番外編:賢者と騎士は海へ 3

 無事に日焼け止め問題も解決し、さあこれから遊びましょう! ということで赤園少女は元気よく駆け出して行ってしまった。

 そんな彼女のはしゃぎっぷりを見て、呆れながらも後を追う青旗少女。なんやかんや言いつつも、赤園少女に甘い彼女を見ていると本当に仲がいいんだなと思わされる。


 さて、そんな二人の後を白神も追うと思っていたのだが……なぜか彼女は俺の隣に座ったままで動こうとはしなかった。


「遊んでこないのか?」


「え、ええっと……ちょっとまだいいかなって……あ、でもでも! 体調が悪いとか、そういうのではないので安心してください……!」


「そ、そうか……」


 両の手で握りこぶしを作りながら、そう言って身を乗り出してくる白神の勢いに思わず体を仰け反らせる。

 なんというか、この間のバーベキューもそうだったが白神の様子がおかしいようにも感じるのだ。


 何が原因でもあったのか、と改めて記憶を探っていると「あの……」と控えめな感じで白神が話しかけてきた。


「ん? どうした、白神」


 顔を俯かせている白神。

 何かを口ごもっては言うのをやめるという、聞いてる側からすれば大変もどかしい動作を何度か繰り返した後、彼女は意を決したようにいきなり顔を上げてこちらを向いた。


 話を聞こうと白神の方へ顔を向けていた俺の目前に。


「うぉっ、そんな勢いよく顔を上げられたらびっくりするぞ」


「あぅ……」


 流石にその行為が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めて再び俯く白神。だが、また繰り返されると時間がかかりそうなので、仕方なくこちらから話を振ることにした。


「それで? 何か話したいことでもあったのか?」


「……はい。その、夏休み前のことについて、です。ほら、商店街の……」


「あー……あれか」


 商店街。それで思い出すのは俺が白神を連れてコロッケを奢った空ノ森商店街のことだろう。あの時のことは今でも色濃く覚えている。何せ、あのエルフ耳を確保したことで魔力量問題が一気に解決した記念すべき日だ。


 ……というのは置いておいて、恐らくだが白神が言いたいのはあの日あの暴走したエルフ耳を引き付けると言って白神と別れたことなのだろう。

 だがあれは、ハムスターモドキの結界で俺が引き付けたことはトイレに行っていたことになっている。変に反応してしまうと、何故覚えているのかという話になってしまうのだが……


「変な奴には絡まれたが、あんまりああいうのとつるまないほうがいいぞ。見た目と言動からしてヤバい奴なのがまるわかりだったしな」


 どこまでの記憶改竄を設定すればいいのかわからないが、まぁあのエルフ耳と鉢合わせた辺りまでの記憶がある、と言うことにしておこう。


「でも私……先輩を怖い目に合わせて……」


「あのなぁ……」


 だが白神は、俺が覚えていないはずのことを気に病んでいるらしい。

 俺はだいたいの事情を知っているとはいえ、白神からすれば俺はただの一般男子高校生。自分が力を持っている分、ああいった危険な目に合わせてしまったのは自分のせいだから、などとでも考えているのだろうか。


「何で自分に責任がある、みたいな言い方してるか知らんが、あれ自体白神には何も関係がないだろう? もちろん俺もだ。要は、俺もお前も変な輩に絡まれただけのことだ」


 あの一般人から見れば異常者のあれを変な輩で片付けるのもどうかと思ったが、そこは置いておこう。

 要は、あの日のあれは偶然起きてしまった事故のようなものであって俺自身にも白神自身にも責任なんてものはないということ。そも、あんなのを予想する方が無理だという話だ。


「で、でもあの人は……」


「なんだ、知り合いだったのか?」


「……いえ、ただあまり良好な中とは言えない人で」


「だったらなおさらだぞ。あんな状態で白神一人で相手にさせたら何をされるかわかったもんじゃないからな」


 チラリと横目で白神の様子を見てみると、彼女は気落ちした様子でまた下を向いていた。

 俺のことについて何も言えないとはいえ、そういう風にされると流石に罪悪感が湧いてくる。


 まあ彼女からすれば、自身の力について明かせないが故に、自身を庇って先輩に無理をさせてしまった、みたいなことになっているのだろう。


「ほれ、元気出せ」


「ひゃぁっ!?」


 はぁ、と一つ溜息を吐いた俺は俺よりも低い位置にあるその白い頭を、犬か猫を思い切り撫でるように撫でてやることにした。

 突然のことに驚いたのか、少々甲高い声を上げる白神だったが、やがてその手を離すと恨みがましく俺を見上げてきた。


「な、何するんですかぁ……」


「余計なこと考えて勝手に落ち込んでいるお前が悪い。言ったろ、気にするなって」


「でも……」


「でももだってもないわアホめ。ああいう奴の扱いは、白神よりも俺の方が適任なんだよ」


「うう……」


 本人からすれば、それは違うと言いたいのだろうが、それも言えないため黙るしかないのだろう。


 そのまま黙り込んでしまう白神。このままだと更に気落ちしそうなため、こっそりと取り出した冷たいジュースを後ろから近づけ……


「ひぃあううぅっ!? きゅ、急になにするんですかぁ!?」


「だから変に落ち込むなっての。もう終わったことをいちいちぶり返してたらきりがないぞ?」


 叫んだ勢いでそのまま日陰から出てしまった白神は、それでもまだ「でも……」と何か言いたげな様子だった。


「はぁ……ならこうしよう。白神、もし俺に何かあった時はこの間の変な奴に巻き込まれた件。その借りを返すと思って助けてくれ。それでいいか?」


「借り……ですか?」


「そうそう。残念なことに、俺も完璧超人には程遠いからな。もし困ってたら何か助けてくれるとありがたい」


「……そ、そういうことでしたら、まあ」


 見たところ、責任を感じなくてもいいというのは白神的にもあまり納得のいかなかったのだろう。だからこそ、借りという形にしていつか返してもらうと約束することで無理やり納得させることにした。

 納得してくれるのかはわからなかったが、渋々でも了承してくれたのならそれでいい。


「よし、それじゃあ白神。ちょっとだけ荷物を見ててくれないか?」


「え、それはいいですけど……何かありましたか?」


「いやな、あれ見てみ?」


 俺が指さした先、そこには先ほど海の方へと遊びに行った赤園少女と青旗少女がいるのだが、何人かの男のグループに絡まれているようだった。


「ちょっと行って、助けてこようかと思ってな」


「そ、そうですよね……ねねさんと舞さんとはいえ、少し心配ですし……」


「いや、下手するとあの男どもが青旗の言葉の刃でやられるかもしれないから」


「あー……舞さん、そういうところありますもんね」


 んじゃいくわー、と少し駆け足気味で二人の元まで急いだ俺。

 なお、結果から言えば誰も救えず何の成果も得られませんでした、といったところだろうか。大学生が中学生の女の子に絡んでる時点でどうかと思うので別に気にはしていないが。


 ともあれ、これが夏休みに海へ行った時のお話だ。

 バーベキューとは違い、何も起こらず、当たり前の平和を享受できた一日なのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これにて、こちヒロ第二章は閉幕。

第三章は書き溜めができ次第、近況報告にて開始の報告をさせていただきます。

10月に入ってから、読んでくださる方が一気に増えて翁さん嬉しい限りです。

今後もどうぞよろしくお願いします

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