第44話:賢者はその誘いに乗る
新たにアインツヴァラプス……ラプスという仲間を得た俺は、そこから精力的に敵となる相手をちぎっては投げちぎっては投げ。
なんてこともなく、部屋にこもったきりで本の虫となっていた。
「ぬ、主よ……どこかへ出かけたりはしないラプか?」
「ん? そうだな、今のところその予定はない」
「ラ、ラプゥ~……」
体中の脂肪をべったりと机にくっつけて寝そべるラプスに言ってやると、更に溶けそうなほど五体投地していた。
「主よ、気分を変えるために外にでるとかはないラプ?」
「ない。そんなことより見てみろラプス。この本、俺が忘却の魔法の参考にした本と同じ作者なんだが、記憶を覗く魔法に使えそうだぞ」
「う、嬉しそうラプ……」
そりゃお前、あのエルフ耳から情報を抜き出せる魔法の開発。その第一歩になりそうなんだぞ? 嬉しくないわけがないだろう。
あれの記憶さえ見られれば、ラプスの知る古い情報とは違った最近の情報に加え、敵の構成や戦力、拠点の位置まで丸裸にできる可能性だってある。
さらに、あのエルフ耳だって自身の拠点へ帰還する方法くらい知っているはずだ。記憶を読んで戦力的に勝てそうであれば単身で乗り込んで妖精郷の問題を解決。その礼として向こうの世界へ渡れるように交渉するのもありだ。
「でも、こうしている間にも
「安心しろ、ラプス。あいつらが戦うときには必ずあのハムスターモドキが結界を張る。昨日も言ったが俺は感知ができるし、街の中なら俺の領分だ。すぐに駆け付けられる」
人に作用するに魔力収集の結界が発動できないとはいえ、異常を感知する程度の簡単な陣は隠蔽も施して町中に仕込んである。何かあればすぐに気づけるはずだ。
ラプス曰く、
一応すぐに駆け付けられるようにはしているのだが、こうも平和だとどこかで気を緩めてしまいそうで少々不安になる。
恐らくだが、俺があのエルフ耳を捕らえたからこそこうなっているのだろう。すぐにでもあのドラゴンガールかその仲間が攻めてくると思っていたのだが、思っていた以上に慎重らしい。
だがその分、白神達も普通の中学生としての夏休みを謳歌しているようで、時折メッセージにて『○○へ行ってきたんですよ!』という報告が入っていた。
「そんなに暇なら、ラプスも魔法書読むか?」
「呪いの本も混ざっている主のコレクションを、そう軽々しく薦めてこないでほしいラプ!」
「入門書だからそんなに危険はないんだがな……」
魔法への耐性がなければちょっとビリビリする程度だし、ラプスなら大丈夫だと思うが、拒否されたのなら仕方ない。
退屈そうに寝転がるラプスの脂肪で広がった腹を突いていると、突如prrrと俺のスマホが鳴り始めた。
どうやら電話らしい。
「どうした、白神」
『あ、先輩。今大丈夫でしたか?』
「ん? ああ、特には問題ない。それよりどうした? 急に電話してくるなんて」
白神とは家に行った日以来メッセージくらいでしかやり取りがなかったのだが、こうして電話してくるのは今回が初めてだ。
どうしたのかを聞いてみると、何かゴソゴソと向こうから聞こえた後「実は……」と白神が事情を話し始めた。
「山でバーベキュー?」
『は、はい……! 実はパ……父が山にコテージを持っていまして、そこで先輩も一緒にどうかな、と』
内容としては、夏の思い出作りに遠出するため赤園や青旗とバーベキューに行くため俺も一緒にどうか、という話らしい。
場所を聞いてみれば、空ノ森からほど近い場所らしく日帰りで行くことも可能とのこと。それに送迎も白神の家の者がやってくれるんだそうだ。
電話しながら場所を検索してみたが、なかなか雰囲気もよくゆっくりするにも向いていそうだ。
ただなぁ……
「お誘いはありがたいが……せっかく女の子三人で行くんだし、男の俺がいたら楽しみづらいだろ?」
『え、あ、いや! そんなことないですよ!?』
気を遣ってもらえることはありがたいが、それでせっかくのバーベキューを楽しめない、なんてことになったら本末転倒だろう。それに、俺も男一人というのは少し気まずい。第一、中学生の女の子相手に会話が続くとは思えないぞ。
「まあそういうことだから、白神は白神達で楽しんできてくれれば――」
『何を言ってるラプか主は!!』
「ぬぉっ!?」
『せ、先輩!? どうかしましたか!?』
