閑話:邪悪なる陣営

本日2話閑話を更新しています。

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「そう……それで? あなたはおめおめと帰ってきたわけ?」


「……申し訳ございません」


「あら? 別に私は謝ってほしいわけじゃないのよ? 結果が出てないって言ってんのよ」


 数多の世界の均衡を保つ妖精郷フェアリーガーデン

 普段であればメルヘンな動植物たちが思い思いに過ごす場所。桃色の空の下で平和に妖精たちが生きるその世界は今、面影すら残らない別世界へと変貌していた。


 植物は枯れ、動物も妖精も衰弱した世界。空はどんよりとした真っ黒の雲で覆われ、あちこちで雷や地鳴りなどの異常気象が観測されていた。


 そんな妖精郷の中心の居城。

 もともとはアルトバルトら妖精の王族が暮らしていた城の謁見の間にて、キースは片膝をついて頭を下げていた。


 そんなキースの黙りこくる姿を見て、王が不在の椅子の傍らの女は「はぁ……」とため息を吐いた。


「いいかしら? キング様が完全復活して全世界の頂点に立つためにはこの妖精郷……そして世界樹を手中に収める必要があるの。その鍵となるのがあの宝石。おわかり?」


「……はい。しかし、今回の敗北は……」


「黙りなさい。何があったとしても、宝石もプリッツも回収できずに帰還したあなたに発言権何てないわよ。おまけにアンフェがいなければあなたが敵の手に落ちていたのよ? 恥を知りなさい」


「……申し訳ございません」


「キャハッ♪ キース怒られてるぅ~。だっさぁーいっ♬」


 悔しそうに地に突き付けた拳を握りしめるキース。

 そんなキースの様子をその後ろでさもおかしそうに笑うアンフェであったが、イラついた様子の女が壇上から睨みつけるとそっぽを向いて誤魔化した。


「アンフェ、あなたもよ! 性格は理解してるつもりだったけど、情報共有くらいはしていなさい! あなたが宝石の騎士は弱くてやる気が出ないと言うから、キース一人にプリッツの回収と宝石の騎士ジュエルナイトからの宝石の奪取を命じたというのに……!」


「えー、でもそれってぇ、アンフェが悪いわけじゃないってゆーかぁ。キースだってその命令そっちのけで自分の目的優先だったみたいだしぃ?」


「……」


「それについても失望したわ。結果を出していたならそれも咎めるつもりはなかったのに、何の成果もないじゃない。嫁探しですってぇ? 婚活したいなら私の骸人形とさせてやるわよ…!!」


 かっぴらいた目をキースに向けて拳を振るわせる女。そんな彼女に対して、アンフェは「そんなに怒りっぽいと、キング様に嫌われちゃうよぉ? クイーン」と煽るように笑みを浮かべた。


「あんですっテェ!?」


 女――クイーンと呼ばれた彼女は、その言葉に対して怒りと共に両の手を広げてみせる。

すると、彼女を中心にして黒い鎧の騎士が十数体現れた。


骸人形

イーヴィルクイーンが持つ力の一端であり、自身が殺した相手をあのままに操る能力。

妖精卿を手中に収めたのち、別世界へと赴いて滅ぼした世界の騎士団を彼女は数多く所有している。


そんな騎士たちがクイーンの合図で抜刀し剣先をアンフェへと向けた。


「気に食わないのよなぁあんた……!! 今ここで私のコレクションに加えてあげようかしら……!! フフッ……ドラゴンの標本として城の屋根上に置いておいてあげるわよ……!!」


