第55話:賢者は警戒し、邪悪の騎士は笑みを浮かべる
「あの転校生の人って、先輩のクラスの人だったんですね」
「まあな。おかげで朝から教室が騒がしい上に、講堂でも他学年からの視線がうちのクラスに向けられてあんまりいい気分ではなかったが」
「かっこよかったですもんね、あの人。金髪碧眼で、まるで絵本の中の王子様みたいでした」
時は変わって翌日の放課後。
今日から授業が始まり、現在は旧館の同好会へとやってきていた。
相変わらずというか、まだ転校生への熱は冷めていないようで休み時間になるたびに転校生の周りは賑わっていた。主に女子。
全世界(次元的な意味)を支配しようと目論む組織のメンバーのくせして人当たりがいいもんだから、昨日の今日で転校生ことキースは今や学年のアイドル的な存在になっていた。
噂では一日にして密かにファンクラブができたとかなんとか……
まぁ、その辺の事情に興味はないので割愛する。
授業が始まったことで、我ら黒魔法研究同好会の活動もスタートした。
夏休み前と変わらず、俺と白神の二人はひたすら部屋の本棚にある魔法書(夏休み前のものから一部を一新した)を手にして読み進めていたのだが、何かを思い出したかのように、白神が昨日の始業式で転校生のキースが目立っていたことを教えてくれた。
「意外だな。白神もそういうのには憧れるのか」
「そりゃ……私だって女の子、というか立派なレディですし? 興味が無いと言えば嘘になりますよ? まぁでも、個人的にはUMAとかオカルトの方が興味があります」
「レディとしてどうなんだそれは……?」
えへへ……とはにかむ白神。
今学校中で話題のイケメン転校生と未確認生物を同列どころか後者が上だと断じるその姿は流石だといえよう。白神らしいと言えばらしい話である。
「それに、何というか……あの人ちょっと苦手なんですよね……いや、話したこともないんですけど、こう……遠目から見たときの雰囲気が? みたいな」
「……そうか」
その言葉に俺は一言だけ呟いて思考を巡らせる。
考えられるのは、白神が
なんにせよ今のところ危険がないとはいえ、むやみやたらと接触する必要はない。むしろ白神の方から嫌がっているのであれば、それに越したことはないだろう。他の女子たちのように迂闊に近づいてしまうと、何が起きるかわからないからな。
ただ白神がこうなら、赤園少女と青旗少女も似たようなものを感じているのだろうか。確認のしようがないため何とも言えないが、あの二人にも近づかないようにしてもらいたい。変身しているならともかく、普段の状態から不意打ちを喰らえば
「……いや、心配はないか」
「? 先輩、何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
あの二人にはむっつりハムスターがいる。実力についてはまだわからない部分も多いが、仮にもあのむっつりも妖精なんだ。白神達に何かあったら困るのはあのハムスターモドキだし、何者かには気づかずとも警戒くらいはしてくれると信じておこう。
むしろ一般人の女の子達を協力者にしているんだ。それくらいやってもらわねば困るというもの。
「まぁあれだ。白神が苦手だと思うのなら、むやみに関わる必要はないだろ。それに高等部の2年だし、中等部1年とはよほどのことがない限りは会うことがないだろうさ」
「そうですよね! あ、それより先輩、ここの文字何て読むんですか?」
「ああ、それはだな――」
席を寄せて聞いてくる白神に、俺も一つ一つ単語を教えていく。
新学期が始まって早々に面倒くさそうな問題が向こうからやってきてしまったが、向こうが行動を起こさない限りこちらから何かする必要はないだろう。
エルフ耳を探しに来たであろうあのキースという男がいつどのように行動を起こすのかは不明だが、今後の動向には注意して見ておく必要がある。幸い同じ教室で監視はしやすいため、それとなくチェックはしておくべきだろう。
◇
「ほんとぉ、あんたが何考えてるのかわからないわ。あはっ♪ いったい何考えてるのぉ?」
放課後の孔雀館学園屋上。
普段は危険なため閉鎖されているため、生徒が入ることができない場所。
そんな場所に現在、二つの影があった。
一つは孔雀館学園高等部の男子生徒用の制服を身に纏った男。そしてもう一つはその場所には似つかわしくない黒のゴスロリを着た幼い見た目の少女。
「ふふ……別に君が理解する必要はないよ、アンフェ。もともとこの世界には興味があったからね」
「ふぅ~ん、まぁアンフェはどぉ~でもいいんだけどっ♪ わざわざこの世界の人間に紛れ込むくらいならぁ、アンフェはこの場所ごと潰しちゃうのになって♪」
物騒なことを宣う少女アンフェに、男子生徒――キースは相変わらずだねと肩を竦めてみせた。
彼女のこの性格は、同じ陣営に属する仲間としてよく知っているため特に驚くことはない。
「何度も言うけど、いずれは僕らが支配する民だ。むやみに殺して反感を買う必要はないだろう?」
「ふぅ~ん。反抗するならその都度潰しちゃえばいいと思うけどなっ♪」
「君はそうかもしれないけど、僕もそうだとは考えないでほしいな。ある程度恐怖で縛るよりも、自分の意志で尽くしてくれた方がいいこともあるからね」
ああもちろん、君のやり方を否定するつもりはないよ、と続けるキース。そんなキースの言葉に対してアンフェは特に興味を示さず、屋上を取り囲むフェンスに近づいていく。
「そんなことよりぃ、キース。プリッツは見つかったのぉ?」
「……残念ながら。君のおかげでこの付近ということはわかってはいるが、探れど探れど手掛かりは全くなしときた」
「そう……あはっ♪ やっぱりそう簡単にはいかないわねぇ♪」
下校していく生徒たちを見下ろしながら薄く笑って見せるアンフェは、やはりそうかとまるでこの結果がわかっていたような反応を見せる。
そんな彼女の反応に疑問を抱いたキースは、アンフェの隣へと並びたつと自身よりも低いアンフェを見下ろして問いかけた。
「何か知っているのなら、早く教えてほしいんだけどね」
「えぇ~アンフェ、キースが何言ってるのか全然わかんなぁ~い♪」
しかしアンフェはそんなキースに対して取り合おうとせず、からかうように笑って見せた。
賢人というイレギュラーの存在を知っているアンフェだが、彼女はその存在を他の仲間に話すつもりは毛頭ない。
あれはアンフェの獲物♪
あはっ♪ といつも通りの反応を返すアンフェに、キースも目を細めて笑顔を返す。
「なるほど……まあいいさ。そこは自分で調べることにするよ」
「頑張ってね♪ イーヴィルナイトさんっ♬ あ、そ・れ・とぉ~♪ 現をぬかしていると、足元掬われるから気を付けてねっ♬」
バサッ、という音とともに背中の羽を広げて飛び立っていくアンフェ。
そんな彼女の様子を一人屋上で見送ったキースは、誰にも見られないように注意しつつ屋上から立ち去った。
「
それに、とキースは続ける。
「せっかく目的を果たせそうな世界に来たんだ。ふふ……それに伝説の
笑みを浮かべるキース。
しかしその笑みは日中にクラスメイト達に向けているものとは違い、見ればゾッとするような黒いもの。
「ああ、本当に楽しみだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます