第43話:賢者とラプス

 その後、アインツヴァラプス……長いからラプスと呼ぶが、ラプスの知っていることと俺の事情を話すことにした。


 というのも、ラプスと俺の間にはすでに契約が成り立ってしまっている。ここで情報をもらうだけもらって、さよならは流石に外道が過ぎるだろう。

 それに放り出して万が一にも白神達に見つかってみろ。考えただけでもリスクしかないことは明白だ。

 ならばラプスをこちらの味方として引き入れ、諸々の事情を話しておいた方が都合がいいだろう。


「ふんむ……異世界、ラプ? 世界樹を通る以外にも、世界の移動ができるとは驚きラプ」


「とはいえ、やってることは相当ヤバいことだ。魔法の難易度も、使用する魔力も、そのすべてが桁違いになる」


「それを単身でやろうとするぬしがおかしいラプ」


 呆れた様子で肩をすくめるラプスに向けて、周囲に魔方陣を展開して見せると「じょ、冗談ラプ……」とすぐ近くにあったペン立ての後ろへと隠れてしまった。

 なお、あまりある脂肪は隠しきれない模様。


 痩せれば? と言ってみたのだが本人曰く、この体は王族の誇りラプゥ! とのことでそのつもりは一切ないらしい。もっとあのハムスターモドキを見習え。お前よりスマートだったぞ。


「け、けどそれくらい異常なことをやろうとしていることは理解した方がいいと思うラプ」


「わかってるよ、そんなことは。だが、その異常を為さないと、俺の仲間たちは救えねぇんだ」


 新しい魔法書を手に取り、中に書かれている魔法、および魔法陣の効果を訳しながら読む。

 フヨフヨと浮いて俺の頭の上に着地したラプスはそれを覗き込んでくるのだが、すぐに「ウェッ」という言葉と共に転げ落ちた。


「よ、妖精の、それも王族たる我でも魔力に酔いそうな本とは……やはり主、ちょっと人間の範疇を超えているラプ……」


「まぁ、呪われてる本だからな、これ。その分書かれてる内容は優秀だぞ? ほれ、ここ。魂の転生についての魔法だ」


「何で呪われてるのをそんな普通に読んでいるラプ!? そして内容も明らかにヤバそうラプ!!」


 でかい体を無理やり隙間にねじ込むように隠れるラプス。

 心配しなくても、処理自体はちゃんとしているし周りへの影響もほとんどないと言っていいだろう。


「完全ではないラプ?」


「まあそこは仕方ない。とはいっても、漏れ出る呪いの影響何てたかが知れてるぞ? せいぜいがラスト一個の好物をトンビか何かに搔っ攫われる程度のもんだ。お、肉体の再構築と魂の保存についてか……」


「……地味にウザい呪いラプ。あと、出て来る言葉がいちいち不穏ラプゥ」


「そりゃ元は呪い付きだしな」


 なるほど、一度こちらで肉体を捨ててから魂のみを異世界へ送って向こうで肉体を再構成って方法もある……いや、流石に無茶が過ぎるか?

 できるかできないかは置いておいて、とりあえず案としては覚えておくかと一度本を閉じる。


「ラプス、チョコレートがあるがお前も食うか?」


「!! 食べるラプ!」


 戸棚から板チョコを取り出してやると、ラプスは今か今かとばかりに俺の周り……ではなくチョコレートの周りをぐるぐると浮かんで回っている。


「食べたことがあるのか?」


「ないラプ! でも、もうこの香りだけで我はおいしいものであると見破っているラプ! 王族であるが故に! ラプ!」


 さあ! はやく! プリーズ! とでも言いだしそうなラプスの様子を見てつい苦笑を浮かべる。なんというか、えらく現金な奴だ。


 板チョコのピースを数個程手にした俺は、残りをすべてラプスに渡してやる。

 いいの!? みたいな顔で見られたが、そんなに食べるつもりもなかったため頷いておいた。


「主は良い奴ラプ! 一生ついていくラプゥー!」


「そんなこと板チョコで言われてもな……」


 だがしかし、こいつからもたらされた情報は値千金、それどころかとんでもなく価値があるものであったことも事実。

 おまけに俺が知っている情報も併せて考えれば、ある程度の推測も立てられるというもの。


 まずはラプスやあのハムスターモドキの故郷である妖精郷フェアリーガーデンについて。ラプスの言っていた妖精郷で何かがあった、というのは十中八九あのドラゴンガールやエルフ耳たちが関わっているはずだ。

 だからこそ、白神達……ラプス曰く宝石の騎士ジュエルナイトという世界樹の守り手だそうだが、彼女らが戦っているのだろう。


「……まあ、そんなのでよければいくらでもやるよ」


「本当ラプか!? なら、我はプリンというものを所望するラプ!!」


 口いっぱいにチョコを頬張りながら部屋の片隅のチラシに書かれていたプリンを指さすラプス。

 食い意地がすごいなぁと思いながらも、わかったと伝えれば頬も腹もプルプル揺らして喜んでいた。


 ラプスも王族とはいえ、正統な後継者ではなかった上に今迄眠って過ごしていたため詳しい話はよく覚えていないそうだ。だがそれでも十分すぎるほどの情報をもらっているため、それくらいの礼はしておいてもいいだろう。


 そして今後の動きについてであるが……できるだけ白神達宝石の騎士ジュエルナイトの戦いを裏からサポートして手助けすることにした。


 今までは傍観に徹してきたわけだが、手助けすることで妖精郷の問題解決に繋がるはず。そうなれば、あの大樹の洞も使えるようになるだろう。

 あとは、その洞から妖精郷を経由して目的であるフィンの世界へと向かうのだ。


 妖精との交渉役にも、ラプスという元王族の得難い見方がついている。


「改めて、ラプス。今後とも俺の目的のためによろしく頼む」


「ん……? ンクッ、こちらこそよろしく頼むラプ。我、アインツヴァラプスはこれより主津江野賢人の剣であり盾となるラプ。で、できればおいしいものを一杯食べてだらッとしたいラプ」


「最後に本音が漏れてるぞー」

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