第79話:賢者はクリスマス会に御呼ばれする

「メリークリスマース!!」


 パンッ! という赤園が鳴らした派手なクラッカー音で始まったクリスマス会に集まったのは、パーティー会場にもなっている白神邸の住人である白神と仲が良いということで御呼ばれされた俺。

 そして白神の先輩であり俺の後輩でもある赤園少女と青旗少女、あと+α(ハムスターモドキ)である。


「くぅ~っ! テストも終わって休みにも入ったし、今日は存分にクリスマスを祝うしかないよねっ!」


「はいっ! ねねさん! あ、先輩! 飲み物淹れますね」


「いや自分で入れるから大丈夫だ」


「はぁ……あなた達、もう少し静かに……はできないわよね、きっと」


 妙にテンションの高い赤園少女と白神は先程から口と手が止まっていないように見える。

 まだグラスは残っているというのに瓶入りのジュースをぐいぐいと押し付けて来る白神を抑えていると、そんなハイテンションの二人の様子を見ていた青旗少女がはぁ、とため息をついていた。


 まぁ、気持ちはすごくよくわかる。


「でも舞ちゃん! せっかくこうして夕ちゃんがパーティーに誘ってくれて、こーんなにおいしそうな料理も準備してくれてるんだよ? はしゃがないと損だよ! 損!」


 見てよこれ! と赤園少女が机の上に並べられたご馳走を示して見せると、青旗少女は押し黙るしかなかった。


 まぁこんなご馳走、なかなか見る機会なんてないからなぁ……


 七面鳥か? わからないが、何かの鳥の丸焼きをメインに色とりどりのサラダや色んな料理が盛られたオードブルが並べられた卓上のそれらは、俺たち四人で食べきれるのかも怪しいと思われる。

 しかしそこは安心してほしいとのことで、余った料理はこの後でお手伝いさんたちも食べるうえに残りは後日白神家で消費されるのだとか。


「先輩先輩! このチキン美味しいですよ! 取ってあげますね!」


「お、おう……ありがとうな白神。……ただ、俺の皿、他にも白神が乗せてくれた料理でいっぱいなんだが……」


「はい! どうぞ!」


 ドンッ! と、俺の皿の状況を見ていないのか、なかなかに大きな足の部分を取ってきた白神は、そのまま有無を言わさぬ勢いで料理を盛られた皿の、その更に上にチキンを置いていった。


