第78話:賢者は贈り物を買いに行く

 白神の様子が少しばかりおかしくなった日から数日ほど経過し、あっという間に終業式を迎えることとなった。


 クリスマスまであと数日であるからか、空ノ森町のいたるところでもクリスマスカラーに彩られている他、楽し気な子供たちの姿を見る機会も増えてきた。

 そう言えば去年は変わらず寮に引きこもっていたから、こんな光景を見ることもなかったなと、少し前までの自分について思い返す。


 さて、そんな俺は終業式を迎えた放課後に商店街へと赴いていた。


 理由はもちろん、数日後に控えた白神達とのクリスマスパーティー。その準備のためである。


 準備、とはいってもパーティーそのものは以前にお邪魔したあのばかでかい白神邸で行われるそうで、白神家のお手伝いさんたちがやってくれるそう。

 なので俺が準備しなければならないのは白神と、直前になってくることを教えられた赤園少女と青旗少女の計3人分のプレゼントである。


 ……本当に、何で直前で伝えるのかあの娘は。


 それを聞いて断ることも考えたのだが、田村達男子のアホみたいな集まりを思い出したのと、単純に白神からの「まさか断ったりしないですよね?」という圧に負けて諦めた。


 まぁ確かに白神と二人きりと言うのもどうなのかとは思っていたため、これはこれでよかったのかもしれない。だがしかし、よりにもよってあの二人かぁ……となるのも事実。

 あの三人そろってって事は確実にあのハムスターモドキも来るだろうに。一気に気の抜けないパーティーになりやがった。

 別に魔法を使う予定も何もないのだが、何が原因になるかわからないため気を付けなければならない。


 ……とはいえ、今はプレゼントだ。

 正直な話、女子中学生が何を貰って喜ぶのかが全く予想ができない。以前のお菓子選びよりも難易度が上がっていやがる……


 何を送ろうか、と見知った商店街のあちこちをぶらぶらと練り歩く。

 あれはどうか、いやそれともあっちかと、プレゼントによさそうだと思ったものを物色していると、不意に「津江野先輩?」と背後から俺の名を呼ばれた。


「ああ、やはり津江野先輩でしたか」


「おっと……青旗か」


 振り返ってみてみれば、そこにいたのは制服姿の青旗少女。

 学校帰り? と聞いてみれば、どうやら生徒会の用事で商店街へ立ち寄っていたらしい。何かを買ったのか、クリスマス仕様の紙袋を持っていた。


「大変だな……今日終業式だったっていうのに」


「いえ、ちょうど他にも用があったのでもののついでですよ。それより、津江野先輩も何か買いに来たんですか?」


 その青旗少女の質問に、どうしたものかと考える。

 一応今回購入する予定のプレゼントには青旗少女へのものも含まれるため、その本人を目の前にしてその事実を告げてもいいものなのか。


 しかし、よくよく考えてみれば変に隠すようなことでもないかと思って、思いのほかあっさりと「今度のパーティー用のプレゼントを買いにな」と答えるのだった。


「……それ、私とねねの分も含めてるんです?」


「まぁね」


「普通、本人前にしたら黙っておくことだと思うんですけど……」


 呆れたようにため息を吐く青旗少女。

 だが彼女も、「まぁ私もなんですけど」と手にしていた紙袋を掲げてみせた。


 どうやら、彼女もプレゼントを買いに来ていたようだった。生徒会の用事はそのついでだったらしい。

 そこで俺は、そうだと思いつく。


 もうプレゼント買いに来ているのは知られているのだし、今どきの中学生が何を欲しがるのかを聞いてしまおう、と。


「何を喜ぶか、ですか?」


「そうそう。恥ずかしながら、今どきの中学生が何を貰って喜ぶのかあんまりわかってないからな……流行りのアイテムとか、何かいいものはないか?」


「なるほど……とは言っても、私もそこまで流行りには疎いので力になれるかわかりませんが」


 どうやら青旗少女はそういったものにはあまり詳しくないそうだ。どちらかと言えば赤園少女の方がこういったことには強いらしい。


「それでも、俺が考えるよりいいのを選べるだろ? 何なら、プレゼント用にご希望の物を買ってあげてもいい。あ、もちろんそんな高いものは無理なんだが」


「あんまりそういうこと言わないほうがいいですよ。それに、ねねや私のものはともかく、夕のプレゼントはちゃんと選んであげてください」


 いいですか? と念押しされるように言われ、俺は渋々と頷いた。

 とはいっても、一応の相談には乗ってくれるらしい。用事はもういいのかと聞けば、すでに済ませたとのことで青旗少女は俺に付き添ってくれた。


「お、これなんかどう思う? エプロンは定番だと思うんだが。もしかしたら白神も家で料理とかするようになるかもしれん」


「やめておいた方がいいかもです。エプロンには『もっと働きなさい』という意味があるので、夕に送るには不適切だと思いますよ」


「そ、そうなのか……」




「これなんかどう思う? 白神って髪を伸ばしてるし、髪を梳かすのにも……」


「先輩……櫛は語呂合わせ的に9と4で『苦』と『死』の組み合わせになるのであまりよくないかと」


「……う、うす」




「な、ならこれはどうだ。ほらこれ、ハンカチとか女の子ってよく使うだろ? 特にこのハンカチ、白神の髪の色とあってるしちょうどいいと思うんだが――」


「絶対やめてください。ハンカチは『手巾てぎれ』と書くので縁を切るという意味になりますし、ましてや真っ白のハンカチは亡くなった方の顔にかける白い布を連想させるので夕に送らないように」


「……な、なんかごめんな」




 俺ってここまでプレゼント送るのに向いてなかったっけか? と思う今日この頃。いいなと思ったものはだいたい青旗少女に却下されている。

 とは言っても、アクセサリー類は中学生に送るにしては少々重い気がするしなぁ……


「……お」


 青旗少女の後ろについて行く形で歩いていると、とある店舗の店頭に飾られたモノが目についた。

 立ち寄ってそれをよく見てみれば、白と赤でデザインされたレディースの時計。


 赤も差し色程度でそこまで派手ではない。学校でも身に着けられるだろうし、レディース用でそこまで大きいものでもないため白神にはちょうどいいだろう。


 配色もまさに白神らしいし、これはよいのではなかろうか。


「時計、いいじゃないですか」


「お、本当か? ちなみに時計ってどんな意味があるんだ?」


「勉強とか仕事を頑張れという意味がありますね。学生ですし、夕にもちょうどいいと思いますよ」


「おお、今度はまともなプレゼントを選べたようだ……なら、俺はこれを買ってくるよ。青旗、色々教えてくれてありがとう」


 ここまで結構長い時間青旗少女を付き合わせてしまったため、そのことに詫びをいれて俺は店内へと入った。

 学生が買うにしては少々値が張ったかもしれないが、色々とやってそれなりに手持ちがあるためとくに問題はない。


 いい買い物ができたぞ、と店員さんにラッピングされるのを見てひとりでに喜ぶのだった。





「ふふっ……時計、『あなたと共に過ごしたい』って意味もあるんだけど……これは私からは言わないでおきますか」


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