第66話:ついに賢者は体育祭に初参加する

 どこの学校でも同じだとは思うが、孔雀館の学園長による開会のあいさつで体育祭はスタートした。

 俺や白神、キースのような奴がいる学校のトップだから学園長も変わりものなのかと勝手に想像していたが、どこにでもいそうなただ話の長いおじいさんだった。


 そんな学園長のあいさつをボケッと眺める振りをしつつも、俺は会場全体に目をやった。


 孔雀館自体がかなりの生徒がいる学園であるためか、今日の体育祭の観戦に来た保護者はかなりの数が揃っている。

 自身の子供の活躍を期待して今日という日を楽しみにしてきたのだろう。いっぱいいるなぁと思いながら、俺はその観客席のさらに上に設置した魔法陣を魔力視を用いて確認する。


 発動は問題なさそうだ。あれなら、ちゃんと役割を果たしてくれるだろう。


 よしよしと心の中でほくそ笑みながら学園長の話を聞き流す。

 やがてそんな誰もが長いと感じているだろう話が終わり、全校生徒による体操と続けての第一種目が始まった。

 第一種目に参加する生徒以外は中心に設置されたトラックを囲むような形で、クラスごとに待機場所が設けられている。

 

 俺とキースが参加する予定の100m走は午後にプログラムされているため、クラス全員参加の競技以外は結構暇な時間だ。だからそれまではゆっくりさせてもらうことにしよう。


「じゃあ僕は応援団の方に行ってくるね」


「キース君頑張ってね!」

「応援団だけどキース君のことを応援しちゃう!」

「むしろ私のことだけ応援してぇ!」


 女子の様子も相変わらずだなぁ、とその様子を眺めているとふとキースの奴と目が合った。


 ウィンクされた。

 嬉しくねぇ……


 おまけに手まで振ってくる。いいからあっち行けと手で追い払うようにしてやると、案の定女子たちが五月蠅く騒ぎ出した。

 面倒臭ぇ、と聞こえないようにため息を吐く。


 そこからクラスの面々が自身の参加する競技が近づくたびに待機場所から移動したり、競技を終えて帰ってきたりと人の出入りが頻繁になっていく。

 体育館内で一段高く設けられた場所では、各クラスから選ばれた応援団が声を張り上げていた。


 中には当然ながら、うちのクラスで立候補したキースが真っ黒の学ランを身に纏っており、そんな彼の様子を見てうちのクラスだけではなく他クラス他学年の女子までもが黄色い声援を上げている。

 どっちが応援されている側なのかわからんな。


「おい津江野……! 何でもいい、とりあえずあのイケメン糞野郎に絶対に一矢報いろ……!」

「いやむしろ、走っているときに偶然を装って殴り掛かれ……!」

「あの野郎……! キョウコちゃんからもキャーキャー言われてやがる……! ゆ、許せねぇ……!」


 そしてそんな様子を見ていた男子生徒諸君から意味のわからない詰められ方をしているのが現在の俺だ。


「津江野、俺は信じているぞ。彼の暴虐なるイケメン野郎にどぎつい一撃をお見舞いしてくれることを……!」


 田村お前もか。


 血涙でも流すんじゃないかと思えるほどの形相で応援団のキースを見ている田村に呆れながらも、彼らの言葉にわかったわかったと言って何とか落ち着かせる。

 まあこんな彼らも、今日の勝負を見ればいくらかその留飲を下げてくれるだろうさ。


「おいあそこ! めっちゃ可愛い女子がチア姿で踊ってるぞ!!」

『ぬぁ!? ぬぁにぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!?!?』


 一人の言葉に、先ほどまで俺に詰め寄っていた男子達の群れが一瞬で散開ししたかと思えば、キースを見ている女子たち以上に身を乗り出してそのチア女子を探し始めていた。


「……溜飲、下げる必要もなさそうだな」


 元気なようで何よりだけども、と肩を竦めて一度待機場所から外に出る。

 周りに人がいない場所まで移動し、魔力視を通して赤園少女や青旗少女、更にはあのむっつり妖精が近くにいないことも確認する。


「ラプス、いるか」


「ラプ。ここラプよ」


 大丈夫だと判断した俺は早速とラプスの名を呼ぶ。すると、姿が見えないはずのラプスの声が俺の近くで響いた。

 何を隠そう、今のラプスには俺自ら『隠蔽』の魔方陣をかけているのだ。もともと妖精であるラプスは姿を隠そうと思えば一般人には見つかることはない。

 だが、この体育館内においてはキースや宝石の騎士ジュエルナイト達のような一般人には収まらない者もいる。そういった者たちに万が一にでもラプスが見つかれば色々と面倒なことになるのは想像に難くないだろう。


 俺の隠蔽は、以前悪魔のような見た目になって狂暴化したキースや苦戦を強いられたドラゴンガールにも効果を発揮した実績がある。今回はラプスにもある程度動いてもらう必要があったため、こうして隠蔽陣を付与して単独行動をとってもらうことになったのだ。


「魔法陣の方は依然問題はないか?」


「ラプ。さっき設置したやつは一通り見て回ったラプが、合図があれば問題なく発動するようになっているラプ」


「上々。ラプス、必要があればお前も援護しろ。俺への支援ではなく、目標の妨害を最優先だ」


「そこで相手を邪魔することを第一に考えるの、流石主ラプ」


「あまり褒めるな」


「主には誉め言葉ラプか……」


 何故か呆れたようにため息を吐くラプスに、いいから行ってこい、と指示を出す。これが終われば食堂だと言ってやればわかりやすく元気になるので扱いも楽だ。


 ああでも、と飛んでいこうとするラプスの首根っこを掴んで引き留める。


「ラプス、一つだけ注意しておけ。白神……俺の後輩との接触は絶対にやめておけ」


「ラプ? そういえば、魔法が効かないって話だったラプ?」


「ああ。おそらく、自身に直接影響する魔法を受け付けない体質だ。一応姿を隠すのは問題ないことを確認しているが、触れたりした場合はわからんからな。最悪隠蔽が解除される可能性もある。仮定として、もし万が一にでも見つかったら、絶対にお前が妖精だと悟られるないようにしてくれ。無理にでも誤魔化して、そこらへんのネズミでも演じるように。もし妖精だとバレたら……」


「バ、バレたら……」


「一か月、お前の飯はないと思え」


「……ラ、ララ、ラララッラプゥゥウウウウウウウウウウウウ!?!?」


 ムンクの叫びにでもなりそうな顔で叫び声をあげるラプス。

 涙目で嫌だ嫌だと訴えかけてくるラプスには申し訳ないとは思うが、それくらいの覚悟を持って手伝ってもらわなければ困るのだ。

 現状、記憶を消していることで俺の存在はあのドラゴンガールにしか知られていない。


 このアドバンテージをそう易々と手放すのは惜しいのだ。


 幸い、あり得ないくらい太っているとはいえラプスの見た目はネズミに近い。誤魔化せればもしかしたら、という可能性であるが、やらないよりはマシだろう。


 わかったな? と問いかければ、ラプスは凄まじい速度で首を縦に振ってくれた。





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