第33話:賢者はついに
「お、もう合流したのか……案外早かったな」
「て、てめぇ……! いったい何者だ……!」
白神を置いていった場所あたりから、巨大なエネルギーが発生。並びに、商店街を覆うようにしてハムスターモドキの結界も展開される。
どうやらここらへんが今のタイムリミットだろう。
「それに答える意味は今はないが……安心しろ。すぐにそれもわかる」
目の前で
「さて、鬼ごっこも終わったし早いとことんずらしてつじつま合わせもせにゃならんのだが……ちょーっとやりすぎたかねぇ?」
最近色々あったからか、ストレスでも溜まっていたのかもしれない。
この間のアンフェというドラゴンガールと比べてそれほど強いわけではなかったため、ちょうどいいサンドバックになってもらった。おかげですっきりしたが、この状態のままあの三人娘の前に放り出してしまえば、誰がやったのかという話になってくる。
となると、もっとも怪しいのは俺という結論にたどり着くのは容易だろう。
「そんなわけで、ちょっとだけ細工させてもらうぞ?」
「てめぇ……いったい俺に何をする気だ……!!」
できるだけ視線を近づけるためしゃがみ込むと、満足に動けない体でそう宣うエルフ耳。
「安心しろ、俺にそっちの趣味はない。その怪我を治してやるんだよ。……もっとも、俺にやられたという記憶も消させてもらうがな」
「記憶……だと……!?」
エルフ耳の頭を掴み、目を合わせる。
「そう、記憶だ。じゃあな、エルフ耳。またあとで会おう」
◇
「ふぅー……何とかうまくいってよかったな」
エルフ耳の怪我を治して記憶の処理まで施した後、俺は簡易結界を解いて近くにエルフ耳を放置しておいた。
あとはその場所に三人娘が駆けつけて戦闘がスタート。途中白いやつこと白神が俺の安否について問うていたが、あいにく記憶を消しているためエルフ耳は首を傾げるばかりだった。
まぁその辺については言い訳も考えているため問題はないだろう。
そして肝心の三人娘とエルフ耳の戦闘であるが、今回は普段とは様子が違っている。
というのも、いつも通りに邪悪な巨大マスコットを繰り出していることに変わりはないのだが、今回に限ってエルフ耳自らも前に出て戦っていた。なお、今回のマスコットは何の因果かコロッケである。
数の差があるとは言えども、現状の彼女たち相手であればほぼ互角の戦いには持ち込めるはずだ。今までそうしてこなかったのが不思議なくらいである。
「強い……! でも! みんなの力を合わせれば……!」
今のところ赤いのがエルフ耳を、青いのがコロッケのマスコットを、そして白いのこと白神は状況を見て矢による援護を両者へと行っている。
赤いのは防戦一方といった様子ではあるが、マスコット戦では青いのが有利。あちらさえ済んでしまえば、三人がかりでエルフ耳に対処できるようになる。そうなればエルフ耳は詰みだろう。
「ランスセット! 静謐なる槍よ、今ここに水の照明を! ハイドロキャノン!!」
「っ!? チィッ!! ジャアックも使い物になんねぇ……!!」
そうこうしているうちにどうやら青いのがマスコットを撃破。
そして同時に白神の矢がエルフ耳に撃ち込まれたのだが、エルフ耳は悪態を吐きながらもこれをバックステップでいなして見せた。
だが、エルフ耳が抵抗できるのもここまでだろう。
徐々に徐々に押し込まれていくエルフ耳は、自身が追い込まれているという状況が信じられないのか常に焦りを見せている。
ふざけんな、とか、俺はこの程度じゃ、とか。あるいは俺の野望が、など。
まあ全部あの三人娘に否定されていたがな。
何だったか? 「独りよがりな願望のために、他人を不幸に巻き込まないで!」だったか?
実にフィンが喜びそうな啖呵だった。きっとあの赤いの……赤園少女はいい勇者になれるだろう。
「さて、そろそろ動かないとまずいな」
既に満身創痍でボロボロのエルフ耳。
三人娘たちはここぞとばかりにあの一撃必殺じみた技を繰り出そうとしている。
「ブレイドセット!」
「ランスセット!」
「ボウセット!」
「『空間置換陣』設置完了」
目視でエルフ耳の足元にばれないように陣を展開する。
そして先ほど設置した陣と繋がるもう一つの陣を、目視できる限りで一番遠いビルの中に設置。
「灼熱の剣よ、今ここに炎の証明を! バーンインパクト!!」
「静謐なる槍よ、今ここに水の証明を! ハイドロキャノン!!」
「迅雷の弓よ、今ここに雷の証明を! サンダーアロー!!」
そして放たれる必殺技。
あの状態のエルフ耳が喰らえば、ひとたまりもないだろう。なんなら死ぬか消滅するかのどっちかということも考えられる。
冗談ではない。あれは、俺の
「『起動』」
三色の奔流がエルフ耳に直撃する寸前で、展開した陣を起動させる。
空間置換の陣。その名の通り、指定した空間と空間を入れ替える俺オリジナルの新魔方陣。俺の目指す異世界転移への初期の初期ともいえる魔方陣だ。
現状では二つ陣を用意してその空間を入れ替える程度ではあるが、今回の陣の開発により、空間転移というものの原理はだいたいつかめた。あとはこれを発展させれば、いずれ陣一つでもあの世界へ転移することが叶うだろう。
視線の先で強敵を倒したことに喜ぶ彼女たちには何となく悪いことをしてしまったとは思う。しかし、これも仕方ないことだと割り切るしかない。
三人娘から視線を外し、すぐさまもう一つの陣を設置したビルへと向かう。
わかってはいたが、魔法陣はしっかり起動してくれたようだ。陣の上で倒れ伏すエルフ耳を発見した俺はすぐさま簡易結界を起動する。
「俺は……助かった、のか……? は……ハハハッ! ようやく、俺様にも、運がめぐってきた……!! 見てろよ……
「よく倒れたままそんなこと言えるな……」
「っ!? だ、誰だてめぇ……!!」
這いつくばりながら妄想を垂れ流しているエルフ耳に一言声をかけてやると、彼は少しばかり体をこちらへと向けた。
「まあその反応は仕方ないけど、状況的にまずいことは察した方がいいぞ。それに、お前を助けたのは俺だし、お前の言う次があるとは思わないことだな」
「ガッ……!! な、なんだ、これ……!?」
拘束陣と弱化陣を同時に併用し、思考阻害陣も使用。あのドラゴンガールに破られてから改良して拘束後の変化にも対応できるようにした強化版だ。たとえこのエルフ耳が巨大なモンスターに変貌したとしても今度こそは逃がさない。
「
「……? なるほど。ということはあのドラゴンガール、俺のことを話していないのか。それはいいことを聞いた」
このエルフ耳が所属する組織の情報などはまたあとで存分に聞かせてもらうことにしよう。今は早急にこいつを連れて離れなければならない。
無音陣を喉に展開し、うるさくないようにしてから軽く電撃を浴びせて気絶させる。
「とりあえずは場所の選定か。……ドラゴンガールみたいなやつが来て救助されると面倒だし、なるべく近くで管理せにゃならんか……」
となると、旧館の倉庫とかか……? などと考えながら、俺は簡易結界を解除して一度学校へと向かうのだった。
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