第39話:賢者と謎の石像
「久しぶりに来たわけだが……やっぱり調べても反応は同じなんだよなぁ」
翌日朝から大樹の元に来て調査を開始し、現在すでに正午を超えた。
途中で購入したおにぎりを大樹の上で食しながら独り言ちるのだが、それでどうにかなるのならこんなに苦労はしないだろう。
とはいえ、何かがあるとわかっているだけでも進歩だ。以前なら、この時点で諦めて引きあげていたはずである。
「あむ……うーん、調査の仕方が悪いのか? 龍脈そのものは俺の知るそれと変わりがないし、魔法的要素も今のところは感じられない。何か条件でもあるのか……?」
考えたところで仕方ない問題であるとはいえ、流石に数時間本気で調べて成果なしは賢者として少々情けない結果であろう。できれば、今日中に何かの手掛かりは掴みたいところだ。
「……いっそのこと、龍脈に直接干渉して暴走を引き起こす……いや、何が起こるかわからない以上、下手に手は出さないほうがいいな。街の人たちに害があればたまったもんじゃない」
おにぎりの最後の一口を放り込み、大樹から飛び降りる。
かなりの高さがあるが、身体強化さえしておけば問題のない高さだ。周りに人がいないことも確認しているため、姿を見られる心配もないだろう。
「さて、続きをやるか」
大樹の幹に触れ、魔力を集中させる。
調べたところでわかるのはこれが木であること、そしてその下に大量の龍脈が繋がっていることの二点のみ。それは以前と変わらない。
感知の範囲を大樹全体に広げてみてもその結果は同じ事。
あの本曰く、大樹の周りで妖精が多く見かけられていたらしい。だからこそ、この大樹から妖精が出てきたと考えているのだが……
「……まさか、大樹はブラフか? いや、さすがにそんなことはないと思うんだが……」
そんな引っかけみたいなことをしてくるとはあまり考えたくないのだが、しかし可能性が浮かんだ以上その検討までした方がいいだろう。
一度大樹から手を放し、代わりに周囲の環境を探ってみる。
だがしかし、探れど探れど周りは俺の良く知る普通の山なのだ。
「やっぱり、俺の考えすぎか……んん??」
そんな中で、一つ何となく違和感を覚える場所があった。
大樹からはほんの少し離れた、木々の陰になって見えづらい場所。気を使って探らなければわからないほどの小さな違和感だ。
距離と方向はわかったためとりあえずそこに赴いてみれば、草木に覆われてみすぼらしくなった小さな
扉がついているのだが、その扉も蔦やら何やらに覆われて固く閉じているらしい。仕方ないため、魔力の刃で社に傷をつけないよう慎重に切り落としていく。
しかしどういうことなのだろうか。切り落としたはずの植物が、切った端から再生してまた社の扉に絡みついていくではないか。
「おいおい……こりゃ当たりか?」
その普通では考えられない現象に思わず笑みを浮かべた俺は、一気に片付けるため少しばかり本気で魔法を使用する。
使用するのは以前白神を救うのに使った『斬』の魔法。それを何十何百の単位で同時に発動させ、再生できないほど細かく、そして一気に蔦を切り落とす。
「『斬』」
あっけなく切り落とされた蔦をしり目に、社の扉に手を伸ばす。
その際にバチリと手に痺れがあったことを確認。どうやら蔦と結界の二重構えだったらしい。一般人なら気絶するのだろうが、俺相手にはあまり意味がない。せいぜい少し驚くくらいだ。
「さて、何が入ってるのか……いざ御開帳と行きますか」
小学校にもある百葉箱くらいのサイズのそれを開けて中を見る。この世界において、こんな特異な隠し方をしているのだ。きっと何かとんでもない手掛かりか物が納められているはず、とここまで成果がなかったこともあって、そんな期待を抱いてしまう。
そんな俺の期待を他所に、社の中にあったもの。それは……
「石像?」
何か鏡餅のような形をした、手のひらサイズの石像。
他に何かないかと調べてみるものの、中に入っているのはそれだけだった。
「ただの石像ってことはないんだろうが……」
こんな守られ方をしているものがただの石像であるわけがない。てかそうであってほしい。そう思ってその石像を手に取ってよく観察してみる。
罰当たりな行動なのかもしれないが、仏像とかならともかく、こんなずんぐりむっくりとした大福か餅のような何かを相手にはそう思えない。むしろ、調査のために手に取るのは当然のことだった。
だからこそだろう
そういった、普通でないはずのものを軽々しく手にするのは迂闊だった。
「っ……!? 何っ……!?!?」
手にしたとたん、その石像が光だす。
その光は、昼間だというのにこの山の一帯を更に明るく照らすほどの強烈な光だった。
咄嗟のことで簡易結界を起動させることには成功したのだが、俺はそれ以上の行動を起こすことができなかった。
「こ、こいつ……! 俺の魔力を吸っている……!?」
俺の保有する体内魔力が、手に持った石像に向けて強制的に流し込まれている。
やばいと思って手放そうとするが、呪いか何かなのか石像は俺の手の吸い付いたように離れてくれない。
空いていた手で引きはがそうとすれば、その手も同じように外せなくなってしまった。
「こ、この野郎……! だったらこれで!!」
拘束陣を展開して石像を拘束。そのまま引っ張ろうと画策するも、その拘束陣の魔力ごと吸われてしまい、結果陣が消滅。
な、なんてやつだ……!?
「どれだけ吸う気だこいつ……!? い、一般人ならとっくに死んでいる量だぞ……!?」
未だ光は収まらずに俺の魔力を吸い続けている石像。
破壊しようと魔法を使えどもその魔法も吸収され、物理的に破壊しようとそこらの石か何かにぶつけてみても逆に石が壊れる始末。
結果的に何もできずに魔力を吸われ続けるしかなかった。
「くっそ……はぁ……魔力不足による疲労とか、いつ以来だよ……」
賢者としてかなりの魔力量を誇る俺だが、そんな俺でさえも疲労を感じるほどに魔力を吸いつくされている。
一般人だったら数百数千単位で死者が出る量だ。むしろ、俺でよかったと言えるくらいだろう。
そしてぶっ倒れそうになるくらいにまで魔力が減ったところで、ようやく石像の光が収まり始めた。
「はぁ……はぁ……や、やっと終わった、のか……?」
息も絶え絶えになりながら、光の収まった石像に視線を戻す。
いったい、何故、何のために俺の魔力を吸収し始めたのかはわからないが、これだけの出来事がすべて無意味に終わるとは考えにくい。
そして、そんな俺の考えをくみ取るように石像に変化が訪れる。
ピシッピシッ、と手に収まった石像に小さな罅が入ると、そこを中心に一気に罅が広がった。
そして――
「プハァァァァー!! よく寝たラプゥ~!!」
石片をまき散らし、中から現れた存在の呑気な一言。
そしてその存在はこちらに向き直ると声に似合わない尊大な態度で続けるのだった。
「ふむ、
「……は?」
その時の俺は、きっと今までにないくらいのアホ面を晒していたことだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます