第72話:騎士VS賢者の行方
「さて、ご挨拶はこの辺にして、だ。し……そこの白い
「あ……は、はい……!」
観覧席から飛び降り、そのまま拘束されているキースの元へと歩み寄る。
「何者なんだお前……!」
「別にどうでもいいだろう? 敵なんだからよ」
「そうだ……なっ!!」
一気にキースの拘束されていた腕にエネルギーが収束。その直後、今迄キースを縛っていた鎖が力づくで破壊された。
振り上げられた剣が俺の脳天目掛けて振るわれる。
「不用心にも近づくから――っ!?」
勝ちを確信したような笑みを浮かべたキース。今まで見てきた柔和な笑みとは真逆の、それはもう邪悪な笑み。
だがその方がお前らしいぞ、キース。
ガンッ、と固いもの同士がぶつかった音が体育館に響く。
受け止めたのは強化陣を施した杖。俺自身も強化しているため、素の力では負けていても今の状態であれば問題はない。
力は……ガリアンと同等、といったところか?
「この、下等生物如きに……!」
「おうおう、その下等生物を攻めきれない気分はどうだ? え?」
「っ……舐めるなよ……!!」
バックステップによって一度距離を取ったキースは、再び剣を構えて突っ込んでくる。
左目に魔力を巡らし、未来視を起動。ほんの少しだけ先の未来を見る。
剣筋は……上、右、左、左下、右上、突きの順だな。
押し込まれない程度に力を込め、今見た未来の剣の軌道上に杖を置く。
見た通りの順で振るわれる剣を、その軌道上に杖を構えることで対処する。そして最後の突きに合わせて体を一歩踏み出した。
「なっ……!?」
「隙が多いぞ?」
「グゥッ……!? こ、この感覚は!?」
突きによって伸びきった体。
その体に一瞬だけ触れてやれば、そこに浮かぶのは『弱化陣』
ドラゴンガールに使用したように陣の上に誘い込んで発動させることも可能だが、こうして相手の体に直接展開してやっても効果は同じだ。隙さえあればこっちの方が楽だったりする。
まぁ、近づく必要があるため普通はこんな使い方はしないのだが。
「まさかお前……今日この僕の邪魔をしたのも……!!」
「あん? 何の話をしてるわけ? それにそんなこと考えてる暇なんてない、ぞ!」
弱化陣によって弱体化したキースの腕を杖で跳ね上げ、その胴体に向けて杖の先端を突き刺した。
グェッ!? というえづきはすれども、杖そのものが貫通することはない。やはり、弱体化はしていても体そのものの分厚さは変わらないか。
ほれ追加、と杖の一撃で隙のできたキースの顎を蹴り上げ、更に回し蹴りでぶっ飛ばす。
強化していれば、あれくらいの巨体なら簡単に蹴り飛ばすことは可能だ。ゴーレムの方がまだやりづらい。
「き、貴様……たかだ下等生物の分際で……!!!」
「だから、そのたかが下等生物にやられてる時点で自虐になってるのわかってるか?」
のろのろと立ち上がったキースの言葉に対し、煽るように言ってやる。
するとその言葉に再びお冠になったのか、先ほどよりもさらに濃いエネルギーを全身に巡らせて突貫してきた。
突貫する速度から見て、俺と同じように自身に強化でも施したのだろうか。
となると先ほどのように近接戦でやりあうのは少し不利かもしれないな……
「考えゴとカ!! こノ僕ガ本気ヲ出シていつマデそノ態度でいラレルか見モのだナ!!」
「かませっぽく聞こえるからそういうこと言うのやめておいた方がいいぞ。それにな」
一見無防備にも見える俺目掛けて、先ほどよりも鋭い一閃が振るわれる。
外野で様子を見ていた
ガンッ!! と音が響く。
「実際に余裕があるからこの態度なんだぞ?」
キースから見れば、何が起きたかよくわかっていないのだろう。恐らくだが、奴が理解できたのは自身の剣が何かに阻まれているということだけ。
阻んでいる何かを突破しようと更に力を込めるキースであったが、その程度では俺の『防御結界陣』を突破することはできない。やるなら、魔王かフィンでも連れて来るんだな。
「クッ、まともに戦わない卑怯者め!!」
「お前にだけは言われたくねぇよ!」
キースの足元に瞬時に魔法陣を展開する。
何かを感じ取ったのか、その場所から退こうとするキースであったが一歩遅い。
「『大火柱』」
ボゥッ!! と体育館の床に展開された魔法陣から火柱が噴き上げる。
範囲も高さも、そしてその威力も大規模と言える魔法は、一瞬にしてキースの体を飲み込んでしまった。
やがて内包されていた魔力が消費されるにつれて大火柱がその勢いを弱めていけば、その中から全身を黒く焼かれたキースが姿を現した。
まるで焼死体のようななりであるが、まだ息があるところを見るに流石はドラゴンガールの仲間だと言わざるを得ないだろう。割と本気でやったのだが。
「まさ、ぁ……ぃ、さ゛まがぁンぇの゛……」
「……驚いた。まだ喋れるのか」
防御結界陣から外に出て焼け焦げたキースに近づいてみれば、微かにだが何かを呟いているのが聞こえた。
これには驚いたが、生きているのであればちょうどいい。このまま持ち帰ってエルフ耳と一緒に魔力タンクになってもらおう。
そう思って持ち帰る準備を進めていると、「あの……」と第三者から声を掛けられる。
振り返ってみれば、そこにいたのは赤い
……俺はその正体を知っているからわかるが、何も知らない者が彼女を見ても、その正体には気が付かないだろう。
初めて真正面から見て、そう思った。
「えっと、言葉は通じてますか……?」
「さっき日本語話してたでしょ……」
「……あ、そうだった」
考え事をしていて何も答えなかった俺に少し焦ったのか、青い
「よかった! あの、まずはありがとうございます。ゆう……ホワイトを助けてくれて」
「ああ、気にしないでいい。もともとピンチなら助けるつもりだったからな」
「へぇ? つまり、最初から私たちの戦いを見ていたってことね」
怪しげな目を向ける青旗少女。赤園少女の目線が彼女と俺を行ったり来たりで忙しなくしていたが、青旗少女のいうことはもっともなことだ。別に何もおかしいことはない。
むしろ、フィンや赤園少女のように助けられたからと言ってすぐに信用するのは危険なことなのだ。
だからこそ、赤園少女に青旗少女がついていることは安心できる。
「そうとも言う。まぁ敵ではないんだから、そこは信じてもらえると助かるよ」
「正体もわからない相手を信用するわけないでしょう。助けてもらったとはいえ、顔も見せない相手を信じるほど私はお人好しじゃないわ」
「ブ、ブルー……流石にそれは……」
「ブ、ブルーさん……」
心配そうに青旗少女に目を向ける二人。
だがそんなこと知るかとばかりに、彼女の目はまっすぐに俺を見るのだった。
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