第45話:賢者は待ち合わせに遅れる

「ほら、ラプス。そんなに駄々をこねても仕方ないだろう?」


「ラ、ラプゥ……主よ、どうしてもついていけないラプか? 我、色々と役に立つラプ」


「悪いが、それを差し引いても連れて行くリスクがでかすぎる。それに今日までの間でラプスが好きに飲み食いできるように菓子類にジュースも揃えたんだ。あまり俺を困らせないでくれ」


 ほらこれ、と戸棚を開いて見せてやれば、そこには数多くのスナック菓子。冷蔵庫には数種類のジュースも用意しているため、今日帰るまでの間どころか、数日はラプスの機嫌をとるには困らないはずだ。


「我は、バーベキューというのが食べたかったラプ」


 だが、これだけの菓子類を見てもラプスの機嫌はよくならないようで、眉間の間により一層皺を寄せていた。

 バーベキューを食べ物と勘違いしているようだが、それを指摘したところで意味はないだろう。


「フフフ……ラプスよ。お前がそう言うと思ってこんなものを用意しておいたぞ!」


「……っ! ぬ、主よ……そ、その手にしているお菓子に刻まれている文字は……!!」


「ご明察だラプス……そう! ここに揃えた菓子類は全て! バーベキュー味のものだ!」


「ラ、ラプ!! さ、流石は主ラプ!!」


 だが俺もそんなことは予測済みだ。バーベキューが食べたい? なら食べさしてやろう……フレーバーでな!!

 というわけで、本日そろえた菓子類は基本的にバーベキュー味のものを選んで購入しておいた。一つ二つは飽きたときようにと違うものを買ってはいるが、大袈裟に言っておけばラプスがへそを曲げることもないはずだ。


「む……!! これがバーベキュー……この濃い味は、まさしく王族たる我が食するに相応しい味付けラプ……」


 気づけば勝手に一つ開封していた。

 太いとはいえ妖精であるラプスの体はそれほど大きいわけではない。そのため、菓子類の袋程度ならラプスも入れるくらいの大きさがある。

 頭を突っ込んで何かを呟いているが、まあ本人が満足しているならそれでいいだろう。


「とにかくラプス。俺は夜までは帰ってこれないから、それまで迂闊に外に出ないようにしろよ」


「ラプゥ~。任せるラプ。王族たる我は、そこまで愚かではないラプゥ~」


「ほ、本当に大丈夫なんだろうな……」


 頭を袋に突っ込んだまま返ってきた返事に心配になるが、そろそろ出発しないと待ち合わせに間に合わないため仕方なく家を出る。

 今回の待ち合わせ場所は前回の校門前とは違って近くのソラノモリ公園が指定されている。

 

 俺自身遊びに行ったことはないのだが、結界の設置で訪れたことがあったため場所も覚えている。確か、ここ空ノ森でも有数の大きな公園だったはずだ。


 少し速足で公園へ向かう。

 すると俺が最後だったようで、公園の入り口には少しお高そうな高級車と共にお馴染み三人娘が揃っていた。

 遠目で目が合った運転手のおじさんに会釈だけして三人に合流する。


「よ、白神。それと二人も、今日は誘ってくれてありがとうな」


「あ、先輩! 遅いじゃないですかぁ! 女の子を待たせるなんて、ダメなんですよ?」


「あいあい、わかったわかった。二人も急に俺も行くって聞いて驚いたでしょ? 迷惑じゃなかったかな?」


 白神の文句を軽く流して、一緒にいた二人に聞いてみるるが、どうやらそういう風には思っていなかったらしく「大丈夫ですよ~! もうぜーんぜんっ! なんならもっと夕ちゃんにかまってあげてください!」なんて赤園少女に言われてしまった。

 あ、青旗少女にエルボー喰らってら。どうした急に。


「それより、津江野先輩も揃ったわ。出発しましょうか」


「そうですね! 早速向かいましょう!」


「あ、荷物は俺が積み込もう。なに、遅れた詫びだと思ってくれ」


 白神達が用意したであろうバーベキュー用の食材やその他諸々の道具。それを先ほどあいさつした運転手のおじさんと共に積み込んでいく。


 準備はこちらでやるから、先輩は服装だけ気を付けてきてくださいって言われてたが……確かにこれだけ揃えてるんだったらそうなるわな。


 次々と積み込んで、いよいよ出発。

 俺が助手席へ座ろうとすると、ちょいちょいと赤園少女に肩を突かれた。

 何だと思って振り返ってみると、ニヤニヤした様子の赤園少女が「こちらへどうぞ~」と後部席を指し示した。


 見れば三列目のシートには、妙に縮こまって緊張した面持ちの白神がいた。


「……いや、仲良く三人で座ればいいのでは?」


「も~津江野先輩♪ 女の子を待たせちゃいけないんですよぉ~」


「ちょ、ちょっとねねさん!?」


 慌てた様子の白神に対して、赤園少女は「まあまあ!」と調子よく俺の背後に回って押し込もうとしてくる。

 俺が白神の隣に座る理由はわからないが、まあ逆らったところでどうというわけではない。赤園少女にされるがままに白神の隣に座ることにする。


「は……はわわわわわわわわっ……!?」


「……白神、大丈夫か?」


「ひゃ、ひゃいっ……! だ、大丈夫です!!」


 全然大丈夫そうに見えないんだが。

 何故かガッチガチに固まっている白神。そんな白神の様子に首を傾げるが……まあ本人がそういうなら俺がとやかく言っても仕方ないだろう。


 横目で白神のことを気にしつつも前を向いてみれば、いつからこちらを見ていたのか、前に座る赤園少女がニヤついていた。


「どうした、赤園」


「いやぁ~青春ですなぁ~」


「……?」


 お前のほうが若いだろうに。いったい何を言ってるのだろうか。

 隣の青旗少女に頭をはたかれている赤園少女から視線を離し、窓の外を見やった。


 車は既に空ノ森の街を抜け、山道へと入っている。

 天気は問題ないだろう。あとは何事もなく、この遠出を終えられればいいのだが……





















「ラ、ラプゥ!? か、菓子がもうなくなったラプ!? い、いったい誰が食べたんだラプ!?」

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