「……い、いただきます」


「はい! 召し上がれ!」


 召し上がれだって! と何故か隣でくねくねしている白神を無視して、チキンを頬張る。

 味は良い。というかすごくうまい。

 調理法とか教えてもらえるのだろうかと一瞬考えるほどには。


 向こうでは基本的に俺が食事担当だったため、それなりの物は作れると自負しているが、やはり本職には遠く及ばないことがよくわかる。

 まぁでも、道具の有無もあるから仕方のない部分はあるかもしれない。だがどうにかして、こっちの世界のうまいものをあいつらに食わせてやれないだろうか。


 ……今度調理器具買って保管庫に入れとくか。


「ど、どうですか? お、おいしいですか、先輩……?」


「……ん? ああ、美味しいなこれ。味付けもかなり好きな部類だし」


「そ、そうですか……! やった……!」


 隣で喜んでいる白神を横目で見つつ、チキン以外の料理も口に運ぶ。

 こちらもチキンに劣らずおいしいのだから、白神家はよほどのシェフを抱え込んでいるのだろう。

 向こうの世界なら、あのお転婆姫に気に入られて王族御用達の料理人になってもおかしくはないだろうな。


 それからしばらく、やいのやいのと俺たち四人は料理を楽しんだ。

 妙に白神の押しが強かったり、赤園少女が乱入してきて青旗少女に連れていかれたり、会場に現れたハムスターを見つけた俺に対して、三人が慌ててハムスターを追い出したり。


 そんなおり、突然パンッ! と手を鳴らした赤園少女。

 その音に俺を含めた三人が赤園少女をみると、彼女は「ふっふっふ……」と怪しげな笑みを浮かべていた。


「それでは皆様……宴もたけわな!」


「ねね、それを言うなら宴もたけなわ、よ」


「……わ、わかってるよ! ま、間違えただけ! ……宴もたけなわ! プレゼント交換やりましょっ! もちろん、津江野先輩も準備してきましたよねっ!」


 じゃじゃーん! とどこからか取り出した袋を掲げてみせた赤園少女。

 そんな彼女の問いかけに、俺はもちろんと頷いて見せる。持ってきた鞄から三つ、それぞれ異なる包装が施された箱を取り出した。


「おー、いいですねいいですね! それじゃあ言い出しっぺの私から! まずはこれ! 舞ちゃんに!」


 そう言って手にしていた袋の一つを青旗少女へと渡していた。

 中身は青旗少女のイメージカラーになりそうな青色のブレスレット。それを受け取った青旗少女は最初呆れたように苦笑を浮かべていたが、「まったくあなたはもう……」とどこか嬉しげな様子で受け取っていた。


 その後、白神にはどこかで買ってきたのか未確認動物の木彫りを。そして意外なことに俺にもプレゼントがあったようで、ペンケースを貰ってしまった。


「別に俺のことはよかったんだぞ?」


「いえ、せっかくのパーティーですから! ただ、津江野先輩の好みがわからなかったので無難なものになってしまいましたけど……」


「いや、もらえるだけでも嬉しいよ」


 ありがとうと伝えて、もらったペンケースを鞄にしまう。

 折角もらったんだ。ありがたく使わせてもらうことにしよう。


 その後もプレゼント会は進み、青旗少女からは写真立てを、白神からは手袋を貰った。これらもちゃんと使わせてもらうことにしよう。


「それじゃあ、最後は俺だな」


 メリークリスマスと言って俺は三人にプレゼントを渡した。

 赤園少女と青旗少女は何が好きなのかわからなかったため、無難ではあるがドライフラワーを送らせてもらった。

 二人の反応からして、まぁ悪いものではないといったところか。俺にしてはなかなか良かったチョイスではないだろうか。


 そして、もう一人。

 二人とは違う形の箱を開けて出てきた腕時計を見た白神は、「これ……」と手に取ってみていた。


 それに気づいた赤園少女は「わー! 時計だ!」といって白神の下に駆け寄って隣から覗き込む。


「ふふっ、津江野せんぱーい。私達とはずいぶんと違うんですねー。やっぱり、夕ちゃんは特別ですかぁ?」


「そりゃ、二人と比べても白神との方が一緒にいた時間は明らかに長いからな。だが、二人の奴もそれなりに考えてプレゼントしてるんだぞ?」


「わかってますって」


「あ、あの、先輩……これ、つけてもいいですか?」


 おずおずと言った様子で腕時計を手にする白神。

 すでにプレゼントしたものであるためもちろんだと頷いて見せると、白神は嬉しそうに手首に巻き付けた。


 その様子を見て内心でホッと一息ついた。

 思っていた以上に喜んでくれたようで、選んだ甲斐があったというものだ。


「夕、ちょっと」


「? 舞さん、どうしたんですか?」


 腕に着けた時計を眺めていた白神に近づき、何か小声で伝える青旗少女。

 その直後、何を言われたのかわからないがいっきに顔を赤らめた彼女はバッ! とものすごい勢いで俺の方を振り向いた。


「……?」


「先輩も、罪作りな人ですなぁ」


「何の話だ、赤園」


「いえいえ、なにもなにも~」


 からかうような仕草で近づいてきた赤園少女だったが、そう言って離れていく。


 ……まぁ、いい。

 嬉しそうな顔見れた。それだけで、今日は来てよかったと、そう思うことにしておこう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どうも、岳鳥翁です。

書けば見てくれる人がいる。これ、本当にありがたいことですね。

いつも読んでくださり、ありがとうございます。



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