閑話:異世界の仲間達
リハビリがてら、先にできた間話を投稿します。
本編開始は、今しばらくお待ちくだされ。
あと、読み返して「おいここ設定とか食い違ってるじゃねぇーか!!」って部分が見つかったので修正もしています。大きいところだと海行った3話で、トイレ行ってた記憶に改竄されてるはずなのに覚えているような話を夕にしてた部分等々。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「グオオオォォォ……!?!? この私が……!? イーヴィルルークたるこのマスキュロスが……!? こんな奴らにぃぃいいいいい!!!!!」
少しずつ闇のような粒子に変化して露散していく体を見て、髭面の巨漢は叫んだ。
自身でも信じられないと、今起きている現実は悪夢であると、そう信じたい巨漢ではあった。
しかし、体と共に意識が希薄になっていることを実感して彼は怨嗟の声を目の前の者たちに向けた。
「許さん……! 許さんぞ……!! 貴様たちは必ず……! 我が主であるキング様が滅ぼしてくれようぞ……!! それまでの束の間の安寧……怯えながら享受するがよい……!!」
突き出した手も、恨みがましく見つめる目も既に闇の粒子となって消え去った。しかし体が一片のみになってまでそう続けた男は、ついにはその闇の気配までもを消滅させて完全に消え去った。
「……気配は消えました。恐らく、討伐はできたと思います」
「かぁーっ! 疲れたぁ! ……しっかし、何だったんだあいつ?」
剣と盾を傍にあった木に立てかけどっこいしょ、とその場に座り込んだ男――ガリアンは、そんな疑問をマリアンヌへと投げかける。
しかし彼女は「わかりません」と短く答えた。
「たくっ……気分転換のつもりだったのにとんだ目にあったぜ」
久しぶりにみんなで討伐かなんかに行かないかと誘った結果がこれだ。
魔王を討伐して平和になったとはいえ、各地に生息している魔物の被害がなくなったわけではない。
そのため日頃から政務に励むフィンや自分たちの気分転換に、とガリアンが仲間たちを誘って近くの森へと赴いたのだった。
そしてその途中に現れたのが、先ほど消滅した巨漢である。
『キング様が危険だと判断した貴様らを始末しに来た!』などと言って襲い掛かってきたのだ。
「なぁフィン。お前はどう思う?」
「僕かい? そうだな……魔王の残党のようなもの、と言ったところかな」
「そいつは……穏やかじゃねぇな……」
この場にいる四人と、元の世界へと帰ってしまったもう一人を加えた五人で漸く倒すことができた魔王。
そんな奴の残党がまだ残っていたと考えると、ガリアンは無意識に顔を顰める。
「でも確かにあの時、私たちは魔王の消滅を確認しているわ」
「そうだね。マリアンヌのその言葉に嘘はない。だからこそ、魔王に通ずる、それに似たような何か、と言うべきかな」
「なんだそりゃ?」
「うん、僕も自分で何が言いたいのかよくわからないや。……こういう時、ケントがいてくれればもっと楽なんだけどね……僕、考えるのって苦手だからさ」
「おいおい、次代の王様がそれじゃ心配だぞ?」
わかってるよ、と答えるフィンであるが、ガリアン自身も頭脳労働は苦手なためフィンの言葉には同意する。
思えば、ケントがいたおかげで魔王討伐の旅が為せたと言っても過言ではない場面は多々あったのだ。
ただ真っ直ぐに突き進むフィンとは違い、思考を巡らし、裏を突き、相手を陥れる。その役目を担っていたのがケントであり、勇者パーティの頭脳的存在。
故にこそ、フィンが王となった暁にはその傍らで補佐してほしいと、彼らは考えていたのだった。
「リンもありがとう。君がいてくれたおかげで、だいぶ楽ができたよ」
そう言って、フィンは彼ら三人から少し離れたところで辺りを警戒している小さな赤髪の少女に向けて言葉を投げかける。
幼女のようにも見えるほど小さな少女。しかし、その正体はかつてフィン達と敵対し、後に仲間となってともに世界を救った魔竜。
今はリンと呼ばれる少女は、フィンのその言葉に対して何でもないことのように言って見せた。
「……フンッ、我がいれば当然のことじゃ。あのようなカス相手に手古摺る程、我は柔ではないのじゃ」
「おいそれ、疲労困憊の俺に言ってないよな? あいつの攻撃ほぼ受けて他の俺なんだが?」
「ふふ、リンちゃん。口が悪くなってるわよ」
やいのやいのと騒ぐガリアンと、そんな二人を見て笑みを浮かべるマリアンヌ。
しかしそんな彼らとは対照的に、フィンは未だに浮かない表情を浮かべていた。
それに気づいたガリアンがどうしたのかと問うた。
「さっきの人、言ってたよね。僕たちのことをキング様とか言うのが滅ぼすって」
「……そうだな」
「……また、戦いの日々に戻るのでしょうか」
「わからない。けど、警戒はしておいた方がいいだろうね。ガリアン、騎士団に近辺を調査するように呼び掛けておいて。大々的にやると民から不安視されるだろうから、気づかれない程度に」
「わかった。はぁ……たくっ、どうしてこうなっちまうかね。魔王も倒したっていうのにな」
フィンの言葉を受けて文句を零すガリアン。そんな彼に対して「悪いね」とフィンが謝罪するが、首を振ってその必要はないと示した。
そして続けてマリアンヌには万が一のために教会で怪我を治すためのポーションの製造を頼み、リンには何かあった時すぐに駆け付けられるようにしておいてほしいと頼みこんだ。
これに対してはマリアンヌは力強く頷いたが、一方のリンは黙ったままだった。
「……リン?」
「なぁ、勇者フィンよ。我は汝に問う。次もまた、かの魔王のような存在が現れたとして、我らはこの四人のみで打倒せると思うかの?」
リンはかつて力ある竜としてフィン達の前に立ち塞がった。
一度彼らに敗れ、そしてその中の一人に興味を持ち、彼らの旅に同行するようになった。
そんな彼女は、初めて魔王と対峙した際に恐れたことを覚えている。
圧倒的な魔力と、存在感。それまで一目見て格上だとわかる強者に出会ってこなかった彼女は、恐怖に呑まれそうになったことを覚えている。
また同じような存在が現れるかもしれない。
そう考えると、五人でようやく倒した相手を四人で相手にできるのかという不安があった。
「思うよ」
しかし、目の前の勇者はそんな彼女の不安をその一言で即答した。
「確かに、ケントがいない今不安に思うことはわかるよ。彼がいたから……いや、あの五人だったからこそ今の平和があることもわかっているさ」
でも、とフィンは続ける。
「ケントが……あいつが任せてくれた世界だ。守れなきゃ、任せて帰ったあいつに顔向けできないだろ?」
「……そうじゃな」
首から下げた宝石のペンダントをそっと掴む。
ありがとう、と。そう言ってこの世界から去っていった仲間のことを思い出し、リンとフィンはお互いに苦笑した。
「さぁ、ちょっと忙しくなるかもしれないし、そろそろ戻るよ。みんな、準備して!」
「そうだな。フィンもおっかない嫁さんが仕事の山と一緒に待ってるだろうからな」
「……もうちょっと討伐続けないかな?」
「しねぇよ。次期王様が政務を嫌がるんじゃねぇよ。ほら、帰るぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます