第73話:賢者と宝石の騎士の邂逅
青旗少女の言葉に他二人があたふたと俺の様子を伺っている様子だった。
だがわかる。よくわかるよ、その気持ちは。
「二人を危険に晒したくないからあえて自分が憎まれ役を買って出る。うむ、仲間思いじゃないか」
「なっ……!? っ、いいから!! 疑われたくないなら、さっさと顔を見せなさい! 話はそれからよ!」
俺の言葉に一転して嬉しそうな顔を青旗少女に向ける二人。
そんな二人の目線に耐えられなくなったのか、青旗少女は赤面して慌てたように捲し立てた。
だが残念ながら、その問いかけに俺はNOを突き付けなければならない。
「残念ながら、それは無理だな。よって、話はここで終わりにさせてもらうよ」
「……は? え、ちょっと! そこは顔見せて話をする流れでしょ!?」
「ハハハ、そんな決まりはないからね」
それじゃあ、とその場を離れるために観覧席へ跳んでラプスを回収しようとするのだが、そんな俺に対して「待つアル!」と呼び止める声がかかった。
「一つだけ聞かしてほしいアル」
「なんだ、むっつり妖精」
「む、むっつり!? ……いや、そうじゃないアル! その呼び方も訂正してほしいアルが、その男……邪悪なる陣営の者を連れて行ってどうするつもりアル」
俺が担いでいる気を失ったキースを指さして問いかけるむっつり妖精。
そんな妖精の言葉に振り返ってみせた俺は……何も答えずにその場を去るため踵を返した。
答えるとは言ってないからね。
「ちょ、待つアル! 答えるアル!」
「その義務はない」
「それだけじゃないアル! もしその邪悪なる陣営を何かに利用しているなら、イーヴィル・ポーン……プリッツと名乗っていたあの男を回収したのも君アル!?」
ピタリ、とその言葉に思わず足を止めた。
なるほど、完璧なタイミングで回収したから気づかれないと思っていたのだが……どうやら誤魔化し切れていなかったようだ。
「何故そう思った?」
「知らないアル? 邪悪なる陣営の者を倒せば、その者の持つ負のエネルギーは消滅するアル。けど、
「……なるほど。そんなルールがあったのか。それは参考になる。……が、安心してくれ。回収したところで、君達の不利益になることはない。それは約束しよう」
「へぇ~? いったいどんなことに使うのぉ♪ アンフェにも教えてほしいな♬」
「「「「っ!?」」」」
突然頭上から響いた声に、
そこにいたのはゴスロリを纏った少女。
しかっし、ドラゴンのような特徴を持って宙に浮いているのを見れば誰もが普通ではないと理解できるだろう。
「なるほど、来ていたのか」
「うん♪ お兄さんまた会ったね♬ と・こ・ろ・でぇ~、うちのプリッツと今持ってるキースなんだけど、返してもらえないかなっ♬」
「へぇ……お前らにも仲間を思う心があったのか」
意外だなと思って聞いてみるのだが、期待していた反応とは裏腹にドラゴンガールは「ないない」と首を振る。
曰く、負けたそいつらが弱いだけとのこと。知ってた。
「ならそんな弱いのは放っておけばいいんじゃないか?」
「そうもいかないんだよねぇ~じゃないと、アンフェが怒られるんだも~ん」
だ・か・ら~、とにやりと笑って見せるドラゴンガール。
「とりあえず、そのキースは返してもらってもいい?」
「……交渉とは、意外だな」
「妥当じゃないかなってアンフェは思うけどね♬ 別にぃ私はここでお兄さんと大人の遊びを楽しむのもいいんだけどぉ~……ついてこれないお子ちゃまがいたら、お兄さんも大変でしょっ♪」
そう言ってチラリと彼女が見たのは、俺の背後にいた
お子ちゃまと言われて意外にも青旗少女が憤っているのだが、そんな彼女を他二人が何とか宥めている。
……あの子、冷静なんだよね?
だがドラゴンガールの言うことも一理あるのは本当のことだ。
このままここで彼女とやりあうことになれば、その余波は確実に彼女らを巻き込むことになる。一緒に戦うことも難しい……というか、彼女らと連携を取れる気がしないためかえってマイナス効果だ。
一応、簡易結界陣でまた新しい場を作ってもいいのだが、あのむっつり妖精がいる前で陣を展開するのは憚られる。協力するつもりではあるが、こちらの手の内を全て見せるつもりは今のところない。
……癪だが、乗るのが最善か。
「ほれ、勝手に持っていけ」
そう言ってその場にキースをドラゴンガールに向けて投げつける。多少嫌がらせを込めての全力で投げつけたのだが、彼女はそれをもろともせず受け止めていた。
「ありがと、お兄さん♪ もしよかったらあの無能のプリッツも付けてくれていいんだよ?」
「仲間を無能扱いか。どうでもいいが、そんな奴は知らん」
「つれないんだからぁ~♬」
よいしょ、と巨体のキースを軽々と持ち上げてしまうドラゴンガール。
彼女は一度俺に向き直ると、「また会いに来るわね♪」と笑ってから飛んで行った。
会わなくてもいいなら会いたくない。
「君たちも、早く戻った方がいいぞ。じゃあな」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「そ、そうよ! 私たちはまだ話が……!」
立ち去ろうとする俺に向けて赤園少女と青旗少女が引き留めようとするが、それらを無視して歩みを進める。
しかし数歩歩いたところで俺の歩みは止められた。
「あの……その……」
白い
目の前に現れたその少女は何か言いたげな様子であったが、やがて視線を上げて目を合わせた。
……隠蔽陣があるため顔バレはしないはずだが、真正面からこうしてみられると変に緊張するな。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
「……ああ、無事でよかったよ。次は気をつけてな」
「は……はい!」
そういう元気は、姿が変わっても変わらないんだなと。
そう感じながら俺は白神の隣を通り過ぎ、そのまま観覧席へと跳んで姿を眩ませるのだった。
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