急に頭に響いたラプスの声に思わず声を上げてしまった。
咄嗟にスマホを手で押さえてラプスを見やると、いつの間に移動していたのか俺の頭のすぐ上で浮いていた。
『我と主は契約で繋がっているラプ。だからこうして念じるだけでの会話が可能ラプ』
『おお、こういうことか。なるほど……、じゃなくて、急にやられたらびっくりするだろうが。白神にも驚かれたぞ』
電話の向こうの白神には、足元に虫が出たという言い訳をして何とか誤魔化しておく。
『そんなことはどうでもいいラプ。主よ、その誘い我は乗った方がいいと思うラプ』
『時間がない。簡潔に理由を言え』
『聞いたところ、その遠出に行くのは
確かにラプスのいうことにも一理ある。
場所もこの空ノ森から近いとはいえ街の外。万が一ハムスターモドキが結界の展開に失敗した何て事態が起こればその時点で俺は感知できなくなる。
『確かに、不測の事態に備えるなら着いていった方がいいか』
『ラプラプ! だから主よ、ここは素直にOKしておくラプ!』
「……気が変わった。白神、そのバーベキューには俺も同伴にあずかってもいいか?」
『っ! は、はい! もちろんです!』
先ほどと違ってどこか嬉しそうな声色で言う白神。
また後で予定の連絡をするとのことで、一度電話を切る。
「ラプ……ラプ……! これでバーベキューというおいしそうなものを食べられるうえに、窮屈な部屋から外に出られるラプ……!」
「窮屈で悪かったな。あと、ラプスは留守番だぞ。お前の姿を連中に見られるわけにはいかないからな」
「……ラプゥッ!? そ、そんな!? ひ、ひどいラプ!? 主はこんなかわいい使い魔に死刑を言い渡すラプゥ!?」
「そういうならもうちょい痩せてから言えよ……」
そのあと、行きたい行きたいと駄々をこねるラプスの駄々っ子は、三日後の白神達とのバーベキュー出発直前まで続くのだった。
◇
「どうだった!」
「ねねさん!! 私、やりました! 誘えましたよ!」
電話を切ってホッと息を吐く
よかったねぇー! と夕ちゃんに飛びつくと、流石に急なことで支えきれなかったのか一緒にゴロンと倒れこんでしまう。
「こらねね。あんまり騒がないの」
「でも舞ちゃん! これが騒がずにいられまへんで!」
「どこの方言よそれ……」
そういわれても私にもよくわからないため、「さあ?」といえば舞ちゃんは更に深いため息を吐いていた。
幸せが逃げるよ?
「あなたのせいだけどね……まあいいわ。それにしても夕。急に津江野先輩も誘いたいだなんてどうしたの?」
事の始まりは今日。
そこで案を出してくれたのが夕ちゃん! なんでも、夕ちゃんのお父さんが空ノ森の近くの山にコテージを持っているらしくて、今度そこでバーベキューをしよう! ってことになったの。
送迎は夕ちゃんの家の人がしてくれることになった。流石に火を扱うから夕ちゃんの家の人が責任者としてつくことになるけど、それでも基本は私たちでバーベキューをすることになっている。
……んだけど、そこで夕ちゃんが同好会の先輩の津江野先輩も一緒に誘いたいってお願いが出た。急にどうしたのかを聞いてみたら、何でも津江野先輩が来たらもっと楽しい気持ちになれるような気がするから、だって!
もちろん私も舞ちゃんも夕ちゃんのところにお邪魔するわけだから、夕ちゃんが良ければそれでいいってなって津江野先輩を誘う電話をしたんだけど……
「ねえ舞ちゃん。これ、夕ちゃん自覚なし?」
「……そうね。あまりこういう話には詳しくないけど、そういうことじゃないかしら?」
夕ちゃんに聞こえないよう舞ちゃんの傍まで寄って聞いてみれば、舞ちゃんもそんな気がしているらしい。
ほぉほぉ……これは、乙女としての勘にビリビリ来ているわ!!
「夕ちゃん! そのコテージって近くに川とかある?」
「え、はい。確かあったと思いますけど……」
「ならよし! じゃあさっそく、一緒に水着を買いに行こう! 可愛いの買って先輩に褒めてもらおう!」
「え、ええぇぇぇぇぇ!?!? そ、そんなこと急に言われても……!?」
「はぁ……ねね、あまり過激なのはやめておきなさい」
「舞さん!?」
ふふふ……! 任せて夕ちゃん! この赤園ねねが、夕ちゃんにばっちり似合う水着を選んで差し上げよう!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます