしながら夕ちゃんに抱きついた。
「夕ちゃぁ〜ん……舞ちゃんが怒ったぁぁ」
「こ、今度は私ですかっ!?」
抱きつかれて慌てふためく夕ちゃんが可愛い。
引き剥がそうにも、私に対してどうすればいいのかわからないと言った様子。
そんな夕ちゃんの耳元に、私はそっとつぶやくのだった。
「それで? 昨日は夕ちゃんもお楽しみでしたなぁ〜」
「……へ? ……ヒャイィっ!? ね、ねねさん……!? ど、どうしてそれを……!?」
その一言で顔を赤らめて更に動揺も隠せない夕ちゃん。
どうやら、昨日のアレを見られていないと思っていたらしいが、酔っていても恋の波動は見逃さないのがこの私赤園ねねだ!
「ふふっ……何を話してるのかまでは聞こえなかったけど、随分と先輩に甘えてたねぇ〜?」
「は、はわっ、はわわわわわ……!? あ、あのっ、ねねさんっそ、そういうことじゃなくて……」
「ほほぉ〜? ならどういうことだったのかなぁ〜? 私に教えてほしいなぁ?」
「あ……ぁぅぁぅ……」
途端に植物が萎れるように縮こまっていく夕ちゃん。
更に顔を赤くしたその様子はまるで茹ったタコのようだった。
「こらねね、そこまでにしてあげなさい。あんまり後輩をいじめるようなことするんじゃないわよ」
「え~! でも舞ちゃん、せっかく夕ちゃんが恋に目覚めたんだよ! それこそ、先輩として応援してあげないと!」
「こ、ここここ……鯉っ!?」
「たぶんそれは魚類よ、夕。それより、着いたわよ」
そう言って足を止めた舞ちゃんに倣って立ち止まる。
いつの間に到着していたのか、目の前を見上げてみればそこには見慣れたあの大樹があった。
昔から私や舞ちゃんがよく来ていた場所で、その根元には秘密基地にしていた根っこのドームがある。
思い返せば今年の春、ここでアルちゃんに会って、そして
最初はわけもわからなくて、突然戦うことになってしまった。けど、色んなことがあって、今では一緒に戦ってくれる仲間も増えた。
私達だけじゃない。私たち以外の世界のためにも、強くならなくちゃいけないんだ。
心に剣を
きっと、私の憧れならそうすると思うから。
「皆! 来たアル!」
「あ! アルちゃん!」
すると頭上から聞きなれた声が響いた。
私たち三人がその声に気付いて上を見上げると、大樹の中心部の洞のような部分で手を振っているアルちゃんの姿があった。
アルちゃんはいつものようにフワフワと浮いて進みながら私たちの元へとやってくると、差し出した私の手のひらにちょこんとのっかった。
「朝から『準備のために先に出るアル!』とか言ってたけど、どう? 準備は終わった?」
「もちろんアル! おかげで万端アル! すぐにでも始められるアル!」
こっちアル! と再び飛んで案内してくれるアルちゃんに私たち三人も続いた。
やがて案内されたのは洞の真下。そこで止まったアルちゃんがこちらに振り返ると、改めて私たちに言葉を投げかけてきた。
「さて……ねね、舞、夕。これから、世界樹の試練を始めるアルが……その試練がどんなものなのかは王族である僕自身にもわからないアル」
「……え、そうなの?」
「そうアル。なにせ、
だからこそ、とアルちゃんは言葉を続ける。
「僕は君たち三人を信じることしかできないアル。けど、これまで見てきた僕だからこそ、君達なら試練を乗り越えられると思っているアル!」
「アルちゃん……うん! 私達ならきっと大丈夫! そうだよね、皆!」
「そうね。私達三人なら問題ないはずよ」
「はい! きっと、大丈夫です!」
二人と顔を見合わせると、二人はそれに答えてくれるように笑顔で頷いてくれた。
そんな私たちの様子を見ていたアルちゃんは「君達ならそう答えると思っていたアル!」と洞まで飛び上がって木に手を付けた。
その瞬間、大樹が淡く輝き、洞から光があふれ出す。
その光が頭上から私たちを照らすと、足元にマジックナイトリンでも見たことがある魔法陣が広がった。
「行ってくるよ、アルちゃん!」
「アル! きっとみんななら大丈夫アル! 自信を持つアル!」
アルちゃんのその言葉を聞いたところで、視界が徐々に白く塗りつぶされていく。
そして真っ白で何も見えなくなったところで、私は強烈な浮遊感とともにどこかへと意識が飛ばされるのだった。
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どうも、岳鳥翁です。
面白い、続きが気になる! など思っていただけましたら、
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