「えぇ〜アンフェ、こわぁ〜い♪ 出来もしないことを自信満々に言い切っちゃうおばさんってぇ〜……とってもみじめっ♫」


「……コロスゥッ!!」


 頭を下げたままのキースは思った。

 僕を間に挟んで喧嘩するのは辞めてほしい、と。


 前門の虎後門の狼なんて言葉をあの世界で学んだな、と何故か学校生活を懐かしむキース。そういえばあの娘はどうなったのだろうか、などと思いを馳せる。


『落ち着け』


「「「!?」」」


 両者の殺意が高まり、いよいよもって自身の命の終わりを認識していたキースと、そんなキースのことなど知らなとばかりに睨み合っていたアンフェとクイーン。


 しかし城内に響いたその言葉と強大な闇による重圧で、キースのように彼女らも片膝をついて頭を下げた。


「キング様、大変お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません」


『よい。汝らの不和の感情でさえ、余にとっては心地良きものである。まぁ、己ら自身で余らの戦力を減らす愚行は目に余るがな』


 その言葉にビクリと肩を揺らすクイーンとどこ吹く風のアンフェ。

 そんなアンフェに向けて、キングと呼ばれた声の主はさらに言葉を続けた。


『イーヴィルビショップよ。確かに余は汝をそうあれと創造はしたが、不利益になるようなことは今後控えるように』


「えぇ〜……でもでもぉ♪ そういう風に創ったってキング様がぁ〜ーー」


『よいな?』


「……はぁ〜い」


「アンフェ……!! あなた、創造主たるキング様に向かって……!!」


 渋々と言った様子で引き下がったアンフェであったが、その態度が目についたのか同じく頭を下げているはずのクイーンが横まで睨む。

 しかし、そんなクイーンの言葉を声の主は『よい』と一言。


「しかしキング様……!」


『よいのだ。先も言ったが、そうあれと想像したのは余であるが故に。そしてイーヴィルクイーンよ。汝の献身は余もよく知っている。余の肉体の復活のため、これからも励むが良い』


「っ……はい、今後も変わらぬ忠義をあなた様に」


 感極まったように答えるクイーン。

 そしてようやく場が落ち着いたことで、キングは『知らせがある』と続けた。


「知らせでしょうか?」


『うむ。先ほど、イーヴィルルークの反応が消えた』


「そんな、マスキュロスが……!?」


 その知らせに思わず顔を上げたクイーンは、慌てて「申し訳ありません!」と顔を伏せる。

 キースもクイーンとは同じなようで驚きで目を見開き、一方でアンフェは興味も湧かないとあくびを一つ。


『うむ。あやつには宝石の騎士とは別の警戒するべき戦力、その調査を任せていたが……功を焦ったようだな』


「あんの筋肉バカ……っ!!!」


 マスキュロス

 イーヴィルルークであるからも当然ながらクイーン達邪悪なる陣営の仲間であるが、キースと互角の肉弾戦に特化した男だった。

 だが、キース以上に猪突猛進の筋肉であるが故に戦闘を我慢できなかったのだろうとクイーンは推察する。


 そもそもの話、調査任務に向かないあの筋肉バカを向かわせたのが間違いだったことはクイーン自身もわかっている。

 しかし何かと雑用でも役に立つプリッツはおらず、キースは調査以上に慎重になる必要のある任務、アンフェは論外で指揮を執る自分を除けば残るのはマスキュロスしかいない。


 任務前の「任せろガハハッ!」とはなんだったのかあの筋肉バカは……!!


「すみませんキング様……! 私がマスキュロスを送り込んだが故の失態。処分は如何様にも……」


『よい。手駒がいないことは余の責任でもある。汝が気に病むことではない』


 だが、とキングは言葉を続ける。


『余が完全でない今、むやみに戦力を減らす愚行は得策ではない。故にイーヴィルルークが向かった世界は、余の完全復活を成した後に戦力を整えて攻め込むこととする。残るは世界樹の宝石のみ。イーヴィルクイーン、汝に任せるぞ?』


「はっ! お任せください。必ずやキング様にの宝石を献上いたします!」


 イーヴィルクイーンのその言葉とともに、三人にのしかかっていた重圧が解けた。

 その感覚からキングからのお言葉を終えたのだと認識したキースとアンフェはホッと一息つく。


「やぁ~やっぱりキング様ってすごいよねぇっ♬ 思わずゾクッてしちゃったぁ♪」


「……そうだね。僕は何度もあれに晒されたくはないと思うけど」


 一言くらい自身の失態について何かあると考えていたキースであったが、ふたを開けてみれば特にお咎めもなく彼自身も少しばかり拍子抜けしたような気分だった。

 そういえば、そんな自身に対して怒りを向けていたクイーンはどうしたのかとキースは未だに壇上で膝まづいているクイーンを見やった。


「はぁっ……はぁっ……キング様ぁ……! すてきぃ……! 御姿を現された時にはきっとこのクイーンに寵愛を……! わ、私をめちゃくちゃに《不適切な発言が確認されたので自動的に規制が入りました》シテェ……!!」


 キースは見るのを辞めた。



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岳鳥翁です。

拙作を読んでいただきありがとうございます!

もし面白いと、興味があると感じていただけましたら嬉しいです。


邪悪なる陣営意外と楽しそうな組織じゃんと思ってしまったあなた。

またはこんな奴らが世界をめちゃくちゃにしてるのかぁ、と思ったそこのあなた!

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