第71話:ついに賢者は表舞台へ
「ねね! 舞! 夕! 大丈夫アル!?」
「あ! アルちゃん! こっちは大丈夫だけど……あれ、何が起きてるの!?」
賢人とキースが会場の真ん中で向かい合い、夕の腕からラプスが逃げだした頃。
キースから漏れ出たその力に気付いたアルトバルトは一緒に集まっていたねね達
一早くアルトバルトに気付いたねねがキースの方を指さして問いただせば、切羽詰まった表情を浮かべたアルトバルトが「邪悪なる陣営アル!」と答えた。
その答えに、誰よりも先に反応したのは夕であった。
「そ、それじゃあ、今の先輩ってピンチじゃないですか!?」
「すぐに結界を張るアル! だから安心するアル!!」
そうは言っても……! と焦りを露にする夕。
そもそも、彼女の先輩である賢人が彼女らの戦いに巻き込まれるのはこれが初めてではない。
「で、でも……! 結局また私のせいで先輩が巻き込まれてるんです……先輩は忘れているかもしれないけど、私が原因で危険な目に合わせてしまっていることには変わりがないんですよ……!?」
もしかしたら、自分は傍にいてはいけないのかもしれないと考え始める夕。一般人である先輩をまた危険な目に合わせてしまった。そんな負い目を感じ始めていた。
「し~っかりしなさ~いっ!」
バシン、と気持ちの良い乾いた音が響く。
それはねねが夕の背中を叩いた音であり、そして彼女の不安をいくらか吹き飛ばすのには十分であった。
「そんなことを考えてるなら、逆に考えればいいんだよ! 『先輩は私が守る!』くらいの気持ちでね! 夕ちゃんみたいにかわいい子がそう言ってくれて嬉しくない男の人なんていないよ!」
「ねね……たぶんそれをいわれた津江野先輩はすっごく複雑だと思うわよ? 年下の女の子から守ってあげますって言われたら」
「なんぼのもんじゃ~い! 先輩なら男らしく喜ぶべきだよ! そ・れ・にぃ~! 津江野先輩も満更じゃないかもよ?」
その言葉に、え? とねねを見上げる夕。
「後輩とは言え、興味が無いならこんな勝負を先輩は受けてないと思うよ? だからきっと、津江野先輩も夕ちゃんを好ましく思っているはずなのです! ……たぶん」
「最後の最後に自信を無くしてどうするのよ……」
「三人とも! 結界起動するアル!」
ねねと舞の見慣れたやり取りを見てくすっと笑って見せる夕。
しかし、そんな三人のやり取りもアルトバルトの合図によって雰囲気が一変する。
「それじゃあ、二人とも! いくよっ!」
「わかったわ」「わかりました!」
「「「世界樹の加護よ! 今ここに力を!」」」
◇
「来たか、ラプス」
「ラプゥ~……危なかったラプが、何とかなったラプ……」
「自業自得だな。勝手につかまっている奴が悪い」
観覧席の最上部。
自らに隠蔽陣を使用し、眼下で戦っている白神達
何やら疲れている様子だったが、そんな姿を見ても心配の言葉など一つも浮かんでこない。むしろ、何勝手につかまってんの? と問いただしたいくらいなのだが……今はその時ではないので割愛する。
「帰ってから言い訳を聞いてやる」
「わ、わかったラプ。……ところで主よ、今回はどうするラプ?」
「ん? そうだな、できるならキースの奴もエルフ耳と同じように捕らえることを念頭に置いておいてくれ。魔力タンクになる贄が増える分には大歓迎だからな」
負のエネルギーを手に収束させ、漆黒とも呼べる色の剣を創造したキース。
以前は使用していなかったが、あれが本来のキースの獲物なのだろう。圧倒的な身体能力から繰り出す剣技。はたして、あの時エルフ耳相手に辛勝した
「とはいえ、優先すべきは
「わかったラプ。……とはいえ、主の万が一が考えられないラプ」
「馬鹿言うな、俺だって完璧じゃないんだよ。……ともかく、頼むぞ」
赤園少女と思われる赤の
そしてその背後にはいつでも赤園少女を援護できるようにと、青と白の
「……なるほど。妙な世界に取り込まれたかと思えば……君たちが
状況が変わったからだろうか。先ほどよりも落ち着いた様子のキースは、武器を構える少女たちを前にしてそう呟いた。
「こうして相対したのならば、改めて名乗ろうじゃないか。僕はキース。イーヴィル・ナイトのキースだ。初対面ではあるが、君たちの持つ世界樹の宝石を渡してもらうよ」
「そんなこと、させないんだから……!」
先に仕掛けたのは赤の
腰だめに構えたままキースに向けて突貫した彼女は、勢いそのままにその一刀を振り上げる。
「単調だね」
「え……キャアッ!?」
「レッド!」
「レッドさん!」
しかしキースはその一刀を片手で容易く掴み取ると、そのまま背後へと放り投げてしまった。
