第40話:賢者とネズミモドキ
手の上でラプラプ言ってるよくわからん小動物。
何に近いかと言われれば……ネズミ? をデフォルメしたような何か。
しかしそれがネズミかと言われれば、如何せん首を傾げざるを得ないだろう。何せ俺の知ってるネズミはもっとスマートだ。デフォルメだとしても限度というものがある。
「……む? なんだ主。黙ったままではわからんラプ」
でっぷりとした腹とぶくぶくとした頬をプルプルと揺らして威張っているそれを注視していると、流石に痺れを切らしたのか、開いているのかもわからない目で睨まれる。
……睨んでる、んだよな?
「とはいってもな、急に出てこられて俺も状況がよくわかってないんだが?」
「むむ? 主、我が何者なのかわからずに目覚めさせたラプ?」
その言葉に頷いて肯定してみせれば、顎に小さな手を当てて首を傾げるネズミモドキ。
何か考え事でもしているのか、ブツブツと何かを呟いている様子。
「一つ主に聞きたいことがあるラプ」
「何だ?」
「昔我が治めた厄災。その話は知っているラプか?」
「厄災を治めた?」
確か白神の家で見つけた本に書いてあったやつ、だよな? 詳しい内容とかは知らないが、厄災を妖精たちが退けたというのは聞いている。
そのことを手に乗ったネズミモドキに伝えてやると、何やら納得していない顔で「むむむ……」と唸り始めた。
「どうやら、色々と間違った話が伝わっているラプ」
「間違ってる?」
「そうラプ! 正確には妖精『達』ではないラプ! この我、偉大なる王族アインツヴァラプス3世の功績ラプ!」
デプン、と波打つ腹を突き出して威張るアイン……なんて?
ともかく、長ったらしい名前と王族であることを告げるネズミモドキが言うには、あの本に書いてあった内容は間違っており、自身一人による成果であるとのこと。
「で? 色々と聞きたいことはあるが、そのアイン……ネズミモドキのお前は、何で出てきたんだ?」
「アインツヴァラプス3世ラプ!! 主、この我の偉大さをよくわかってないラプ!? 不敬ラプ!!」
そりゃ今初めて顔合わせた奴のことを知っているわけないだろう。
自分のことは知られていて当然みたいな、おめでたい思考回路でもしているのだろうか。
「不敬って言ってもな……俺からすれば、よくわからないしゃべる太った自称王族のデフォルメネズミモドキがお前なんだが?」
「に、二度も我を愚弄したラプ! いくら加護すべき人間であれども、わ、我にも我慢の限度というものがあるラプよ!?」
手のひらでぷんすかしているネズミモドキ。どうでもいいが、地団駄を踏んでるそこは俺の手なんだが……
見た目以上の重さで踏まれているからか衝撃が意外に重いのだ。もう四股だぞそれ。
「っ!! ぬ、主……! また我を侮辱したラプ……!」
「……あれ、口に出てたか?」
「言わずとも!! 主と我の間には既に契約が結ばれているラプ!! 契約者の考えていることくらい我には手に取るようにわかるラプよ!!」
その体型からは考えられないような軽い足取りで手のひらから飛び上がったネズミモドキ。着地するのかと思ったが、意外ことにその体は落ちることなくふわりと空へと浮かび上がった。
「もう一ついえば、この体は豊かである王族の象徴ラプ!! 決して、決して!! 太っているわけではないラプゥ!!」
バッ、と手を振り上げたネズミモドキ。すると奴の周りに次々と風が集い始める。魔力視で確認してみれば、それが魔力によって起こされた現象であることが確認できた。
「おいおい、やけに攻撃的じゃないか」
「うるさいラプ! 主は契約者なれども、一度妖精の王族たる我の力を理解させる必要があるラプ! なに、心配はいらないラプ。ただの人間が抗える限度を我は弁えているラプ。死なない程度に痛めつけ、我の下僕として仕えさせてやるラプ!」
「……ほぉ?」
「ふふふ……恐ろしいラプか? 当然ラプ。人が妖精たる我に敵うわけがないラプ。おまけに! 我は妖精の中でも更に力を持つ王族ラプ! 何人犠牲にして我を目覚めさせたかは知らないラプが、今の我の力はフルパワーマックスラプ! せいぜい余興くらいにはしてほしいラプよ!」
ペラペラと上機嫌に話し続けるネズミモドキ。
別にネズミモドキのいうことに対して特に思うことはない。というかどうでもいい。要は上下関係を叩き込んでやる! とそういうことなのだろう。王族としてのプライドか何かだろう。
まあ王族ってのは見栄張ってなんぼみたいな存在だしなぁ……姫様みたいな民草にまで優しい王族というのはいなかったし。
いや、だからこそフィンがあの姫様と相思相愛になれたわけだが。
「考え事とは余裕ラプ!」
「うるさいぞ、やるなら早くしろネズミモドキ。あと語尾で媚び売ってんじゃねぇ。『ラプ』じゃなかくて『デブ』にでも変えたらどうだ?」
「……どうやら、我を本気で怒らせたいらしいラプ。我ら妖精に貢いで
振り下ろされた小さな手に反して、俺の身丈ほどの大きさになったいくつもの風の刃が襲い掛かる。
広範囲に対しての魔法なのか、狙いは甘いが何せ数が多い。三割ほどは直撃するコースだろう。それでも、先ほどの殺すつもりはないという言葉に嘘はないようで威力そのものは大したことがない。
……もっとも、それは俺が相手であるからの話であって一般人であれば怪我は免れないだろう。
「『防御結界陣』」
つま先で地面に軽く触れ、自身の体の周囲に防御結界を展開。
俺を中心にドーム状になって展開された結界は、襲い来る風の刃の悉くを弾いていく。
やがて、結界からそれた刃が巻き上げた土埃が辺りを覆いつくし、俺からもネズミモドキの姿は視認できなくなってしまった。
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