異世界賢者と体育祭

第54話:賢者はその意味がわからない

「ねぇねぇ! キース君ってどこの国から来たの?」

「部活とか何に入るか決めてるのか!?」

「そんなことよりぃ~、この後暇ぁ? よかったらあーしらが学校案内してあげるけど?」

「国はイギリス。部活は考えてないかな。そうかい? それは嬉しいな。ぜひ頼むよ」



「何つーか、予想通りとはいえすげぇな」


「そうだな」


 始業式までは自由時間であるため、その間は教室から出ないで大人しくしておくようにと言い残して出て行った担任と、そんな担任教師が出ていくと同時に、わいわいがやがやと転校生の周りへと集まりだしたクラスメイト達。

 席は既に決まっていたらしく、都合よく俺の隣……とかではなく、廊下側で教室の一番後ろの席。俺は窓側なので正反対の位置であるが、その集まり様が異様であることはよくわかる。


 まあ、気持ちはわからなくもない。


「にしても、すっげーイケメンが転校してきたもんだな」


「そう、だな……」


 集団の中心となっている話題の転校生。

 金髪碧眼という日本人離れした容姿に加えて、整った顔立ち。そんじょそこらのアイドルでは敵わないだろうと思えるほど彼の見た目はよかった。フィンには劣るが。


 そんな彼に対して、まああれだけ人が集まるのも当然のなのだろう。特に女子の反応は顕著で、彼の周りで積極的に話す者の他にも、遠巻きに彼を見てはしゃいでいる者もいる。


 男子の中にはその状況をあまり面白そうにみていない者たちも見受けられるが……そこは気にしても仕方のない些事だな。今話しかけている佐藤のような男子もいるので問題はない。


「……これ、始業式終わったら更に人が集まるんじゃねぇか?」


「だろうな。教室から出れなくなる前に、さっさと帰った方がよさそうだ」


 だよなぁーと嘆くように天井を仰ぐ田村を横目に、俺は気取られないように転校生を見る。


 転校してばかりで右も左もわからないまま、あんなふうに周りから詰められれば戸惑ってもおかしくはない。

 だが彼はそんな様子を微塵も見せず、むしろ一人一人の言葉に対して丁寧に返しているのだ。あんなの、人気にならないはずがない。

 明日を待たずとも、この転校生は学年で有名になっていることだろう。


 ……明日以降は、他の学年の人たちも集まりそうだな。


『これより、各学年ごとに行動へ移動を開始します。中等部1年は準備してください』


「お、そろそろか」


「といっても、下の学年からだ。高等部2年俺たちはまだ先だぞ」


「これ、来年は一番最後だもんなぁ。せめて、終わった時の移動は上から順に帰らせてほしいぜ」


 孔雀館のシステムに嘆く田村を見て苦笑する。

 俺は特に不便に感じてはいないが、普通はそうなのだろう。


 そんなことより、だ。


「まあ……調査しに来たってところか」


 一見すれば見た目も性格もよい、まさに人気者と呼べる転校生。だがそんな風に誤魔化したところで、俺の『魔力視』は誤魔化すことはできないぞ?

 この間のこともあると思って警戒してみれば、あの転校生の内から漏れている負のエネルギーは隠しようもないものだった。頭の部分にも負のエネルギーが確認できるため、角か何かを隠しているのだろう。


 あのキースという男が、ドラゴンガールの仲間であることに間違いはない。


 しかし、一つだけ解せないことがある。


「……なんで転校なんてしてきたんだ」


 俺の小さな呟きが教室の喧騒に紛れて消える。

 あのエルフ耳の調査が目的であれば、別に人に紛れて学校に通う必要もなかったはずだ。それこそあいつらの立場であればいきなり襲撃を仕掛けてきてもおかしくはない。だが、あのキースとかいう男はそれをしなかった。


 はっきり言って意味が分からない。わざわざこんな形で乗り込んでくることにどのような意図があるのだろうか。

 何も情報がないが、現状考えられるのはエルフ耳の捜索以外にも目的があるからか、本気でこの方法が効率がいいと思い込んでいる可能性。前者なら考えられるのは白神達宝石の騎士ジュエルナイトとの接触といったところだろう。後者なら、人と接する手間をかけてまで実行する理由がわからないからお手上げだ。


 まあもしかしたら、ただの気まぐれなんて可能性もあるかもしれないので何とも言えないなこりゃ。暫くは一般生徒になりきって様子見に徹することにしよう。


『続いて、高等部2年は移動の準備をお願いします』


「お、そろそろか。津江野、行こうぜ」


「そうだな」


 放送が流れたため、俺と田村は席を立って廊下へと向かう。

 当然俺らだけというわけではなく、他のクラスメイトや話題の転校生も一緒になって教室から出た。どうやら、一部の女子グループが転校生を連れ立っているようだ。


 そして他のクラスの面々も続々と教室から廊下に出て来るわけだが、それはもう目立つこと目立つこと。もともとどのクラスにも転校生がいるってことは噂されていたのだろう。みんなの視線が転校生キースに向けられていた。


 そして件の中心人物たるキースはというと……自身を見つめていた他クラスの女子グループに向けて笑顔で手を振っていた。

 おかげで向こう側がキャーキャーと騒がしくなった。


「津江野……ありゃ、俺たち男の敵だな……」


「そうだな。敵だな」


 何となくでわかるのだが、転校生キースは一部とはいえ他クラスの男子生徒からも反感を買ってしまったようだった。まぁ嫉妬の類だからそこまで気にすることのない反感ではあるが。


 本当に、何が目的で学校に通うことにしたのか。


 俺はただそのことに頭を悩ませるのだった。

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