第53話:バーベキュー後の三人娘

「いったい、何だったんだろうね……」


 夏休み、いつものメンバーに加えて夕ちゃんの同好会の先輩である津江野先輩の四人(正確には、監督役の夕ちゃんのところの運転手さんもいたけど)でバーベキューに行った私たち。

 バーベキューは楽しかったし、夏休みのいい思い出にはなったんだけど、そこで私たちはあのアンフェっていう邪悪なる陣営の少女と出会った。


 また戦闘になるかもって身構えていたんだけど、アンフェは私たちを相手にせず、プリッツも使っていたイーヴィルボールを使って大きな怪物を作り出すと、どこかへと行ってしまった。


 何とかイーヴィルボールの怪物は倒したんだけど、それからアンフェは姿を現さなかったし、何かが起きることもなかった。

 なんなら、キャンプファイヤー用にと枯れ木を集めてきてくれた津江野先輩と合流して楽しんでいたくらいだ。


「さぁね。私にも意味が分からないもの」


「ですねぇ……何が目的だったんでしょうか?」


 そんなバーベキューの数日後に、私の家に集まった舞ちゃんと夕ちゃん。

 三人で中心にいるアルちゃんを囲むようにして座り、アンフェの目的について話していた。


「明らかに私たちと戦おうっていう意思は感じられなかったわ。……もっとも、私たち程度じゃ相手にならないから、何て慢心しているのかもしれないわね」


 今度会ったら絶対にぶっ飛ばしてやるんだから、と隣で物騒なことを言っている舞ちゃんに思わず苦笑いしてしまう。

 舞ちゃんも、前にアンフェにいいようにやられたことを根に持っているようで、何とか一矢報いたいらしい。


「でもでも、私たちちゃんと強くなっていると思いますよ! なんたって、すでに一人撃破していますから!」


 ですよね、ねねさん! と少し興奮気味の夕ちゃん。

 確かに、夕ちゃんの言う通り私たちは強くなっているはず。だからこそ、邪悪なる陣営の一人であるプリッツ……私が最初に出会った敵を撃破するまでに至った。


 そうだね、と私も夕ちゃんの意見に同意しようとする。

 しかし、それよりも先に声を上げたのは今まで中心で考え込んでいたアルちゃんだった。


「いや、わからないアル」


「アルちゃん……?」


「アル、どういうこと?」


「このお菓子おいしいですね……へ?」


 アルちゃんの言葉に、私たちは三人ともそれぞれ違った反応を返した。夕ちゃんは……ちょっとだけマイペースなのかもしれない。


「思い出すアル。あの時、あのアンフェという少女がねね達に聞いたことを」


「聞いたことって……あれ? プリッツはどうしたーってやつ?」


 アンフェがどこかへ行ってしまう際に、私たちに問いかけてきた言葉を思い出す。確か……『答えに期待はしてないけどぉ~、あんたたちプリッツはどうしたのぉ? ほら、あのよわっちぃ耳の長い雑魚』だったかな? 敵だけど、仲間に対しての扱いがひどかったからよく覚えてる。


「そう、それアル」


「でも、それは意味のないことでしょう? 現に、私たちはあのプリッツとかいう男を倒しているわ。あのいけ好かない女にもそう答えてあげたじゃない」


 そう、あの時のアンフェの質問に対して、舞ちゃんはそう答えたんだった。そんな舞ちゃんの返答に、当の本人は『ふぅ~ん、そう』とだけ返して行ってしまった。


 あの質問に意味があったんだろうか?


「確証が持てていなかったから今まで言ってなかったアルが、実のところ、あのプリッツという男がまだ消滅していないかもしれないアル」


「「「……え!?」」」


 アルちゃんの衝撃の一言に、私たちは思わず声を上げてしまう。

 だってそうでしょ? 今まで私たちがやっつけた! って思っていた敵が、もしかしたらまだ倒せていないかもしれないんだから!

 マジックナイトリンでそんなことやったら……物語的には盛り上がるかもしれないけど、当の本人からすればなんで!? ってなるよ!


「アル、どういうこと? それとなんで黙っていたのかしら? 理由の如何によっては、私は心を鬼にして問いただす必要があるわ」


「ま、待つアル……! ま、舞の説教は勘弁してほしいアル!? ちゃ、ちゃんと説明するから、まずは話を聞くアルよ!」


 静かに怒りを含んだ声でアルちゃんを威圧する舞ちゃん。

 そんな舞ちゃんの醸し出す雰囲気に、私と夕ちゃんは思わず身を寄せて抱き合ってしまった。


「実のところ、邪悪なる陣営の者が倒されればその者が身に宿す負のエネルギーがその場で露散するはずなんだアル。けど……」


「それが、感じられなかった……?」


「そうアル。実際僅かに負のエネルギーが残っていたアル。でも、そうするとあの場で邪悪なる陣営が消えたことに説明がつかないアル。だからこそ、僕はそれを勘違いだと思ったんだアル」


 それに不確かな情報でねね達を困惑させたくなかったアル、とアルちゃんは続けた。


「なるほど。事情は分かったわ。けど、もしあの時倒し切れていなかったとしても理解できない点はいくつかあるわ。一つはあの状況からどうやって逃げたのか。確かあの時は相手も満身創痍だったはずよ」


「で……ですです! 舞さんの言う通り、動けなかったはずですよ!」


「そして二つ目。そうであるならあのプリッツとかいう男の性格上、あの戦い以降で姿を見せないことは不可解よ。あの時の傷を治すために療養してるとしても、長すぎるわ」


「あー……確かに、あの人プライド高そうだもんねぇ……」


 最初に出会った時からあんな感じだったんだし、舞ちゃんのいうこともなんとなくわかる。

 あの人がやられっぱなしのまま放置しているのはあまり想像がつかない。


「それは……僕にもわからないアル。もちろん、これは僕の勘違いということも考えられるアル」


「そうね……あのアンフェとかいう女が仲間がやられたことを把握してなかった可能性もあるものね。特にあの女は、興味もなさそうだったし」


 それは確かにそう。


「ただ、ねね達も注意はしておいてほしいアル。もしかしたら、僕の考えている以上に事態は深刻になっているかもアル」


 アルちゃんのその言葉に、私たちは静かに顔を見合わせるのだった。

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