フィンには及ばないながらもかなりの速度で振るわれた剣だったが、事もなげに対応したキースはやはり彼女らにとっては強敵だろう。
一対一の真正面からの近接戦では攻略は不可能。だからこそ彼女らの強みである人数の差を生かし、連携してキースに当たらなければならない。
「このっ!!」
レッドと呼ばれた赤の
だがしかし、その攻撃はキースの手に握られていた剣によって下から切り払われる。
その攻撃によって胴体ががら空きになった。
「まずは一人」
「このっ……!!」
「ブルーさん!」
無防備な体に漆黒の剣による一閃が放たれようとしたその時、突然キースはバックステップによってその場を離れた。
その直後、先ほどまでキースの頭があった場所を
「ホワイト! 助かったわ!」
「はい! それと、ブルーさん。一対一じゃ不利です。レッドさんと一緒に三人で攻めましょう!!」
「わかったわ。レッド! あなたはそっちから攻めて! 前後を挟むわよ!」
「わかった!」
いつの間にか復帰したレッドがブルーと同時に再び仕掛ける。
キースも流石に二人同時は先程のようにはいかないらしく、剣や尾、腕を使って対応して見せていた。
だがそれでも、キースの守りは崩せない。
「ッチ、厄介な……!」
だが彼女らの攻撃はこの二人のみではない。
死角から放たれる第三の攻撃。雷の矢がキースの目に向けて放たれると、顔を庇うように剣で斬り払う。
「せいっ!!」
「グッ……! 下等生物ガ……!!」
その隙をついて、レッドの剣がキースの胴体を一閃する。
流石にキースの体そのものもかなりの強度を誇るため大したダメージではないのだが、それでも積み重なれば消耗するのは確実。
消耗すれば消耗するだけ、俺にとっても後々の捕獲がやりやすくなるためピンチにならない程度に頑張ってほしい。
「……それにしても、うまくなってるな」
最初に見たときは力任せの初心者そのものの動きであったが、眼下での動きを見る限り連携や個人の動きも無駄がないマシものになっていることは素人目からしてもよくわかる。
一年たたずの成長と考えればすさまじいものだろう。これもあの宝石による補正か何かのだろうか。
そして戦いの要となっているのはホワイトこと白神だろう。
死角からの攻撃に対応しなければならないキースはその隙を突かれてダメージを負い、白神を何とかしようにも前衛の二人が邪魔で動きが取れない。
あっちの世界でもかなり活躍できそうな仲間になったものだ。
「ブルー! このまま攻めれば、いけるよ!」
「レッド! 気を抜かな――」
「鬱陶シイゾ下等生物ドモォオッ!!」
ドンッ、と。
キースを中心に膨大なエネルギーが放出される。
キース相手に近接戦闘を行っていたレッドとブルーの二人は、そのエネルギー放出の余波で会場の壁際まで吹き飛ばされてしまう。
「レッドさん! ブルーさん!」
その隙をキースが見逃すはずがない。
「まずハそコノ下等生物カらダッ!!」
その場から一足で白神の目の前に飛び出したキース。
突然のことに、弓を構えたままだった白神は対応できずただただ、振り上げられた剣を見上げるだけ。
「ホワイト!」
「まずい! 避けて!」
レッドとブルーの悲鳴のような声が体育館内に響く。
このままいけば、白神はあの一刀のもとに斬り伏せられてしまうだろう。
「そんなことはさせないがな」
キースの足元に出現した魔法陣。
そこから射出された数多の鎖が、振り上げた剣ごとキースの動きを封じ込めた。
「「「え……?」」」
「ナンダ、コノ鎖ハ……!! グゥッ……頭が、痛い……!」
呆気にとられる
あのドラゴンガール以外に姿を見られていないというアドバンテージはあったが、人を……それも大事な後輩を見殺しにしてまで取ろうと思うものではない。
それにもともと白神達の手助けをするつもりではあったのだ。正体を見せるつもりはないが、俺の存在を知られるのが遅いか早いかの違いである。
「見覚えが、ある気がする‥‥…けど、なんだ……僕は、何を忘れている……!?」
「ほお? 何かきっかけがあると思い出す可能性もあるのか。参考になるな」
「誰だ貴様は……! 僕に何かしたのか!!」
ゆっくりと、観覧席の階段を下りながら隠蔽陣を解く。
ラプスはまだ待機だ。何が起きるかわからない以上、こちらの切り札としてまだ見せないほうがいいと判断した。
「あの、あなたは……」
「なに、簡単に言えば
よろしく、と彼ら彼女らには見えていない笑顔を浮かべて会場を見下ろすのだった。
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